遥かなる物語

うなぎ太郎

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第4章

決戦場への行進

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僕は一人で帝都へと向かった。
冬のボルフォーヌは本当に寒い。道路も畑も雪に埋もれて見えなくなり、聳え立つ山々は氷の如く輝いていた。

王城の謁見の間には僕の他に、宰相のルロワ侯爵、モロー侯爵、シモン伯爵、ローラン侯爵、そしてピエールがいた。皇帝陛下が玉座に座ると、謁見の間はその威厳に圧倒されるように静まり返った。
陛下は深い呼吸をし、全員の視線が集中する中で口を開いた。

「皆、今日は重要な発表がある。」皇帝陛下の声は静かで、しかし確固たるものだった。

張り詰めた空気の中で、陛下は決然と宣言した。「我が帝国は大ザラリア王国の脅威を除くため、大陸統一を目指す。その為に、大ザラリア王国との開戦を決定した。」

陛下の言葉が謁見の間に響き渡り、一気に緊張感が増した。
モロー侯爵は信じられないという様な顔でこっちを見た。
確かに、これは多くの貴族にとっては納得しかねる決定だろう。

すると、宰相のルロワ侯爵が前に出て、「皇帝陛下のお言葉は、我々にとっても驚きであり、またご決意の表れでもあります。我々は陛下のご意志に従い、戦争の準備を進める所存です。」と、意外な事を述べた。

謁見の間にいた他の貴族たちも動揺を隠せずにいたが、彼の冷静な対応が場の空気を少し和らげた。モロー侯爵とシモン伯爵もそれぞれ短く頷き、ローラン侯爵は頭を抱えたまま座っていた。
ピエールは不安そうに視線を彷徨わせ、隣の席に座る僕に問いかけるように目を向けた。

陛下は続けた。「戦争は避けられない道となった。準備を進めるにあたって、官民が一体となって協力することが求められる。全ての人員と資源を最大限に活用し、この戦争に臨まねばならない。」

他の貴族たちはまだ少し動揺している様子だったが、少しずつこの大戦に向けた決意を固めている様子だった。僕たちが望もうと望まなかろうと、皇帝陛下の決定には従わなければならない。

僕も恐る恐る進み出て述べた。「私もこの事態を重く受け止めております。大ザラリア王国との戦争という難局に際し、私も全力を尽くし、帝国のために貢献する所存です。」

「君の覚悟を見せてくれて感謝する。」陛下は頷き、穏やかに言った。「この戦争は、帝国の存亡をかけたものである。全ての者が一丸となってこの困難に立ち向かわねばならない。」

その言葉が、部屋の中に響き渡ると、再び緊張感が高まった。しかし、今度は単なる恐れではなく、責任感と決意の空気が漂っていた。各貴族たちはそれぞれが自分の役割を果たす決意を新たにし始めていた。

「戦争の準備にあたっては、まず最初に兵力の増強と物資の確保を急務とする。」陛下が続けた。「その後、各地での戦略会議を行い、具体的な作戦を立てる。これに伴い、各々は自領での戦争準備に責任を持つように。」

陛下の言葉が終わると、部屋の中は再び静寂に包まれた。各々が思索に耽りながらも、戦争に向けた準備が着実に進められることを期待し、またその決意を固めていた。

「それでは、各自は早急に準備を進めるように。」陛下が最後に言い、「これからの戦いでの成功を祈る。」と、謁見の終了を告げた。
僕たちは一斉に頭を下げ、謁見の間を後にした。

ボルフォーヌに戻った僕はある夜、ラファエル、ロジェ、ジョゼフ、クロード、ジャンを応接間に呼んで今後について話し合った。

僕は自分の椅子に腰を下ろし、皆を見渡してから、話を切り出した。「皇帝陛下が開戦を決定された。ボルフォーヌとヴァロンは国境から離れているとは言え、大領主となった我がベルタン家も動員されることは間違いない」

ラファエル、ロジェ、ジョゼフ、クロード、そしてジャンが真剣な面持ちで僕を見つめていた。僕は言葉を続けた。「まずは、ベルタン軍の強化だ。兵士の訓練を強化し、新兵の徴募も進める必要がある。また、兵站体制の整備も忘れてはいけない。」

ジャンが言った。「現時点では、既存の兵力だけでは不十分です。新たな兵士を徴募し、戦力として活用するために、彼らの訓練を迅速かつ効果的に進めなければなりません。」

ロジェが質問した。「兵站体制の整備については、具体的にどのような対策が必要ですか?」
「兵站体制は、物資輸送や通信、医療などの面から整備する必要がある。」僕は答えた。

「物資輸送に関しては、前線と後方の連携を強化し、物資が途切れることのないようにする。通信面についても重要だ。早馬だけでは漏洩の危険があるから、暗号システムの構築も急がねばならない。また、組織的な医療部隊を結成し、戦場での負傷の治療や、衛生管理に努める必要がある。」

会議の後、僕たちはベルタン軍の戦争に向けた準備を進めていった。
戦争までの期間、僕たちの生活は一応平穏なものだった。僕は午前中に領地の仕事を片付ける。送られてくる書類に目を通し、訴状を決裁し、午後になると兵士たちの訓練を行った。騎士軍の訓練はクロードが行ってくれた。

しかしその間にも、帝国と大ザラリア王国の緊張は深まっていった。
春に入って不可侵条約を結ぼうという動きが広まり、一時雪解けの気分が高まったが、王国が交渉を打ち切ったことで、戦争が間近に迫っていることを人々も認識し始めた。

一方、夏が近づき、新たな命を宿したマリーのお腹はどんどん大きくなっていった。僕たちは彼女の体調を気遣い、できる限りのサポートをしながら、戦争の準備と家族の両立に奮闘していた。

また僕は、ヴァロンの領地にも頻繁に出向き、軍部隊の視察を行っていた。ヴァロンの人々はもう僕たちに敵意など持っておらず、協力的な態度を示していた。

5月下旬、皇帝陛下の勅令でスラーレン帝国軍に総動員がかけられ、急激に戦争の足音が大きくなっていた。マリーの出産も近づき、彼女の体調を気にしながらも、戦争の準備が進められていた。彼女の安全と健康を最優先に考え、医師や助産師の手配も行っていた。

そして6月に入り、スラーレン帝国は大ザラリア王国に宣戦布告した。
史上最大の世界大戦の火蓋は切られた。

続く
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