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甦りの秘密
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「今回の依頼人は彼」
ルイシーナが今回の依頼人を航海士に紹介する。
航海士としてコリン・プレスコットを雇うことになり、今回の依頼について最終的な打ち合わせをしていた。
「ダン・ファロンと言います。ファロン商会を経営しています」
(おお、思い出した!知ってる!あそこだろう、オレらには随分安価で品物を扱ってて、貴族連中には質のいいもん売って金儲けしてるって言う、上手くやってる店だ)
娘からするとアレな父親レオカディオはこう見えても、大海賊。
世間的に亡くなっているとは言えど、たかが数年前で記憶にも新しく場合によっては酒場にはそこらに姿絵が貼られていたりする。レオカディオのあずかり知らぬところで顔を知られていることは生前から多くあった。
いくら噂話で大海賊キャプテン・コフィーニが亡霊として甦ったと言われていても、大々的に説明する気はルイシーナとレオカディオにはない…ただルイシーナは実体化になって彷徨い遊んでいるレオカディオを見ていると、レオカディオは面白おかしく注目されたいと思っているような気もする。
何にせよ、本音がどうであれ、レオカディオはレインダックス号の船員以外がいる場面では精神体になって血を分けた身内以外には見えないようにしていた。
今回も幽霊になっているのだが…。
「幽霊でもうるさい……」
(失礼なやつだな)
ルイシーナにしか見えないことが分かりきっているレオカディオは言いたい放題だった。
「今回、ファロン商会の船が襲われ船員と積荷が盗まれました。船員を人質に身代金の請求が来ています。我々としては積荷より人命を優先して救助してほしい」
ファロン商会の会頭ダン・ファロンを名乗る人物はどうやら品物より人命を大事にする人柄らしい。ルイシーナは人命優先であることを理由にこの依頼を受けた。
「報酬は…船を出すには金がいるから前払いでいくらか貰った。残りは積荷の金貨よ」
(妥当だ)
「わかった、詳細を教えてくれ」
「場所は──」
「順調な滑り出しね、コリン」
「ああ。見た限り雲もないし、しばらくは問題ないだろう。キャプテン」
ここは船上。
レインダックス号の甲板にルイシーナとコリンは立っていた。準備も整い、数時間前に出航したところである。
軍出身ではあるもののクビにされたというコリンは軍嫌いの多い船員たちに快く受け入れられ、本人も上手く輪に入り込めているようでルイシーナは安心していた。
「…私のことは魔女とかルイシーナって呼んで。この船は私が船長ってことになっているけど…、どっかの誰かさんがキャプテンの肩書きが好きすぎてめんどくさくて。わかるでしょ?」
ルイシーナは肩をすくめる。もちろん、どっかの誰かさんとは自分の父親のことだ。
しつこくキャプテンを自称し続けるレオカディオをここ数週間の付き合いで実感したコリンは、その言葉に苦笑した。彼はきっと。
「…さっきも俺がキャプテンと呼んだらレオカディオが反応していたな。彼はキャプテンであることに誇りを持っていたんだな」
「あら、好意的に受け取ってくれてありがとう。──あなたいい人ね」
しつこい父親のことを肯定的に受け取られ、ルイシーナは思わず眉を上げてしまう。
「…初めて言われた」
思ったことを言っただけなのだが。
「レオカディオのことは、何と説明しているんだ?」
コリンはずっと気になっていたことをルイシーナに聞いた。船員たちは当たり前のように死んだはずのレオカディオを受け入れているのだ。それは甦ったことを理解しての上なのか。
「私からは何も説明しないことにしてるの。レオカディオ本人が話したければ、あなたに話したように経緯を話せばいいし…って放ってある」
「それで上手くいくのか…?」
「上手くいくわけない!普通はね。でも、おかしなことにレインダックス号の昔馴染みの船員は父さんの──キャプテン・コフィー二の数ある伝説の当事者だから、冥界から甦ってもあのキャプテン・コフィー二だからって納得する。で、納得できない人は船から降りる。ただそれだけ」
ルイシーナは苦笑いをした。
実際、レオカディオと馴染みの船員たちとの絆は比較的新入りのルイシーナにもよく分からない。ただ、ルイシーナには計り知れない経験をレオカディオと共に積んできた船員たちは独特の繋がりがあり、ルイシーナが口を出すことではないと判断しているのだ。
「…すごい世界だな。海軍とは毛色が違いすぎる」
「そうよ。昔、私も…父に認められたくて海軍予備隊で訓練受けたことがあったから分かる、別物よね」
「予備隊にいたのか!」
「あっ、つい言っちゃった。ほんのちょっとだけね。ゴタゴタ起こしてすぐにやめたから」
