踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi

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一章

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 突然どこからか名前を呼ばれ困惑する。
 するとーー

 バン!!

 という音と共に天井裏へと続く点検口の蓋が蹴落とされ、目の前に殿下の影と同じ装束の人物が現れた。
 驚きに目を見開いていると、彼は最初はゆっくり、けど近づくにつれ焦るように駆け寄ってきて。

 わたくしを、かきいだいた。

「……で……ん、か?」

 呼びかけると、ハッとしたように離れて一歩下がり、ベッドのそばでくずおれるようにして膝をつく。
 ホッとした表情をしたかと思うと次の瞬間には怒りに支配され、次いでーー眉毛が下がり、まるで痛みを抱えてぐっと耐えているかのような顔をした。
 そして、祈るように両手を組んだかと思うとそれをベッドの端につけ、自分の頭を下げたのだった。

「っ、すまない、メルティ。俺のっ……力が足りないばかりにっ!!」

 ……殿下は、泣いているようだった。

「気に病まないでくださいまし、それは殿下のせいでは無く、心無い事を実際にしている者のとがだと、わたくし思います」
「だがきっと、それだけなら君はこんな目に遭っていないっ!!!!」

 殿下が怒鳴る。
 その何かが千切られるような気持ちの入った、強い言葉に私は息をのむ。
「…………実は今、大きな捕物とりものを控えている。そいつらが、あのクソ野郎を多分……そそのかしたんだろう……」
「……何故、わたくしが標的に?」

 言葉裏に、学院であれだけ決裂させたのに、という気持ちを乗せて思わず言うと、お父様が口を開いた。

「それは私が説明しよう。……実は秘密裏に、お前と殿下の婚約は結ばれたままになっている。各部署で偽装し婚約解消をした風にはしたが……どうやら酒の席でうっかり口を滑らしたらしい。漏らした者は減俸させておいた」

 全く、王命であり秘密裏にと言ったのに右から左に流しおって、とお父様はぶつくさ言っている。
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