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独白
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「やぁ、ルディ。やっぱり来たね」
玉座の後ろにあるルーフバルコニーから夕陽がリカに降り注ぐ。その手にはオレンジの光を浴びて赤紫色に輝く大きな石が握られていた。
「それ……」
「そう。これがドラゴン・アイだよ。笑っちゃう名前だけど、綺麗だね」
逆光のせいで、リカの顔はよく見えない。それが、余計にルディの不安を煽った。
「それを──どうするつもりだっちゃ?」
「さて、どうしようか。僕はこれを君に渡したくない。でも、君はこれが欲しいんだね、ジャックを助ける為に」
リカは手の中の石をつまらなそうに弄んだ。今にも落としてしまいそうな危うげな手つきにハラハラする。
「どうすれば、その石を渡してくれるっちゃ?」
「ねぇ、ジャックがそんなに大切?」
ルディの質問には答えず、リカが嘲るような口調で聞き返してきた。
だからルディも、リカの質問には答えず言った。
「──なんでジャックを陥れたっちゃ?」
リカはあの石がホーリー・ストーンで、邪神を封じ込めていることを知っていた。
ジャックにあの石を送りつけて、なおかつ王子をその場に居合わせるように出来る人物なんて、リカ以外考えられない。
「違うって言えば信じてくれるかな」
「ホーリー・ストーンが邪神を封印してることは国家機密だって王子は言ってたっちゃ。でも、リカは教会が何かを隠していることを知ってたっちゃ。選別会の日、そうやって教えてくれたっちゃ」
「まぁ……そうだね。だって僕はこのゲームのシナリオを丸暗記してるから」
「保身に熱心そうな教会の人達が、邪神の封印を解くなんてありえないっちゃ。だから、ジャックにホーリー・ストーンを割らせて、それを王子に見せることが出来る人間なんてリカしか考えられないっちゃ」
「……ホーリー・ストーンが割れたのは偶然の産物だよ。まさか本当に割れるなんて思いもしなかった」
驚いて動きを止めると、リカが面白そうに続けた。
「本当はホーリー・ストーンがジャックに盗まれたってだけでも十分死罪になるかなぁって思って王子を呼んどいたんだ」
「え?」
「ホーリー・ストーンの中の癒しの力を試しに吸い上げてみたら、ヒビが入ったからもしかして、とは思ってたんだけど。予想以上に事が上手く進んで僕の方が驚いたよ。やっぱりこの世界の主人公は僕なんだな、って思ったよね」
得意そうにそう言うリカに、ルディは震える声で尋ねる。
「なんで……だって、リカは──ジャックのことが好きなんだっちゃよね。どうして……?」
「僕がジャックを好き? とんでもない勘違いだよね。僕ほどジャックを憎んでる人間はいないと思うよ。だから死罪になるようにしたのさ」
「嘘だっちゃ……だって……」
「僕が好きなのは、君だよ、ルディ」
突然のリカの告白にルディは思わず動きを止めた。赤い瞳がルディを真っ直ぐに貫く。狂気めいた光が揺らめくその瞳には、自分の不安そうな顔が映っている。
「ルディたんが好きで好きで好きで好きで、なんとか君を救えるルートがないか、何回も何回もゲームをプレイしたんだ。でも、君を救うルートはゲームには無かった。だから、僕がこの世界に来た時これは僕の力で君を救えって事だってすぐ気が付いたよ。だけど僕が君と出会った時は、既にジャックっていう邪魔者がいた」
ルカが夢をみているよう声音で話し続ける。この人は、何を言っているんだろう。
「よりによってあいつも転生者なんてっ。しかも全然やり込んでない、うっすいオタク。最悪だよ。なんであいつの方がはじめから君に慕われるポジションだったんだ。僕の方が何倍も何倍も何倍もルディたんのことが好きなのに」
