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青の章
青の章24
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隣にいるフェイロンから殺気のようなものを感じるのは気のせいか──。
葵はとにかく、この話を終わらせようと、クロに話しかけた。
「クロ、取りあえず前世での事なんだけど」
葵が話し始めると、クロの肩が可哀想なほど、ビクッと大きく揺れる。
「結論から言うけど、俺は気にしてない。と言うか、俺にとっては別の人の話だから気にしようもない」
クロは何を言ってるか、分からないという顔で首をかしげた。
「あんたは青龍だ。あんたの話だろう?」
「うーん、俺としてはそこからして違うんだよね。まあ、そういう事なんだろうな」
「何を言ってるんだ?あんたはいつも何を言ってるか分からない」
「うん。そうだね。今のクロには分からないね。多分。クロ、俺はさ──」
葵はクロの瞳をもう一度まっすぐに見つめる。
どこまでも澄んだ真っ黒なガラス玉のような瞳が不安そうに揺れた。こんな顔をさせているが自分だと思うと罪悪感が募る。
「漠然と自分が青龍である事は分かるんだけど、自分はあくまでも天野葵だって意識しかないんだよ。俺の後悔も、嬉しかった事も、全部天野葵として生きてきた中にある。前世の事で謝られも、責められても、そんな事言われても俺のことじゃないしって気持ちにしかならない。それが、いいことなのか、悪い事なのかは分からないけど、今のクロを見ていると必要な事なのかもしれない……って思ったよ」
クロの瞳に批難めいた色がちらついた。無責任な奴め、と瞳が雄弁に語っている。
そうだろうな、と葵も思う。
色々と思う所があるクロに酷い事を言っている自覚があった。だからこそ、クロを助ける葵の贖罪方法は一つしかないように思えた。
「クロ、俺の今の意識はどちらかと言うと人間だ。そんな事思った事は無かったけど、人間の優れた所はもしかしたら『忘却』できる事なんじゃないかな? 俺と前世の青龍が違う人間と思えないなら、人間だから忘れてしまったと思ってくれないか? 昔の事に囚われているのはクロだけなんだよ 」
クロは虚をつかれたような顔をしていた。そんな事思ってもいなかったのだろう。「忘れる」なんて事は玄武にはあり得ない。
何百年と続いた葵の転生をずっと忘れずに支えていたのだ。
「お前には、分からないだろう。人間になった事がないから。でも、クロ。いつまでも過去の後悔に囚われる姿、人々から忌み言葉を言われ影響を受けてしまう姿。今のお前も十分人間に近いように、俺には見えるよ」
「そ、そんな……! そんな事っ!」
「いいや、クロ。以前のお前ならそんな些細なこと気にしなかったはずだ」
「……」
心当たりがあるのだろう。何も言えぬままクロは葵を見たまま黙っている。
「俺達は、長い間下界にいすぎたんだ。天の生き物が下界にいるには長い時間留まりすぎた。お前だけ天界に帰れるといいんだけど──」
「そんな! 一人で天界に帰るなんて絶対嫌だっ!」
「……」
葵にはっきりと天界の記憶はない。だが、なんとなく覚えているのは凪と静寂。
朝日が昇るとともに小鳥が鳴き、夜の帳が下りるとともに夜鳥が鳴くような変化に富んだ下界に住んだ後に、天界に1人で帰ることの虚しさは容易に想像できた。
だが、この世界だって孤独でいるのは辛い。クロを孤独にしてしまったのは、覚えがなくても、まごう事なき自分なのだ。
「クロ、忘却は救いだ。お前が求めるなら、俺はそれをお前に与えることが出来る。お前はこの世界でひとりで頑張りすぎた。いくら俺じゃないって言ったっておまえは納得しないよね。ごめんね。ずっと、一人で頑張ったね 」
葵はとにかく、この話を終わらせようと、クロに話しかけた。
「クロ、取りあえず前世での事なんだけど」
葵が話し始めると、クロの肩が可哀想なほど、ビクッと大きく揺れる。
「結論から言うけど、俺は気にしてない。と言うか、俺にとっては別の人の話だから気にしようもない」
クロは何を言ってるか、分からないという顔で首をかしげた。
「あんたは青龍だ。あんたの話だろう?」
「うーん、俺としてはそこからして違うんだよね。まあ、そういう事なんだろうな」
「何を言ってるんだ?あんたはいつも何を言ってるか分からない」
「うん。そうだね。今のクロには分からないね。多分。クロ、俺はさ──」
葵はクロの瞳をもう一度まっすぐに見つめる。
どこまでも澄んだ真っ黒なガラス玉のような瞳が不安そうに揺れた。こんな顔をさせているが自分だと思うと罪悪感が募る。
「漠然と自分が青龍である事は分かるんだけど、自分はあくまでも天野葵だって意識しかないんだよ。俺の後悔も、嬉しかった事も、全部天野葵として生きてきた中にある。前世の事で謝られも、責められても、そんな事言われても俺のことじゃないしって気持ちにしかならない。それが、いいことなのか、悪い事なのかは分からないけど、今のクロを見ていると必要な事なのかもしれない……って思ったよ」
クロの瞳に批難めいた色がちらついた。無責任な奴め、と瞳が雄弁に語っている。
そうだろうな、と葵も思う。
色々と思う所があるクロに酷い事を言っている自覚があった。だからこそ、クロを助ける葵の贖罪方法は一つしかないように思えた。
「クロ、俺の今の意識はどちらかと言うと人間だ。そんな事思った事は無かったけど、人間の優れた所はもしかしたら『忘却』できる事なんじゃないかな? 俺と前世の青龍が違う人間と思えないなら、人間だから忘れてしまったと思ってくれないか? 昔の事に囚われているのはクロだけなんだよ 」
クロは虚をつかれたような顔をしていた。そんな事思ってもいなかったのだろう。「忘れる」なんて事は玄武にはあり得ない。
何百年と続いた葵の転生をずっと忘れずに支えていたのだ。
「お前には、分からないだろう。人間になった事がないから。でも、クロ。いつまでも過去の後悔に囚われる姿、人々から忌み言葉を言われ影響を受けてしまう姿。今のお前も十分人間に近いように、俺には見えるよ」
「そ、そんな……! そんな事っ!」
「いいや、クロ。以前のお前ならそんな些細なこと気にしなかったはずだ」
「……」
心当たりがあるのだろう。何も言えぬままクロは葵を見たまま黙っている。
「俺達は、長い間下界にいすぎたんだ。天の生き物が下界にいるには長い時間留まりすぎた。お前だけ天界に帰れるといいんだけど──」
「そんな! 一人で天界に帰るなんて絶対嫌だっ!」
「……」
葵にはっきりと天界の記憶はない。だが、なんとなく覚えているのは凪と静寂。
朝日が昇るとともに小鳥が鳴き、夜の帳が下りるとともに夜鳥が鳴くような変化に富んだ下界に住んだ後に、天界に1人で帰ることの虚しさは容易に想像できた。
だが、この世界だって孤独でいるのは辛い。クロを孤独にしてしまったのは、覚えがなくても、まごう事なき自分なのだ。
「クロ、忘却は救いだ。お前が求めるなら、俺はそれをお前に与えることが出来る。お前はこの世界でひとりで頑張りすぎた。いくら俺じゃないって言ったっておまえは納得しないよね。ごめんね。ずっと、一人で頑張ったね 」
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