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第三章 誰も寝てはならぬ

第7話「意思は力なり」※

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「あっ、ぁあ、く、んんん……っ」

 仕事を頑張ったご褒美に、フェルドの身体を思う存分堪能たんのうする。
 考えをまとめるのは後にして、今は二人で楽しむことにした。

 ……そうじゃなきゃ、息が詰まりそうだったからな。お互いに。

「ン……ッ、ぁ、あぁあっ」
「……は……っ、イイね。前ヤった時より敏感になったよなぁ?」

 胸の突起から口を離し、握りこんだ先端をクリクリといじる。
 フェルドは涙目で俺を睨み、顔を赤らめながらも反論した。

「……っ、それ、は、君の……っ、責めが……ぁあっ」

 喘ぎつつ文句を言うフェルドだったが、竿と孔を同時に弄られて背をらせる。
 随分と嫌味に育っちまったが、ベッドの上では変わらず可愛いねぇ。

「上手くなったろ?」
「ぁ、ア……ッ、褒めて、な……ぁっ、んんーっ!」

 孔を指で責め立てられ、フェルドはとろとろと蜜を溢れさせて身悶みもだえる。

「……ッ、そろそろ欲しいか? 欲しいよなぁ? こんなにグチョグチョにしてんだからよ」
「……こ、の……ッ。……っ、く……ぅう……!」

 俺が耳元で囁けば、フェルドは自分からうつ伏せになり、顔を枕に隠すようにうずめた。
 その上から覆いかぶさり、濡れた孔に竿を宛てがう。
 ずぶりと挿入すれば、小さな傷痕のある背が大きく震えた。

「んぁあっ」
「……っ、今日は一段と締まりがいいな……ッ! 昔をっ、思い出してんのかい……っ」
「う、るさい……っ、ンッ、ぁあっ!」

 パンパンと音が鳴るほど、深くまで貫いて腰を打ち付ける。

「アッ、んんんっ、ぁ、イク……っ、あぁあぁあっ」

 フェルドはガクガクと腰を揺らし、繰り返し絶頂に達する。
 俺を欲しがり、締め付けてくる孔にたっぷりと精を注いだ。

 はぁ、はぁと、熱い吐息が寝室に満ちる。
 シーツの上に散らばった黒髪をすくい上げ、その上にキスを落とした。



 ***



「吸うか?」

 テーブルの上からタバコ(の形をした薬)を取り、フェルドに差し出す。

「……ああ」

 フェルドはまだぼんやりとしつつも、手を伸ばしてそれを受け取った。

「君はいいのか」
「……胸が悪い奴の前で吸えるかよ」

 以前、こいつは「他人の煙草の匂いなど嗅ぎたくもない」と言った。
 言い方は悪かったが、タバコの煙を嫌がる理由は今ならよくわかる。

「なら、同じものを吸え」
「薬だろ、それ」
「ただの鎮痛剤だ。毒にはならない」
「……そうかい。じゃ、遠慮なく貰うぜ。ちょうど口寂しかったところでね」

 机の上の箱から一本取り出し、覚えたての魔術で火を起こそうとする。……と、「おい」と呼び止められた。

「あ?」
「……火なら、ここにある」

 自分の手の先のタバコカルマンテを指し示し、フェルドはわずかに視線を逸らす。

「は……っ、分かったよベーネ。俺の可愛いツバメちゃん」
「……ふん」

 思わずニヤけちまった俺を、藍色の瞳がじとりと睨んだ。そのままフェルドはタバコカルマンテをくわえ、ベッドから下りてくる。
 煙で赤い顔を隠したいのかね。……ったく、性格は随分とひねくれたが、可愛いところは可愛いままだ。

 俺も一本くわえ、フェルドがくわえたそれの先に近づける。
 互いの吐息も、体温も間近に感じられるほどの距離で、煙だけが二人の間をさえぎっている。

 ……正直、味は「良薬」らしくそんなに良くねぇが……
 フェルドと同じモンを吸ってると思えば、上々の気分だった。



「……さて、本題に入るか」

 灰皿にタバコの灰を落とし、話を切り出す。
 フェルドもゆっくりと煙を吐き出し、語り始めた。

「……亡き母は結核けっかくで死んだとされ、私も周りに『結核』と説明されている。ただの偶然と見ることもできるが……」
どう見る?」

 俺の問いに、フェルドは静かに頷く。

「母を同じ手段で殺めたか、母が結核で亡くなったことでのか……そのいずれかだと睨んでいる。……義母ははは、かつて衰弱した前妻を看取みとり、遺言によって後妻の立場を確固たるものにした」

 どちらにせよ、前妻マルガレーテの死を間近で見たのは、容疑者の中じゃ後妻のエレオノーラだけだ。……息子達は、その当時生まれてすらいねぇ。
 要するに、これでエレオノーラの単独犯って線が、より色濃くなったわけだ。

「……疑問だった点がある。かの『毒』は私の肺を破壊したが、喉や舌を焼きはしなかった」
「なるほどな。肺をぶっ壊すほどの毒なら、『通り道』もただれてなきゃおかしい、と」

 確かに、声は昔より低くなったが枯れた感じはしねぇ。むしろ、よく通るいい声だ。
 セックスの時も、めちゃくちゃエロい声で啼くしな。

「結核菌を利用した……と考えれば辻褄つじつまは合う。何らかの方法で肺腑はいふに侵入させ、睡眠中に爆発的に増殖させる……と言った形か」
「十中八九魔術だろうな。貴族様なら造作ぞうさもねぇだろうよ」

 それだけ格の違う「力」があるから、貴族はいつまでも上に立っていられる。
 蜂起ほうきした連中を虫けらのごとく蹴散らしながら……な。

「……君……いや、『君達』の目的も、聞かせてもらおうか」

 ……と、冷徹な声音が部屋の温度をいくらか下げる。
 言い方は冷たいが、要するに「耳を傾ける気になった」ってことだ。
 イイね。熱くなってきやがった。

大親分カーポの目的はシチリアの独立だ」

 まずは、俺「達」の目的を口にする。
 こうなりゃ、隠しておく意味もねぇ。包み隠さず、腹を割って話すかね。

「今、シチリアは隣にあるナポリ王国のオマケみてぇな存在だ。……大親分カーポ血統きぞく主義をくつがえし、力で目にもの見せてやりてぇんだよ」

 ビアッツィは「力」を求めるファミリアだ。
 純粋な暴力だけじゃねぇ。叡智えいち、弁舌、技術……あらゆる分野での「力」を貪欲どんよくに追い求め、世界の変革を望む。……それが、俺たちビアッツィのやり方だ。

「……なるほど。名門貴族ダリネーラがあれば、一見無謀むぼうな野望も夢物語ではなくなる」

 フェルドは吸殻すいがらを灰皿に押し付け、大きく紫煙を吐き出した。

「私を利用する気か、『ジャコモ・ドラート』」

 煙の向こうから、鋭い眼光が俺を射抜く。

「いいや……逆だね。俺は、

 見開かれた瞳を、しっかりと見つめ返した。

「さぁ、選びな」

 フェルドの目の前に手を差し出す。
 煙は次第に晴れ、ラピスラズリと、マラカイトの光がじかに交差する。

「お前の選ぶ道を、何がなんでも正解にしてやるよ」
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