遥かなる物語

第2章

戦乱の足音

ボルフォーヌに帰還した僕は、戦争に対する準備を開始した。ここボルフォーヌは直接は他国と国境を接してはいないが、隣接するポリアーヌ地域はラロニア共和国と国境を接している。もし全面戦争になれば、ベルタン軍も召集されることはほぼ間違いない。

その日から、僕は毎日練兵場を訪れ、訓練の視察や指導にあたった。また、屋敷の会議室では腹心達と共に、有事の際の対応を検討していた。

今僕は会議室の椅子に腰を下ろし、ボルフォーヌ周辺を描いた大きな地図を眼前にしている。
「ラファエル、万が一我が軍が出動することになったら、ラロニアとの前線に派遣されるだろうね？」
ラファエルはベルタン家の家臣でも筆頭格。代々ベルタン家に仕えている家柄で、知恵と経験でベルタン家を支えてきた。

「はい、シャルル様、ポリアーヌが戦場になるとすれば、その確率は高いでしょうね。ラロニア共和国との国境は比較的近く、戦略的に重要な地域ですから。」
「ポリアーヌは平原地帯で伏兵や罠といった戦略も使いにくし、この辺りの貴族の軍勢も兵数は多くない。直接戦闘になった場合、敗北する危険性は高いのではないか？」

ラファエルは真剣な表情で答えた。「ベルタン家の軍勢は小規模ですが、精鋭揃いです。我々の優れた指揮官と軍団があれば、敵に挑むことも可能です。」
「確かに、ポリアーヌの平原であれば、我が軍の騎士が大いに活躍できるだろう。速度と機動力を活かして、敵の側面や後方に打撃を与えることができる。」

結局結論が出ないまま今日の議論も終わり、僕は自室に戻った。戦乱の足音は確実に迫っている。開戦までに軍隊が整わなければ、多くの死傷者が出る。また領内の人々にも警戒と準備を呼びかけることも必要だった。

「軍の準備は進んでいるが、まだ不安要素も多いな」と、僕は自室で考えながら筆を走らせた。戦乱の足音が聞こえるる中、領民たちに安全を保障する責任もある。軍を訓練し、戦略を練り、同時に領民へ防衛計画を明確に伝える必要がある。

「これを印刷して、各町や村の役場に配布して欲しい」
僕は家来のロジェに防衛計画の書かれた紙を渡した。
「承知致しました」ロジェは頷いた。

防衛計画には、各町や村毎に敵軍が襲来した際の避難経路を決めることや、地域防衛隊の組織、そして医療・食料の確保方法などを詳細に記していた。ロジェは迅速に行動し、計画を町や村の指導者たちに手渡した。

ある日僕が地図を見て、有事の際の部隊の配置を考えていると、妹のルネがやってきた。
「お兄様、最近遊んでないでしょ？遊ぼうよ～」
「ごめんねルネ、今は少し忙しいんだ。戦争の準備でみんなバタバタしてるからね」と、僕は地図を片手に笑顔で答えた。

ルネは大きな瞳で僕を見つめた後、少し考え込んだ表情で言った。「お兄様、戦争って怖いことだけど、私も何かできることがあるかな？」

彼女の真剣な表情に、僕はやさしく微笑んだ。「ルネ、君はとても賢いんだから、この屋敷の安全を守ることが一番大切なことなんだ。みんなが安心して生活できるように、ちゃんとお手伝いしてくれるかな？」
ルネは少し考えた後、小さく頷いた。「わかった！私、お手伝いする！」と元気よく言った後、屋敷の中に駆け出していった。

彼女の姿を見送りながら、僕は心の中で彼女の成長を感じた。戦争という現実が迫っている中で、家族や屋敷の一員としての責務を理解し、それを果たそうとする彼女の姿に、誇りと安心を感じた。

また僕は、アダン、ピエール、フィリップやマリーと頻繁に手紙で連絡をとっていた。彼らもまた、戦乱の足音が聞こえる中、家族や領地を守るための準備や計画を進めていた。

マリーは手紙の中で、「私は女性なので戦地へ赴くことはできませんが、私にもできることがあると信じています。父や軍隊の皆さんが戦場で頑張っている間、私はここで家族や町の人々を支援し、励まし続けます。食料や医薬品の調達、避難計画の立案など、私にも役割があります。そして、私の祈りは、戦場での皆さんの安全と勝利に向けて絶えません。力を合わせて、この試練を乗り越えましょう。」と書いていた。

仲間との強い絆があることで、心にひと安心。アダンのロベール家の領地がボワポール公国と国境を接している状況は心配だったが、他の貴族の軍勢がロベール領に集結すると聞き、少し安堵した。

そして重要なのは、この一戦が僕の初陣になるということだった。父上は既に世になく、僕が皆を引っ張っていかなければならないことは少し不安だった。それでも、この戦争には絶対に勝たなければならない。亡き父上のためにも、ベルタン家再興のためにも、必ず前を向いて立ち向かう。

戦争の影がボルフォーヌを覆い始めても、僕たちは一致団結して準備を進めていた。皆の命と幸せを守るために、そして、戦場での勝利を信じて。

そしてある日、ついに帝都から一報が届いた。
「我がスラーレン帝国、3カ国連合に対して宣戦布告せり」

続く