苛々と一人でヒートアップする姿を呆然と見ていると、リカがハッと落ち着きを取り戻した。
「だから、まずは君をジャックから切り離さなきゃと思って、僕がジャックに気があるって勘違いさせてみたんだ。僕と結ばれればジャックが助かるって知れば、君のような謙虚で献身的なキャラはきっとジャックを助けようとするだろうと思ったのさ。──あとは、君を殺しちゃえばいいだけ」
「殺すって……もしかして、オレが何回か死にかけたのって」
「そう。とはいえ本当に殺そうと思ったわけじゃない。僕の力なら虫の息でも助けられる。王城でも聖教会でも、君が死にそうになったら直ぐに僕が呼ばれる状況だった。僕は君を仮死状態のままにして、死んだと思わせ弔い場まで行ったところで治癒をして攫うって作戦さ」
ルディを救うという話の後、殺す話をしている。その矛盾に自分で気付いていないのだろうか。
「そんなことされて……オレが攫われたままなわけないっちゃ」
「記憶を消せばいい。主人公チートで僕は魔法も得意なんだよ。君が死なないと、あのしつこいジャックがどこまで追いかけて来そうだったからね。だが、結局ジャックに全て邪魔された。本当にあいつにはうんざりだよ」
リカは大きなため息をつきながら言った。
「だから、まずはジャックを消すしかないと思った。でもあいつも魔法が得意だから、実際殺そうとすると難しい。そこでゲームの中みたいに死罪にしちゃえばいいんだって思い付いたんだ。思った以上に上手くいったから、やっぱりゲームのシナリオ力って凄いよね」
「……」
もう聞いていたくなかった。
何度も死にかけたのは、ジャックと同じ立場であるはずのリカが仕組んでいたことだった。
ジャックがルディを生かす為にしてくれていた努力を、リカが全て粉々にしていたのだ。
「怒ってるの? ルディたん。大丈夫。すぐ記憶を消してあげるからね。そしたらルディたんはジャックの呪縛から解き放たれて僕のことしか考えられなくなるよ」
「そんなこと、絶対有り得ない」
強い口調でそう言うと、リカは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「そうかな? 君はジャックを助けたい。この石が欲しいんだよね。いいだろう。ジャックにあげるよ。でも、君の記憶を消すのが先だ」
「そんなっ」
「悪いけど君に選択肢はないよ。僕は今すぐにでもこの石を落として割ることができる。元々そのつもりで来たんだ。万が一でも、ジャックが助かる可能性を潰す為にね」
リカが真っ直ぐ横に手を伸ばす。その手の平を開けば、石は真っ逆さまに大理石の床に落ちて割れてしまうだろう。
「君の記憶を消した後、僕はすぐにジャックにこれを届けるよ。君に頼まれたと言ってね。そしたら、彼は竜になって命だけは助かるかもしれない。まぁ、君への愛が本物ならだけど」
馬鹿にするようにそう言うリカの言葉を、ルディは信じることができなかった。
ルディの記憶がなくなった後でリカがジャックにドラゴン・アイを素直に届けるとは到底思えない。
だが、だからといって、他に方法があるかといえば全く思い付かなかった。
「さぁ、覚悟は決まったかな。じゃあ、手は後ろに組んだまま、ゆっくりこっちにおいで、ルディたん」
何も方法が思いつかない。
ルディは時間稼ぎの為に、言われるがまま前に進むしかなかった。焦れば焦るほど、何も思い付かない。このままでは、記憶を消されてしまう。
ジャックが好きだという記憶まで無くなってしまうんだろうか。ジャックを愛していない自分なんて、とてもじゃないが考えられなかった。
ジャックが助かるかも怪しいのに、このままいいなりになっていいはずがない。
なにか方法がないんだろうか。
なにか──。
日没が近付き、ルーフバルコニーから注ぐ赤い光が痛いほどに二人に降り注ぐ。
この光が、あの石をジャックから取り返してくれたらどんなにかいいだろう。