コリンが目を丸くした途端、つい口が滑ったと舌を出すルイシーナであった。
ルイシーナが今回の依頼人を航海士に紹介する。
航海士としてコリン・プレスコットを雇うことになり、今回の依頼について最終的な打ち合わせをしていた。
「ダン・ファロンと言います。ファロン商会を経営しています」
(おお、思い出した!知ってる!あそこだろう、オレらには随分安価で品物を扱ってて、貴族連中には質のいいもん売って金儲けしてるって言う、上手くやってる店だ)
娘からするとアレな父親レオカディオはこう見えても、大海賊。
世間的に亡くなっているとは言えど、たかが数年前で記憶にも新しく場合によっては酒場にはそこらに姿絵が貼られていたりする。レオカディオのあずかり知らぬところで顔を知られていることは生前から多くあった。
いくら噂話で大海賊キャプテン・コフィーニが亡霊として甦ったと言われていても、大々的に説明する気はルイシーナとレオカディオにはない…ただルイシーナは実体化になって彷徨い遊んでいるレオカディオを見ていると、レオカディオは面白おかしく注目されたいと思っているような気もする。
何にせよ、本音がどうであれ、レオカディオはレインダックス号の船員以外がいる場面では精神体になって血を分けた身内以外には見えないようにしていた。
今回も幽霊になっているのだが…。
「幽霊でもうるさい……」
(失礼なやつだな)
ルイシーナにしか見えないことが分かりきっているレオカディオは言いたい放題だった。
「今回、ファロン商会の船が襲われ船員と積荷が盗まれました。船員を人質に身代金の請求が来ています。我々としては積荷より人命を優先して救助してほしい」
ファロン商会の会頭ダン・ファロンを名乗る人物はどうやら品物より人命を大事にする人柄らしい。ルイシーナは人命優先であることを理由にこの依頼を受けた。
「報酬は…船を出すには金がいるから前払いでいくらか貰った。残りは積荷の金貨よ」
(妥当だ)
「わかった、詳細を教えてくれ」
「場所は──」
「順調な滑り出しね、コリン」
「ああ。見た限り雲もないし、しばらくは問題ないだろう。キャプテン」
ここは船上。
レインダックス号の甲板にルイシーナとコリンは立っていた。準備も整い、数時間前に出航したところである。
軍出身ではあるもののクビにされたというコリンは軍嫌いの多い船員たちに快く受け入れられ、本人も上手く輪に入り込めているようでルイシーナは安心していた。
「…私のことは魔女とかルイシーナって呼んで。この船は私が船長ってことになっているけど…、どっかの誰かさんがキャプテンの肩書きが好きすぎてめんどくさくて。わかるでしょ?」
ルイシーナは肩をすくめる。もちろん、どっかの誰かさんとは自分の父親のことだ。
しつこくキャプテンを自称し続けるレオカディオをここ数週間の付き合いで実感したコリンは、その言葉に苦笑した。彼はきっと。
「…さっきも俺がキャプテンと呼んだらレオカディオが反応していたな。彼はキャプテンであることに誇りを持っていたんだな」
「あら、好意的に受け取ってくれてありがとう。──あなたいい人ね」
しつこい父親のことを肯定的に受け取られ、ルイシーナは思わず眉を上げてしまう。
「…初めて言われた」
思ったことを言っただけなのだが。
「レオカディオのことは、何と説明しているんだ?」
コリンはずっと気になっていたことをルイシーナに聞いた。船員たちは当たり前のように死んだはずのレオカディオを受け入れているのだ。それは甦ったことを理解しての上なのか。
「私からは何も説明しないことにしてるの。レオカディオ本人が話したければ、あなたに話したように経緯を話せばいいし…って放ってある」
「それで上手くいくのか…?」
「上手くいくわけない!普通はね。でも、おかしなことにレインダックス号の昔馴染みの船員は父さんの──キャプテン・コフィー二の数ある伝説の当事者だから、冥界から甦ってもあのキャプテン・コフィー二だからって納得する。で、納得できない人は船から降りる。ただそれだけ」
ルイシーナは苦笑いをした。
実際、レオカディオと馴染みの船員たちとの絆は比較的新入りのルイシーナにもよく分からない。ただ、ルイシーナには計り知れない経験をレオカディオと共に積んできた船員たちは独特の繋がりがあり、ルイシーナが口を出すことではないと判断しているのだ。
「…すごい世界だな。海軍とは毛色が違いすぎる」
「そうよ。昔、私も…父に認められたくて海軍予備隊で訓練受けたことがあったから分かる、別物よね」
「予備隊にいたのか!」
「あっ、つい言っちゃった。ほんのちょっとだけね。ゴタゴタ起こしてすぐにやめたから」
コリンが目を丸くした途端、つい口が滑ったと舌を出すルイシーナであった。
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