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君は俺にとって幻の魔石だ
蒼の君の謝罪
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「君の兄は、ライドール家の次期当主なんだろう?」
「ええ、そうです。と言っても、兄が配偶者を持つか分からないので兄の代でライドール家はなくなるかもですけど」
エドモンドは再び義兄のことを尋ねてきた。
そんなにあの義兄が気になるのだろうか。
「…なんだそれは。ライドール家は風変わりな一族として有名であるが、さすがにそれはないだろう」
エドモンドはオリヴィエの言葉に首をひねっている。
「えーっと、我が家にも事情がありまして。兄はこれからは芸術だ!とか言って芸術をやりたがってますし、どうなるやら」
あの義兄はどうにかならないのか。
今朝、この脈絡のない宣言を聞いたときには「芸術…?」と、養父とオリヴィエで無言になった。普段から無言の養父はともかく、オリヴィエは反応に困ったのである。ライドール家は子どものやることにあまり口を出さないが、ハーデスが勢い勇んで「母にも伝えてくる!」と叫んでいたから、養母に勝てるよう祈っておこう。
「俺に隠し事か」
「え?いや、そんなことは…。蒼の君にだったら話してもいいんでしょうけど、私の一存で親族以外に話すのはちょっと」
エドモンドからそんな反応が返ってくると思っていなかったオリヴィエは慌てた。
オリヴィエにとって、この場にいるエドモンドは国王ではなく宮殿の通りすがり“蒼の君”である。だからこそ友人に接するようにしてしまったのだが…まずかっただろうか。
自分のことならある程度まで話せるが、義兄のこととなると下手をすればライドール家の問題になりかねない。あんな義兄でも長男であり次期当主。国王相手であれば話して良いのだろうが、勝手な判断で友人という立場の人間に話すことがためらわれたのだ。
「……気に入らないな」
「すみません。…許可を取ってきます」
「いや、いい。そうでなくてな。まあ、ライドール家のことなら機会があれば知れるんだろう?なら無理して知ることもない」
「そうですね…恐らくは。でも、気分を害したようで申し訳ありません」
「俺こそ家族のことに立ち入って悪かった」
オリヴィエは片眉を上げた。
聞きなれない言葉がこの男の口から出たような…。
「──蒼の君も謝るんですね」
「ん?悪いと思えば謝るぞ?」
オリヴィエの微妙な反応に、エドモンドはしかめっ面をした。エドモンドは悪いと思えば謝る。
その頻度が比較的、人より少ないだけだ。
「そうですねー。人として当然ですもんね」
「君は心の中で俺のことをバカにしてるだろう」
「えっ、してませんよ。蒼の君をそんなぞんざいに扱う訳がないじゃないですか」
胡散臭くて性格が悪い、とは思ってるけど。
ハーデスは未だ屋敷に滞在している。ライドール家の長男であり次期当主にこの言い方は不自然だが、1年のうち屋敷に1ヶ月もいないため本人が「この屋敷には滞在しにきているようなもんだ!」と声高らかに言っていた。
それからはライドール家ではハーデスが屋敷に帰るのは“滞在”扱いという、暗黙の了解ができている。
「で?この前の質問の答えは出た?妹よ」
「…何のこと?」
「誤魔化さない。分かってるだろ?」
「はぁ…分かってる、よ」
近づいてくるハーデスのにやにやとした顔を手を使って上手い具合にかわしながら、オリヴィエはため息をつく。
「ふーん。その様子じゃ、考えたけど答えが出てないってところだね。私もその人に会ってみたいなぁ。父は知っているようだし」
「嫌」
ハーデスの言い回しに嫌な予感を感じたオリヴィエは先に拒否を示した。
「まだ何にも言ってないだろ。会わせてくれなんて!」
ハーデスは両手を広げ、首を横に振る。
「今、言ったね」
「会わせてくれ!」
「嫌」
「ええ、そうです。と言っても、兄が配偶者を持つか分からないので兄の代でライドール家はなくなるかもですけど」
エドモンドは再び義兄のことを尋ねてきた。
そんなにあの義兄が気になるのだろうか。
「…なんだそれは。ライドール家は風変わりな一族として有名であるが、さすがにそれはないだろう」
エドモンドはオリヴィエの言葉に首をひねっている。
「えーっと、我が家にも事情がありまして。兄はこれからは芸術だ!とか言って芸術をやりたがってますし、どうなるやら」
あの義兄はどうにかならないのか。
今朝、この脈絡のない宣言を聞いたときには「芸術…?」と、養父とオリヴィエで無言になった。普段から無言の養父はともかく、オリヴィエは反応に困ったのである。ライドール家は子どものやることにあまり口を出さないが、ハーデスが勢い勇んで「母にも伝えてくる!」と叫んでいたから、養母に勝てるよう祈っておこう。
「俺に隠し事か」
「え?いや、そんなことは…。蒼の君にだったら話してもいいんでしょうけど、私の一存で親族以外に話すのはちょっと」
エドモンドからそんな反応が返ってくると思っていなかったオリヴィエは慌てた。
オリヴィエにとって、この場にいるエドモンドは国王ではなく宮殿の通りすがり“蒼の君”である。だからこそ友人に接するようにしてしまったのだが…まずかっただろうか。
自分のことならある程度まで話せるが、義兄のこととなると下手をすればライドール家の問題になりかねない。あんな義兄でも長男であり次期当主。国王相手であれば話して良いのだろうが、勝手な判断で友人という立場の人間に話すことがためらわれたのだ。
「……気に入らないな」
「すみません。…許可を取ってきます」
「いや、いい。そうでなくてな。まあ、ライドール家のことなら機会があれば知れるんだろう?なら無理して知ることもない」
「そうですね…恐らくは。でも、気分を害したようで申し訳ありません」
「俺こそ家族のことに立ち入って悪かった」
オリヴィエは片眉を上げた。
聞きなれない言葉がこの男の口から出たような…。
「──蒼の君も謝るんですね」
「ん?悪いと思えば謝るぞ?」
オリヴィエの微妙な反応に、エドモンドはしかめっ面をした。エドモンドは悪いと思えば謝る。
その頻度が比較的、人より少ないだけだ。
「そうですねー。人として当然ですもんね」
「君は心の中で俺のことをバカにしてるだろう」
「えっ、してませんよ。蒼の君をそんなぞんざいに扱う訳がないじゃないですか」
胡散臭くて性格が悪い、とは思ってるけど。
ハーデスは未だ屋敷に滞在している。ライドール家の長男であり次期当主にこの言い方は不自然だが、1年のうち屋敷に1ヶ月もいないため本人が「この屋敷には滞在しにきているようなもんだ!」と声高らかに言っていた。
それからはライドール家ではハーデスが屋敷に帰るのは“滞在”扱いという、暗黙の了解ができている。
「で?この前の質問の答えは出た?妹よ」
「…何のこと?」
「誤魔化さない。分かってるだろ?」
「はぁ…分かってる、よ」
近づいてくるハーデスのにやにやとした顔を手を使って上手い具合にかわしながら、オリヴィエはため息をつく。
「ふーん。その様子じゃ、考えたけど答えが出てないってところだね。私もその人に会ってみたいなぁ。父は知っているようだし」
「嫌」
ハーデスの言い回しに嫌な予感を感じたオリヴィエは先に拒否を示した。
「まだ何にも言ってないだろ。会わせてくれなんて!」
ハーデスは両手を広げ、首を横に振る。
「今、言ったね」
「会わせてくれ!」
「嫌」
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