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我慢の限界
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「王子から届け物だ」
「王子から?」
あの日、王子がお忍びで来てからひと月はたっただろうか。
ジャックが不機嫌な顔で、小包みを持って現れた。
綺麗な布の包装を解くと、中から現れたのは、ふわふわの白いローブで、よく見ると銀糸で胸元に丸い輪のような刺繍が施されている。
「これは?」
「お前が好きなクッキーだそうだ」
「クッキー?」
に見えなくもないが、それ以前にこのローブは何なのだろうか。
「もうすぐ聖学校の新入生選別会だ。選別会では、毎年聖人が着てたとされる白いローブで参加するのが昔からの習慣になってるから、その時に着て欲しいってことだろうな」
「選別会っ!? ってなんだっちゃ?」
今までそんな話聞いたこともない。そもそも聖学校の話自体ジャックの口からは殆ど教えてもらった事がないのだ。
とにかく癒しの力を持つ人間たちが通う学校。という大雑把な知識しかルディは持っていなかった。
「そのままだ。新入生の癒しの力の量を測って選別する。力の強さによってクラスが決まるんだ」
「クラス……力が弱いとどうなるっちゃ?」
ルディの力はお世辞にも強いとは言えない。
「どうもしない。そもそも癒しの力を持つ人間自体が少ないからクラスも二つしかない。エリートクラスと普通クラス。エリートクラスは将来的に大司教や枢機卿になって、聖協会の中枢を担う人間になっていく」
「じゃ、じゃあ普通クラスだと、ジャックの役に立たないっちゃ?」
「そんな事ない。言っただろう。癒しの力を持つ人間自体が少ないんだ。家族に癒しの力を持つ者がいる貴族は、誉れであり影響力に関わってくる。お前はそこにいるだけでいいんだよ」
ルディの頭をくしゃっと撫でながらジャックが言った。
なんだかこうやって触れてくれるのは久しぶりな気がする。
最近のジャックは何かと忙しそうで、ルディの授業も休みがちだ。
もしかして避けられているのかも、と若干悲しくなっていたが今日はそういった様子はなくてホッとした。
少し目元にクマもできているようなので、恐らく本当に忙しかったのだろう。
「とにかく選別会は王子も見学に来るそうだから、そのローブは着ていった方がいいだろうな」
ため息混じりにそう言われ、ルディは仕方なく頷いた。なんだか王子にじわじわと自分の居場所を侵略されていくような感覚に、憂鬱になる。
それに、やはりジャックはなんとも思ってないようだ。嫉妬なんてしてくれるわけないのに。まだ諦めきれない自分に嫌気がさす。
(もう、欲張るのはやめるっちゃ)
自分が何故ここにいるのか。
それは、ジャックの側にいるためであって、愛される為では無かったはずだ。
ルディは気を取り直すと、あえて明るい口調で問いかけた。
「王子も選別会に来るってことは、ジャックも来るっちゃ?」
「いや、基本的に身内の人間の参加は認められていないんだ」
「そうなんだっちゃね……」
ガックリと肩を落とすと、ジャックが慌てて言った。
「だが、隠れて一緒にいるから安心しろ」
「隠れて?」
「透明化魔法を使って身を潜めておく。何かあったら必ず助ける」
「透明化魔法!?なんだか難しそうだっちゃ。凄いっちゃね」
「まあ、確かに実用で使える人間は俺以外に見たことがない」
「えーっ」
それってもの凄い難しい魔法なのでは?
そんな魔法を使って、ジャック自身に悪影響はないんだろうか。
疑わしそうな視線を感じたのか、ジャックは笑って言った。
「安心しろ。つい最近も使ったけど、何も問題無かった」
「つい最近?」
「ああ、この間王子が来た時……いや、なんでもない」
ジャックが咳払いして、その話はそこで終わった。
それから何日か経った朝。
突然ローブを着るようにと従僕に言われ袖を通した。
「まぁ、似合ってはいる」
ジャックは苦いものを噛み潰したような顔で、そう言うとなんでもない事のように言った。
「じゃあ、リカが馬車で迎えに来るから、それに乗って選別会に行くぞ」
「えっ!? せ、選別会って、今日だっちゃ!?」
「そうだが。言ってなかったか? まぁ、いい。とりあえず行くぞ」
ジャックは疲れた顔でそう言うと、こちらを振り返る様子もなく玄関ホールに向かった。
ジャックが、忙しそうなのは分かってる。
自分は、ジャックの為に、ここにいる。
そう決めた。
そう決めた筈だが。
(でも、ムカつくものはムカつくんだっちゃ!)