目を細め、リカの持つ赤紫の石を睨む。
そして、ふと──。
ひとつの可能性に気付いた。
玉座の後ろにあるルーフバルコニーから夕陽がリカに降り注ぐ。その手にはオレンジの光を浴びて赤紫色に輝く大きな石が握られていた。
「それ……」
「そう。これがドラゴン・アイだよ。笑っちゃう名前だけど、綺麗だね」
逆光のせいで、リカの顔はよく見えない。それが、余計にルディの不安を煽った。
「それを──どうするつもりだっちゃ?」
「さて、どうしようか。僕はこれを君に渡したくない。でも、君はこれが欲しいんだね、ジャックを助ける為に」
リカは手の中の石をつまらなそうに弄んだ。今にも落としてしまいそうな危うげな手つきにハラハラする。
「どうすれば、その石を渡してくれるっちゃ?」
「ねぇ、ジャックがそんなに大切?」
ルディの質問には答えず、リカが嘲るような口調で聞き返してきた。
だからルディも、リカの質問には答えず言った。
「──なんでジャックを陥れたっちゃ?」
リカはあの石がホーリー・ストーンで、邪神を封じ込めていることを知っていた。
ジャックにあの石を送りつけて、なおかつ王子をその場に居合わせるように出来る人物なんて、リカ以外考えられない。
「違うって言えば信じてくれるかな」
「ホーリー・ストーンが邪神を封印してることは国家機密だって王子は言ってたっちゃ。でも、リカは教会が何かを隠していることを知ってたっちゃ。選別会の日、そうやって教えてくれたっちゃ」
「まぁ……そうだね。だって僕はこのゲームのシナリオを丸暗記してるから」
「保身に熱心そうな教会の人達が、邪神の封印を解くなんてありえないっちゃ。だから、ジャックにホーリー・ストーンを割らせて、それを王子に見せることが出来る人間なんてリカしか考えられないっちゃ」
「……ホーリー・ストーンが割れたのは偶然の産物だよ。まさか本当に割れるなんて思いもしなかった」
驚いて動きを止めると、リカが面白そうに続けた。
「本当はホーリー・ストーンがジャックに盗まれたってだけでも十分死罪になるかなぁって思って王子を呼んどいたんだ」
「え?」
「ホーリー・ストーンの中の癒しの力を試しに吸い上げてみたら、ヒビが入ったからもしかして、とは思ってたんだけど。予想以上に事が上手く進んで僕の方が驚いたよ。やっぱりこの世界の主人公は僕なんだな、って思ったよね」
得意そうにそう言うリカに、ルディは震える声で尋ねる。
「なんで……だって、リカは──ジャックのことが好きなんだっちゃよね。どうして……?」
「僕がジャックを好き? とんでもない勘違いだよね。僕ほどジャックを憎んでる人間はいないと思うよ。だから死罪になるようにしたのさ」
「嘘だっちゃ……だって……」
「僕が好きなのは、君だよ、ルディ」
突然のリカの告白にルディは思わず動きを止めた。赤い瞳がルディを真っ直ぐに貫く。狂気めいた光が揺らめくその瞳には、自分の不安そうな顔が映っている。
「ルディたんが好きで好きで好きで好きで、なんとか君を救えるルートがないか、何回も何回もゲームをプレイしたんだ。でも、君を救うルートはゲームには無かった。だから、僕がこの世界に来た時これは僕の力で君を救えって事だってすぐ気が付いたよ。だけど僕が君と出会った時は、既にジャックっていう邪魔者がいた」
ルカが夢をみているよう声音で話し続ける。この人は、何を言っているんだろう。
「よりによってあいつも転生者なんてっ。しかも全然やり込んでない、うっすいオタク。最悪だよ。なんであいつの方がはじめから君に慕われるポジションだったんだ。僕の方が何倍も何倍も何倍もルディたんのことが好きなのに」
苛々と一人でヒートアップする姿を呆然と見ていると、リカがハッと落ち着きを取り戻した。
