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1 悪女は潔白を叫ぶ
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「ひと思いに殺せ! 私は謗られるようなことはしていないがな!」
私は腹の底から全力で自分の潔白を口にした。
「黙れ悪女!!」
反抗的な態度に、刑執行官に押さえつけられ脇腹を蹴られる。
「かはっ……!」
手は後ろで拘束され膝をつきくの字に曲がった体の先。
頭は、台の上にあり逃げることもできない。
口調が荒いのは許してほしい。
何せ命がかかっている。
ここは王国の精神的最果て、処刑場だ。
ギロチンに首吊り、引きずり回すための馬などありとあらゆる苦痛集まる場所である。
石積みとモルタルで円形に整えられた鉢底のようなそこは、周りをぐるりと腰掛けられる席が設けられ今、観衆がはちきれんばかりだ。
遠くその表情は窺い知れないが、処刑場は現在私を眺める者の怒号がひしめいている。
そうした中、私の首はギロチン台にかけられ別れの時を待つばかりだった。
思い返す。
あの時が運命の分かれ目だったのかもしれない。
彼と出会ったあの時が――
「ぼくはウィリー=タングトン、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたしますね、おうたいしでんか!」
勢いよく返事をし桃色ドレスのスカートの端をつまんで、綺麗に結いあげられた頭をぎこちなく下げる。
銀髪に映えるようにと選ばれた紅色の宝石のついた髪飾りが、しゃららんと鳴った。
そうやって覚えたての挨拶の仕草をしたのは、六歳になるこの国の第一王子に対してだった。
それは次期国王となる王太子の、学友や婚約者を選定する場だったらしい。
歳近い子供を集めたお茶会は当時の私にとって、見たこともないお菓子に香り立つお茶、煌びやかな衣装の数々に来たことのない白亜のお城と、その年頃の女子が目をキラキラさせるには十分で。
まだ世間も知らなかったから、その会でのきちんとした振る舞いも何も全くわかっていなかった。
だから挨拶もそこそこに、王子が私の手を取るといきなり走り出したのに、ただついていって。
秘密の場所だという彼のお気に入りを紹介してもらうがままだった。
「わぁ! すごいですねおうたいしでんか。私こんなにいろんな色のお花を見たの、はじめてです!」
「そうだろ。ぼく花を育てるのが好きなんだ!」
そう言って自身が花のように笑ったのに、私もなんだか嬉しくなって微笑み返した。
キラキラと光を反射した金色の髪と、本当の花のような赤い色の瞳がとても、それはとても綺麗だった。
※ ※ ※
「――以上の理由から、シュテール公爵家が御息女、ウルム=シュテール嬢をウィリー王太子殿下の婚約者とする。異論のあるもの」
静寂が辺りを包む。
誰も反対するものはいないらしい。
王族、そして国の政を担う大臣たちがつどう王城の会議室。
赤い絨毯に円形の大きな輪を描くような形のテーブルに、それぞれ大臣たちが座っている。
国王はその部屋の一段高い位置からその各々の様子を眺めていた。
その広間で今、国の行く末に関係する次期国王である王太子、ウィリー第一王子殿下の婚約者を誰にするか最終的な話し合いが行われていて。
私を含め最終的に人数を絞られた少女三名が、両親同伴で壁にそって並んでいた。
それまでに本人達には知らされず、それとなく王子と子女との交流は設定され、面通しはすんでいる。
今日はその末の結論を、出す日となっていた。
広間に集められた各々は、いろいろな思惑をはらみつつも、王子の意向もあり結局のところ満場一致で決まったようだ。
そうして十二の時、国王及び王妃両陛下やなみいる大臣たちのその前で、私と王太子殿下の婚約は整ったのであった。
「……私の意志が反映されていないわ」
私は腹の底から全力で自分の潔白を口にした。
「黙れ悪女!!」
反抗的な態度に、刑執行官に押さえつけられ脇腹を蹴られる。
「かはっ……!」
手は後ろで拘束され膝をつきくの字に曲がった体の先。
頭は、台の上にあり逃げることもできない。
口調が荒いのは許してほしい。
何せ命がかかっている。
ここは王国の精神的最果て、処刑場だ。
ギロチンに首吊り、引きずり回すための馬などありとあらゆる苦痛集まる場所である。
石積みとモルタルで円形に整えられた鉢底のようなそこは、周りをぐるりと腰掛けられる席が設けられ今、観衆がはちきれんばかりだ。
遠くその表情は窺い知れないが、処刑場は現在私を眺める者の怒号がひしめいている。
そうした中、私の首はギロチン台にかけられ別れの時を待つばかりだった。
思い返す。
あの時が運命の分かれ目だったのかもしれない。
彼と出会ったあの時が――
「ぼくはウィリー=タングトン、よろしくね!」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたしますね、おうたいしでんか!」
勢いよく返事をし桃色ドレスのスカートの端をつまんで、綺麗に結いあげられた頭をぎこちなく下げる。
銀髪に映えるようにと選ばれた紅色の宝石のついた髪飾りが、しゃららんと鳴った。
そうやって覚えたての挨拶の仕草をしたのは、六歳になるこの国の第一王子に対してだった。
それは次期国王となる王太子の、学友や婚約者を選定する場だったらしい。
歳近い子供を集めたお茶会は当時の私にとって、見たこともないお菓子に香り立つお茶、煌びやかな衣装の数々に来たことのない白亜のお城と、その年頃の女子が目をキラキラさせるには十分で。
まだ世間も知らなかったから、その会でのきちんとした振る舞いも何も全くわかっていなかった。
だから挨拶もそこそこに、王子が私の手を取るといきなり走り出したのに、ただついていって。
秘密の場所だという彼のお気に入りを紹介してもらうがままだった。
「わぁ! すごいですねおうたいしでんか。私こんなにいろんな色のお花を見たの、はじめてです!」
「そうだろ。ぼく花を育てるのが好きなんだ!」
そう言って自身が花のように笑ったのに、私もなんだか嬉しくなって微笑み返した。
キラキラと光を反射した金色の髪と、本当の花のような赤い色の瞳がとても、それはとても綺麗だった。
※ ※ ※
「――以上の理由から、シュテール公爵家が御息女、ウルム=シュテール嬢をウィリー王太子殿下の婚約者とする。異論のあるもの」
静寂が辺りを包む。
誰も反対するものはいないらしい。
王族、そして国の政を担う大臣たちがつどう王城の会議室。
赤い絨毯に円形の大きな輪を描くような形のテーブルに、それぞれ大臣たちが座っている。
国王はその部屋の一段高い位置からその各々の様子を眺めていた。
その広間で今、国の行く末に関係する次期国王である王太子、ウィリー第一王子殿下の婚約者を誰にするか最終的な話し合いが行われていて。
私を含め最終的に人数を絞られた少女三名が、両親同伴で壁にそって並んでいた。
それまでに本人達には知らされず、それとなく王子と子女との交流は設定され、面通しはすんでいる。
今日はその末の結論を、出す日となっていた。
広間に集められた各々は、いろいろな思惑をはらみつつも、王子の意向もあり結局のところ満場一致で決まったようだ。
そうして十二の時、国王及び王妃両陛下やなみいる大臣たちのその前で、私と王太子殿下の婚約は整ったのであった。
「……私の意志が反映されていないわ」
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