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50. 調べるんです

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 その日の夕方、私は前からやりたいと思っていたしきたりについての調査をすることにしました。
 セルマンに頼んで、倉庫の鍵を開けてもらいます。
 がちゃり、と音がして開いたそこは、もう随分ときちんとした掃除をしていないのかむわっと埃っぽい空気が出てきました。
 予測はしていたので布を口に巻いており、ほこりを直に吸うのはまぬがれます。
 一歩中へ足を踏み込むと、古いものが持つ古い匂いとまとう歴史という空気の重厚じゅうこうさが、肩へとのしかかった気がしました。
周りを見渡すと、骨董的価値のありそうな食器が所狭しと並んだガラス棚や、何が入っているのかわからないような大きな箱が、雑然と収められています。

「お嬢様、書物の類いは奥の棚にございます。お足元にお気をつけください」

 そう言ってセルマンは、先頭に立って案内をしてくれます。

「セルマンはここへ入ったことがあるの?」
「こういったものは年々増えていきますので、年数回旦那様と一緒に整理したり処分する際には」

 慣れた様子を確かな足取りに見てとりながら、彼の後ろについて行きます。
 しばらく歩くと彼の言った通りの場所に書架が見えてきました。
 最近の本の型のものから、紐で閉じられた文字通り書物とでも言った方がいいようなものまで、多種の先人達の息遣いがそこにあるようです。

「結構数がありますね、これは」
「ジュラルタ家は古くからある名家でございますから」
「案内ありがとう。後は私がきちんと鍵を閉めるから、セルマンは自分の仕事に戻ってください」
「畏まりました。あまり根を詰められませぬよう」
「わかりました、ありがとう」

 セルマンが下がった後で、私は膨大ぼうだいな資料を前に気合を入れます。

「よし、始めましょうか!」

 なるべく一番古い文献にあたりたいので、一枚紙を閉じたような部類から五、六冊選んで、一つ一つぱらぱらとめくっていきます。

 どれくらい経ったでしょうか。
 何十冊も出して確認し収めを繰り返し、次を出そうとしたその時、ふっと視界の端に気になる書物を見つけます。
 吸い込まれるように近づいて書架から取り出すと、ぱらりとページを捲りました。

「……日記?」

 どうやら、ご先祖様のどなたかが書いた日記のようです。
 お父様に許可をもらっていることもあり、あったあたりの似たような書物をごっそり引き抜き、腰を据えて読み込むため自室へと持ち出すことにしました。
 食後の寝る前に、早速目を通し始めます。
 なにぶん古い物ですので、傷んで損なってしまわないよう慎重に気を付けて読み進めていきました。



 その夜、


「……それでは、君はずっと俺を好いてくれていた、と?」
「はい、ずっとお慕いしておりましたの。どうぞ、身も心も貴方様のものにしてくださいませ」
「俺もずっと前から愛している。家のことで君には辛い思いをさせてしまってすまなかった」
「いいえ、いいえっ。貴方様は何もっ……どうか、あの方のおぞましい記憶を貴方様で塗り替えてくださいまし」
「……!!」


 不穏な男女の会話がなされているともつゆ知らず、私は小さな小さな希望を胸に、ベッドへと入ったのでした。
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