遥かなる物語

うなぎ太郎

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第5章

人は城、人は石垣

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デュポン子爵、つまりピエールがサン=クレール市の守備を引き継ぐことは、安心材料の一つだった。ピエールとの再会は心強い反面、テルール城攻略の成功が今後の運命を左右することもわかっていた。

翌日、デュポン軍が到着した。ピエールはいつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、サン=クレール市の門をくぐり入ってきた。「シャルル、久しぶりだな。お前の奮闘ぶりは聞いていたよ。」彼は親しげに僕に話しかけた。

「ピエール、君が来てくれて本当に助かった。サン=クレール市の守備を任せるから、よろしく頼む。」僕は彼に真剣な面持ちで伝えた。ピエールは頷き、守備の引き継ぎを開始した。

デュポン軍部隊が市内に配置され、守備を引き継ぐと、僕たちはいよいよテルール城攻略に向けて出発した。

「ピエール、君が守備についてくれるから安心した。サン=クレール市の防衛は任せたよ。」僕はピエールの肩を叩きながら言った。
「心配いらない。君の成功を祈っている。テルール城の攻略が終わったら、また会おう。」ピエールは笑顔で応えた。

2日後にテルール城に到着すると、僕たちは城への攻撃を開始した。
事前の作戦に基づき、僕たちはトンネル掘削を開始した。地下を通るトンネルで城内へ侵入しようという作戦だ。
敵の目を避けつつ、僕たちはトンネルを掘り進めていった。

僕は時折、トンネル内の掘削現場を見回った。
トンネル内は薄暗く、暑苦しい空気が漂っていた。厳しい環境で、灯りを頼りに作業を進める兵士たちに、僕は励ましの言葉をかけた。
「よくやっているぞ。もう少しだ、皆。君たちの努力があれば、テルール城は必ず落とせる。」

数日後、トンネルが城の真下まで貫通した。後は精鋭部隊をトンネルから侵入させ、城門を開けさせるだけだ。
傭兵部隊の中でも精鋭中の精鋭がトンネル内に集まり、僕は慎重に指示を出した。

「これからトンネルを開ける。城内には敵の兵士がいるかもしれないから、用心して進むんだ。目的は城門を開けて、我々の部隊を内部に送り込むことだ。」と説明し、部隊に出発の合図を送った。

兵士たちは静かにトンネルの出口を開け、城内へと侵入を開始した。トンネルの出口から見えるのは、敵の警戒が薄い城内の一角だった。部隊は慎重に移動し、城内の防備を確認しながら進んでいった。

城内に部隊が入り込むと、敵の守備も次第に気づき始めたが、我々の精鋭部隊が迅速に対応し、混乱を引き起こして敵の反撃を抑えた。最終的に部隊は城門まで達し、次第に城門が開いていくのが見えた。

「進めー!」僕が声を張り上げ、ベルタン軍の主力は城内に侵入していった。
城内では敵兵が混乱しつつも抵抗を続けており、簡単に倒せるものでは無かったが、僕たちは城に侵入するまでに戦力を消耗しておらず、体力も装備も潤沢にあったために敵の抵抗を打破する力を持っていた。

城内の戦闘は熾烈を極めたが、ベルタン軍の部隊は計画的に敵の拠点を制圧していった。僕たちは敵の指揮官たちを次々と排除し、混乱に乗じて城内の重要な位置を確保していった。

「城内の防衛が崩れ始めた!このまま一気に進むぞ!」僕は部隊に声をかけ、前進を指示した。各部隊は連携を取りながら、城内の敵部隊を殲滅し、次第にテルール城を制圧していった。

やがて、城の中心部に位置する居館にたどり着くと、最後の決戦が始まった。ここでは敵の最精鋭部隊が守りを固めていたが、僕たちはそれに対抗するだけの力と準備が整っていた。

すると、馬に跨った一人の男が現れた。
「お主は誰だ?」男は僕に尋ねてきた。
「私はテルール城攻略軍の指揮官、シャルル・ベルタンである。お主は?」
「私はこの城の城主、アンリ・リシャールだ。せっかく会ったのなら、一騎討ちで決着を付けんか?」

アンリ・リシャールの挑戦に対して、僕は冷静に頷いた。「一騎討ちで決着を付けるのも悪くない。ただし、私が勝てば、テルール城は完全に我々のものとなる。」
一騎討ちと言えば、マエル・ルブランとの一騎討ちを思い出す。この一騎討ちは、僕にとって2度目のものとなるはずだ。