「だから、まずは君をジャックから切り離さなきゃと思って、僕がジャックに気があるって勘違いさせてみたんだ。僕と結ばれればジャックが助かるって知れば、君のような謙虚で献身的なキャラはきっとジャックを助けようとするだろうと思ったのさ。──あとは、君を殺しちゃえばいいだけ」
「殺すって……もしかして、オレが何回か死にかけたのって」
「そう。とはいえ本当に殺そうと思ったわけじゃない。僕の力なら虫の息でも助けられる。王城でも聖教会でも、君が死にそうになったら直ぐに僕が呼ばれる状況だった。僕は君を仮死状態のままにして、死んだと思わせ弔い場まで行ったところで治癒をして攫うって作戦さ」
ルディを救うという話の後、殺す話をしている。その矛盾に自分で気付いていないのだろうか。
「そんなことされて……オレが攫われたままなわけないっちゃ」
「記憶を消せばいい。主人公チートで僕は魔法も得意なんだよ。君が死なないと、あのしつこいジャックがどこまで追いかけて来そうだったからね。だが、結局ジャックに全て邪魔された。本当にあいつにはうんざりだよ」
リカは大きなため息をつきながら言った。
「だから、まずはジャックを消すしかないと思った。でもあいつも魔法が得意だから、実際殺そうとすると難しい。そこでゲームの中みたいに死罪にしちゃえばいいんだって思い付いたんだ。思った以上に上手くいったから、やっぱりゲームのシナリオ力って凄いよね」
「……」
もう聞いていたくなかった。
何度も死にかけたのは、ジャックと同じ立場であるはずのリカが仕組んでいたことだった。
ジャックがルディを生かす為にしてくれていた努力を、リカが全て粉々にしていたのだ。
「怒ってるの? ルディたん。大丈夫。すぐ記憶を消してあげるからね。そしたらルディたんはジャックの呪縛から解き放たれて僕のことしか考えられなくなるよ」
「そんなこと、絶対有り得ない」
強い口調でそう言うと、リカは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「そうかな? 君はジャックを助けたい。この石が欲しいんだよね。いいだろう。ジャックにあげるよ。でも、君の記憶を消すのが先だ」
「そんなっ」
「悪いけど君に選択肢はないよ。僕は今すぐにでもこの石を落として割ることができる。元々そのつもりで来たんだ。万が一でも、ジャックが助かる可能性を潰す為にね」
リカが真っ直ぐ横に手を伸ばす。その手の平を開けば、石は真っ逆さまに大理石の床に落ちて割れてしまうだろう。
「君の記憶を消した後、僕はすぐにジャックにこれを届けるよ。君に頼まれたと言ってね。そしたら、彼は竜になって命だけは助かるかもしれない。まぁ、君への愛が本物ならだけど」
馬鹿にするようにそう言うリカの言葉を、ルディは信じることができなかった。
ルディの記憶がなくなった後でリカがジャックにドラゴン・アイを素直に届けるとは到底思えない。
だが、だからといって、他に方法があるかといえば全く思い付かなかった。
「さぁ、覚悟は決まったかな。じゃあ、手は後ろに組んだまま、ゆっくりこっちにおいで、ルディたん」
何も方法が思いつかない。
ルディは時間稼ぎの為に、言われるがまま前に進むしかなかった。焦れば焦るほど、何も思い付かない。このままでは、記憶を消されてしまう。
ジャックが好きだという記憶まで無くなってしまうんだろうか。ジャックを愛していない自分なんて、とてもじゃないが考えられなかった。
ジャックが助かるかも怪しいのに、このままいいなりになっていいはずがない。
なにか方法がないんだろうか。
なにか──。
日没が近付き、ルーフバルコニーから注ぐ赤い光が痛いほどに二人に降り注ぐ。
この光が、あの石をジャックから取り返してくれたらどんなにかいいだろう。
目を細め、リカの持つ赤紫の石を睨む。
そして、ふと──。
ひとつの可能性に気付いた。
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