上 下
1 / 39

1 悪女は潔白を叫ぶ

しおりを挟む
「ひと思いに殺せ! 私はそしられるようなことはしていないがな!」

 私は腹の底から全力で自分の潔白を口にした。

「黙れ悪女!!」

 反抗的な態度に、刑執行官に押さえつけられ脇腹を蹴られる。

「かはっ……!」

 手は後ろで拘束され膝をつきくの字に曲がった体の先。
 頭は、台の上にあり逃げることもできない。

 口調が荒いのは許してほしい。
 なにせ命がかかっている。
 ここは王国の精神的最果て、処刑場だ。
 ギロチンに首吊り、引きずり回すための馬などありとあらゆる苦痛集まる場所である。

 石積みとモルタルで円形に整えられた鉢底のようなそこは、周りをぐるりと腰掛けられる席が設けられ今、観衆がはちきれんばかりだ。
 遠くその表情は窺い知れないが、処刑場は現在私を眺める者の怒号がひしめいている。

 そうした中、私の首はギロチン台にかけられ別れの時を待つばかりだった。

 思い返す。
 あの時が運命の分かれ目だったのかもしれない。
 彼と出会ったあの時が――



「ぼくはウィリー=タングトン、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたしますね、おうたいしでんか!」

 勢いよく返事をし桃色ドレスのスカートの端をつまんで、綺麗に結いあげられた頭をぎこちなく下げる。
 銀髪に映えるようにと選ばれた紅色の宝石のついた髪飾りが、しゃららんと鳴った。
 そうやって覚えたての挨拶の仕草をしたのは、六歳になるこの国の第一王子に対してだった。

 それは次期国王となる王太子の、学友や婚約者を選定する場だったらしい。
 歳近い子供を集めたお茶会は当時の私にとって、見たこともないお菓子に香り立つお茶、煌びやかな衣装の数々に来たことのない白亜のお城と、その年頃の女子が目をキラキラさせるには十分で。

 まだ世間も知らなかったから、その会でのきちんとした振る舞いも何も全くわかっていなかった。

 だから挨拶もそこそこに、王子が私の手を取るといきなり走り出したのに、ただついていって。
 秘密の場所だという彼のお気に入りを紹介してもらうがままだった。

「わぁ! すごいですねおうたいしでんか。私こんなにいろんな色のお花を見たの、はじめてです!」
「そうだろ。ぼく花を育てるのが好きなんだ!」

 そう言って自身が花のように笑ったのに、私もなんだか嬉しくなって微笑み返した。
 キラキラと光を反射した金色の髪と、本当の花のような赤い色の瞳がとても、それはとても綺麗だった。




 ※ ※ ※



「――以上の理由から、シュテール公爵家が御息女、ウルム=シュテール嬢をウィリー王太子殿下の婚約者とする。異論のあるもの」

 静寂が辺りを包む。
 誰も反対するものはいないらしい。

 王族、そして国の政を担う大臣たちがつどう王城の会議室。
 赤い絨毯に円形の大きな輪を描くような形のテーブルに、それぞれ大臣たちが座っている。
 国王はその部屋の一段高い位置からその各々の様子を眺めていた。
 その広間で今、国の行く末に関係する次期国王である王太子、ウィリー第一王子殿下の婚約者を誰にするか最終的な話し合いが行われていて。
 私を含め最終的に人数を絞られた少女三名が、両親同伴で壁にそって並んでいた。

 それまでに本人達には知らされず、それとなく王子と子女との交流は設定され、面通しはすんでいる。
 今日はその末の結論を、出す日となっていた。
 広間に集められた各々は、いろいろな思惑をはらみつつも、王子の意向もあり結局のところ満場一致で決まったようだ。

 そうして十二の時、国王及び王妃両陛下やなみいる大臣たちのその前で、私と王太子殿下の婚約は整ったのであった。



「……私の意志が反映されていないわ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

処理中です...