城内の戦闘は一時中断され、両軍の兵士たちは固唾を飲んで僕たちを見守る。
緊張感が漂う中、僕とアンリ・リシャールは決闘の準備を整えた。

「準備はいいか?」僕が問いかけると、アンリは頷き、一瞬の後に激しい剣撃が交わされた。
リシャールの攻撃は猛烈で、鋭い刃が火花を散らす。僕は冷静に防御を固めつつ、反撃の機会を伺った。

戦闘が続く中で、次第にアンリの動きに疲れが見え始めた。僕も全力を尽くし、機を見て攻撃を仕掛けた。最後の一撃でリシャールの剣が弾かれ、彼は地面に崩れ落ちた。

「降参しよう。もう終わりだ。」僕はアンリに向かって言った。彼は息を整えながらも、敗北を受け入れ、頷いた。
「お前の実力には感服した。」アンリは言い、城主としての最後の誇りを保ちながら、降伏を宣言した。

こうしてテルール城はベルタン軍の手に落ちた。既に時は夕方で、真っ直ぐな地平線に橙色の夕日は沈もうとしていた。
「アンリ、君の実力は惜しい。これから我が軍の仲間にならないか?」僕は問いかけた。

アンリは一瞬驚いた表情を見せた後、深い考えにふけりながら僕を見つめた。しばらくの沈黙の後、彼は頷いた。「あなたは勇敢で立派な人だ。それならば…あなたを主君としても良いかもしれない。」
アンリの言葉に、僕は微笑みながら答えた。「ありがとう。君の経験と知識は、我々にとって大いに役立つだろう。共に新たな未来を築こう。」

城が完全に制圧された後、僕たちは会議室へ向かった。会議にはラファエルやロジェ、ジョゼフやクロードの他に、新たな家来となったアンリも加わっていた。

「テルール城の統治について、どのように進めるかが問題ですね。」ロジェが言った。「城主のリシャールが降伏したとはいえ、リシャール軍にはまだ彼に忠誠を誓う者も多い。」

「リシャール軍自体をベルタン軍に取り込むという形では無く、アンリをシャルル様の家来として位置付けつつも、リシャール家とリシャール軍を独立させ、彼らの名誉を尊重する事が重要かもしれません。」ラファエルが言った。

「その通りだ、ラファエル。」僕は頷きながら言った。「アンリを家来として迎えることで、彼の影響力を引き続き利用しつつ、リシャール家の名誉を保ち、リシャール軍の士気を保つよう努めるつもりだ。

「確かに独立した形で運営させるという方針は賢明です。」クロードも賛同の意を示した。「私も騎士ですから彼らの気持ちは良く理解できますし、そうすることで、彼らの忠誠心を維持できるでしょう。」

「アンリ、君の意見も聞かせてくれ。」僕はアンリに問いかけた。

アンリは一呼吸置いてから、ゆっくりと口を開いた。「リシャール家としても、私たちは自分たちを新しい体制の一部として受け入れることには前向きです。ただし、リシャール家の名誉と歴史は尊重していただきたい。兵士たちにも、私たちが依然として重要な役割を果たすという確信を持たせる必要があります。」

「了解した。」僕は頷き、資料に目を通しながら続けた。「リシャール家の名誉を保ちつつ、ベルタン軍との協力体制を強化していきたい。リシャール軍の兵士たちの中には納得しておらず、捕虜となっている者もいるとのことだが、アンリ、君が説得してくれるか?」

アンリは深く頷いた。「任せてください。兵士たちには私から直接説明し、理解を得るよう努めます。私に忠誠を誓っている者たちですし、リシャール家の名誉が尊重されると聞けば、同意するでしょう。」

彼の決意に、僕は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとう、アンリ。」

会議が終了し、僕は食堂で夕食を取った。
その後、アンリが城内の賓客用の部屋を用意してくれ、部屋は快適で、暖かい灯りがほのかに照らしていた。

その夜、僕はベッドの中で、過去の対立を超え、互いを尊重し合う大切さを実感していた。
テルール城の戦いを終え、リシャール軍との新たな関係の構築が始まる中で、未来への希望が湧いてきた。
まだ戦争は終わらないが、これが平和への一歩となることを願う。

ベッドの中で、僕は戦いの疲れを癒しながら、ゆっくりと眠りについた。

続く
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