「ジャックは勝手だっちゃ!」
「え?」
「ジャックなんてもう知らないっちゃ!」
ルディは呆けた顔のジャックを置いて、一人外に飛び出した。
玄関では、白いローブ姿のリカが馬車から降りて待っている。
「あ、ルディ、おはよう。ジャックは……」
「知らないっちゃ! 行こ!」
怒りに任せてリカを馬車に引き摺り込む。
勿論馬車はなかなか出発しない。御者も困っているのだろう。
無言で宙を睨むルディにリカも困っているようだった。
暫くして馬車がやっと出発した。
誰かがなにか指示をしたのかもしれないが、ルディは考える気にもならない。
「どうしたのルディ。珍しく怒っているね」
「王子から?」
あの日、王子がお忍びで来てからひと月はたっただろうか。
ジャックが不機嫌な顔で、小包みを持って現れた。
綺麗な布の包装を解くと、中から現れたのは、ふわふわの白いローブで、よく見ると銀糸で胸元に丸い輪のような刺繍が施されている。
「これは?」
「お前が好きなクッキーだそうだ」
「クッキー?」
に見えなくもないが、それ以前にこのローブは何なのだろうか。
「もうすぐ聖学校の新入生選別会だ。選別会では、毎年聖人が着てたとされる白いローブで参加するのが昔からの習慣になってるから、その時に着て欲しいってことだろうな」
「選別会っ!? ってなんだっちゃ?」
今までそんな話聞いたこともない。そもそも聖学校の話自体ジャックの口からは殆ど教えてもらった事がないのだ。
とにかく癒しの力を持つ人間たちが通う学校。という大雑把な知識しかルディは持っていなかった。
「そのままだ。新入生の癒しの力の量を測って選別する。力の強さによってクラスが決まるんだ」
「クラス……力が弱いとどうなるっちゃ?」
ルディの力はお世辞にも強いとは言えない。
「どうもしない。そもそも癒しの力を持つ人間自体が少ないからクラスも二つしかない。エリートクラスと普通クラス。エリートクラスは将来的に大司教や枢機卿になって、聖協会の中枢を担う人間になっていく」
「じゃ、じゃあ普通クラスだと、ジャックの役に立たないっちゃ?」
「そんな事ない。言っただろう。癒しの力を持つ人間自体が少ないんだ。家族に癒しの力を持つ者がいる貴族は、誉れであり影響力に関わってくる。お前はそこにいるだけでいいんだよ」
ルディの頭をくしゃっと撫でながらジャックが言った。
なんだかこうやって触れてくれるのは久しぶりな気がする。
最近のジャックは何かと忙しそうで、ルディの授業も休みがちだ。
もしかして避けられているのかも、と若干悲しくなっていたが今日はそういった様子はなくてホッとした。
少し目元にクマもできているようなので、恐らく本当に忙しかったのだろう。
「とにかく選別会は王子も見学に来るそうだから、そのローブは着ていった方がいいだろうな」
ため息混じりにそう言われ、ルディは仕方なく頷いた。なんだか王子にじわじわと自分の居場所を侵略されていくような感覚に、憂鬱になる。
それに、やはりジャックはなんとも思ってないようだ。嫉妬なんてしてくれるわけないのに。まだ諦めきれない自分に嫌気がさす。
(もう、欲張るのはやめるっちゃ)
自分が何故ここにいるのか。
それは、ジャックの側にいるためであって、愛される為では無かったはずだ。
ルディは気を取り直すと、あえて明るい口調で問いかけた。
「王子も選別会に来るってことは、ジャックも来るっちゃ?」
「いや、基本的に身内の人間の参加は認められていないんだ」
「そうなんだっちゃね……」
ガックリと肩を落とすと、ジャックが慌てて言った。
「だが、隠れて一緒にいるから安心しろ」
「隠れて?」
「透明化魔法を使って身を潜めておく。何かあったら必ず助ける」
「透明化魔法!?なんだか難しそうだっちゃ。凄いっちゃね」
「まあ、確かに実用で使える人間は俺以外に見たことがない」
「えーっ」
それってもの凄い難しい魔法なのでは?
そんな魔法を使って、ジャック自身に悪影響はないんだろうか。
疑わしそうな視線を感じたのか、ジャックは笑って言った。
「安心しろ。つい最近も使ったけど、何も問題無かった」
「つい最近?」
「ああ、この間王子が来た時……いや、なんでもない」
ジャックが咳払いして、その話はそこで終わった。
それから何日か経った朝。
突然ローブを着るようにと従僕に言われ袖を通した。
「まぁ、似合ってはいる」
ジャックは苦いものを噛み潰したような顔で、そう言うとなんでもない事のように言った。
「じゃあ、リカが馬車で迎えに来るから、それに乗って選別会に行くぞ」
「えっ!? せ、選別会って、今日だっちゃ!?」
「そうだが。言ってなかったか? まぁ、いい。とりあえず行くぞ」
ジャックは疲れた顔でそう言うと、こちらを振り返る様子もなく玄関ホールに向かった。
ジャックが、忙しそうなのは分かってる。
自分は、ジャックの為に、ここにいる。
そう決めた。
そう決めた筈だが。
(でも、ムカつくものはムカつくんだっちゃ!)
「ジャックは勝手だっちゃ!」
「え?」
「ジャックなんてもう知らないっちゃ!」
ルディは呆けた顔のジャックを置いて、一人外に飛び出した。
玄関では、白いローブ姿のリカが馬車から降りて待っている。
「あ、ルディ、おはよう。ジャックは……」
「知らないっちゃ! 行こ!」
怒りに任せてリカを馬車に引き摺り込む。
勿論馬車はなかなか出発しない。御者も困っているのだろう。
無言で宙を睨むルディにリカも困っているようだった。
暫くして馬車がやっと出発した。
誰かがなにか指示をしたのかもしれないが、ルディは考える気にもならない。
「どうしたのルディ。珍しく怒っているね」
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