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軍人さんは怒り心頭
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「はぁ!?今なんと言った!」
常態は”氷の女帝”とまで称される感情を表さないジェーンが、声を荒げてダンバートに掴みかかった。このような姿を目にしたら先ほどの青年などは仰天してしまうに違いない。
「積極的だね」
ダンバートは襟首を掴まれてるにも関わらず、笑顔を浮かべてジェーンの手を掴んだ。
「なっ…!触るな!」
ジェーンはすぐさま手を振り払った。
「自分だけ触っといてそれはないよ。平等が一番なのに」
ダンバートはつまらなそうに肩を竦め、両手を横に開いた。
「黙れ。お前の行動には不純な動機が見える」
「おお、俺のこと良く分かってるね」
「だから、取引なんだって。君は受けなきゃいけない。ああ勿論、”これ”がどうだって良いなら受けなくても良いよ?…とはいえ、シェフィールド少将閣下には無理だろうけど」
ダンバートは無作法にテーブルに腰をかけると、お得意の隙の無い胡散臭い笑みを浮かべ右手の人差し指で、ジェーンの手にある紙を指差した。
すす汚れた茶のコートに安っぽいズボン、白いが皺の寄ったシャツは第三ボタンまで開いており、装飾品といえば小さな翡翠色の石のネックレスと同じく翡翠の指輪が数個と遠慮がちにあるだけ。
これぞ浮浪者と言っていいほどの身なり。
だが、彼にはそれが違和感なく嵌り切っている。さらにはおかしなことに、威圧感や妖艶ささえも感じてしまうほどだ。認めたくはないが、それがダンバートという男の魅力なのであろう。
「…もう一度、お前の要求を言え」
「やだな。要求だなんて。簡単な取引だって」
「意味合いは同じだ」
ダンバートはジェーンに自然な動作で近づくと、長身を曲げて顔を寄せた。
「君が求めるなら何度だって言ってあげる。――俺を国王の魔術師にしろ」
「…二度聞いても、同じように腹が立つな」
その距離を気にすることなく、ジェーンは表情を動かさずにダンバートを睨みつけた。
「そう?なに、些細なことじゃないか。俺がそれに見合った能力を持ち合わせていることは、君が良く知っているはずだろう?」
ジェーンの態度に気を良くしたのか、ダンバートはジェーンの両肩に両手を置いた。
「お前、自分がどう呼ばれているのか分かっているか」
「なんだっけ。国一有名な魔法使い?それとも、国一美形な魔法使いだっけ?」
「……国一最悪最低なペテン師だ」
「そこは魔法使いにしてほしいよね。俺、魔法使いだから」
はたから見ると、恋人同士が見つめ合っているようである。そのことを本人たちは知っているのか、知らないのか。
「文句を言うな。図々しい。…否定はしないということは、最低最悪である自覚はあるらしいな」
両肩に置かれた手を横目で見ると、嫌そうな顔をしてジェーンはそう吐き捨てた。
「いーや、自覚じゃなくて。俺は生きたいように生きているだけだからね。この生き方が捉えようによっては、色々な評価が出来ると思うだけ」
「詭弁を」
ジェーンはダンバートの手を振り払い、腕を組んだ。
「…仕方ない。お前は言い出したら頑固だ。不本意ながら、私の権限で出来る限りのことをしてみよう」
「ジェーン!!受けてくれるか!」
瞬間、ダンバートは笑みを浮かべ飛びついて来たが、ジェーンは華麗な身のこなしで避ける。
「黙れ。そのかわり、その軽薄な態度を改めろ!」
「もう、ジェーンちゃん。そんなことしたら俺じゃなくなっちゃうじゃん。無理だって」
「………だったら、黙れ!」
コイツをどうにかしてほしいと、切に願うジェーンだった。
常態は”氷の女帝”とまで称される感情を表さないジェーンが、声を荒げてダンバートに掴みかかった。このような姿を目にしたら先ほどの青年などは仰天してしまうに違いない。
「積極的だね」
ダンバートは襟首を掴まれてるにも関わらず、笑顔を浮かべてジェーンの手を掴んだ。
「なっ…!触るな!」
ジェーンはすぐさま手を振り払った。
「自分だけ触っといてそれはないよ。平等が一番なのに」
ダンバートはつまらなそうに肩を竦め、両手を横に開いた。
「黙れ。お前の行動には不純な動機が見える」
「おお、俺のこと良く分かってるね」
「だから、取引なんだって。君は受けなきゃいけない。ああ勿論、”これ”がどうだって良いなら受けなくても良いよ?…とはいえ、シェフィールド少将閣下には無理だろうけど」
ダンバートは無作法にテーブルに腰をかけると、お得意の隙の無い胡散臭い笑みを浮かべ右手の人差し指で、ジェーンの手にある紙を指差した。
すす汚れた茶のコートに安っぽいズボン、白いが皺の寄ったシャツは第三ボタンまで開いており、装飾品といえば小さな翡翠色の石のネックレスと同じく翡翠の指輪が数個と遠慮がちにあるだけ。
これぞ浮浪者と言っていいほどの身なり。
だが、彼にはそれが違和感なく嵌り切っている。さらにはおかしなことに、威圧感や妖艶ささえも感じてしまうほどだ。認めたくはないが、それがダンバートという男の魅力なのであろう。
「…もう一度、お前の要求を言え」
「やだな。要求だなんて。簡単な取引だって」
「意味合いは同じだ」
ダンバートはジェーンに自然な動作で近づくと、長身を曲げて顔を寄せた。
「君が求めるなら何度だって言ってあげる。――俺を国王の魔術師にしろ」
「…二度聞いても、同じように腹が立つな」
その距離を気にすることなく、ジェーンは表情を動かさずにダンバートを睨みつけた。
「そう?なに、些細なことじゃないか。俺がそれに見合った能力を持ち合わせていることは、君が良く知っているはずだろう?」
ジェーンの態度に気を良くしたのか、ダンバートはジェーンの両肩に両手を置いた。
「お前、自分がどう呼ばれているのか分かっているか」
「なんだっけ。国一有名な魔法使い?それとも、国一美形な魔法使いだっけ?」
「……国一最悪最低なペテン師だ」
「そこは魔法使いにしてほしいよね。俺、魔法使いだから」
はたから見ると、恋人同士が見つめ合っているようである。そのことを本人たちは知っているのか、知らないのか。
「文句を言うな。図々しい。…否定はしないということは、最低最悪である自覚はあるらしいな」
両肩に置かれた手を横目で見ると、嫌そうな顔をしてジェーンはそう吐き捨てた。
「いーや、自覚じゃなくて。俺は生きたいように生きているだけだからね。この生き方が捉えようによっては、色々な評価が出来ると思うだけ」
「詭弁を」
ジェーンはダンバートの手を振り払い、腕を組んだ。
「…仕方ない。お前は言い出したら頑固だ。不本意ながら、私の権限で出来る限りのことをしてみよう」
「ジェーン!!受けてくれるか!」
瞬間、ダンバートは笑みを浮かべ飛びついて来たが、ジェーンは華麗な身のこなしで避ける。
「黙れ。そのかわり、その軽薄な態度を改めろ!」
「もう、ジェーンちゃん。そんなことしたら俺じゃなくなっちゃうじゃん。無理だって」
「………だったら、黙れ!」
コイツをどうにかしてほしいと、切に願うジェーンだった。
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