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青の章
青の章9
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グアンが足音を立てないよう、注意深く檻の近くまで来た。葵が中にいると分かると「おお、なんて事を……」と胸を押さえ、屈んで中を覗いてくる。葵と目線がぶつかり、グアンがわずかに息を呑んだような気配がした。
「青龍……様ですよね?」
グアンが、確認するような口調で言ったので、葵も素直に答えた。
「うん。俺が青龍かは分からないけど、今までずっとお世話になってたアオだよ」
すると、グアンは呆けたように呟いた。
「……青龍様の世界の人は、皆そのように美しいのですか?」
「え?」
「い、いえ! な、なんでもありません! 失礼致しました……」
グアンは顔を赤くして下を向き「陛下が大げさに言っているのだとばかり思った」などとぶつぶつ呟いている。
「グアン?」
葵が不安になって呼びかけると、グアンは気を取り直したようにゴホンと厳しい顔つきになって言った。
「青龍さま、遅くなって申し訳ありません。ホンの恐ろしい企てを聞いた時から、狙いは青龍様に違いないと思い、わざと捕まり青龍様をお助けする機会を伺っておりました。落雷の騒ぎで、混乱している間に抜け出しましょう。私もそうそう何度も雷を落とす事は出来ませんので」
では、武器庫に落ちたという雷はグアンが起こしたということか。葵が驚いてグアンを見る。グアンは少し得意そうに微笑んだ。
「私は青龍の民と言われる星見の一族の長です。これくらい造作もない、とは言えませんが多少天候を操る力はございます。……問題は鍵を開ける力は無いことでございます。まさか、青龍様を檻に入れるなど、なんという神をも恐れぬ所業でしょう。信じられません。あのホンが──」
「グアンは、フェイロンともホンとも幼なじみなんだよな」
「……はい。我々二人は恐れながら陛下と共に学問や剣術を学ばせていただきました。当時から陛下はこれぞ龍王といった才覚に溢れておりまして、幼き時からこの尊い方をお守りしようと誓い合ったのですが……。ホンが前帝の忘れ形見だった事は皆知るところでしたが、ホンも陛下を慕っていたので、まさかあのような恐ろしい野望を持っていたなんて」
「ホンは、友人に言われて決意したって言っていた」
「ええ、ですがそのような友人など見当もつきません。もしや山の民に操られているのやもと思い探ってみましが、蛇の姿は見えませんでした。……ホンはもしかしたら陛下への憧れが強すぎたのかもしれません。昔から、何でも陛下のお下がりを欲しがるような子でしたから」
グアンはしんみりとそう言ったが、ハッと気を取り直した。
「申し訳ありません。余計な話をっ! 今はとにかく、青龍様をここからお出しする事ですよね。ああでも、どうしましょう」
「グアン、大丈夫。今は無理しないで。それに、さっきも言ったけど、実は俺が青龍なのかもよく分からないんだ」
それを聞いたグアンは、おお、と大げさに天を仰いだ。
「青龍様は青龍様でございます。青龍様の好物である紫龍草、あれは青龍様以外には猛毒でございます」
「でも、あちらの世界にいる俺の友人がまずかったけど毒じゃなかったって言ってたよ」
「ふむ……。王宮で王により管理されている紫龍草ですので、そもそも食べるような不届き者はめったにいません。しかし、それでも食べて生き残った者は皆口を揃えてこう言っています。『あの世が見えた』と。あの世とは、比喩ではなく、もしかしたら青龍様の世界の事なのかもしれません。これは陛下にもお話しした事があるのですが……」
葵はその言葉を聞いて思わず、あっ、と声を上げた。
「フェイロンはやっぱり紫龍草を食べたの!?」
「青龍……様ですよね?」
グアンが、確認するような口調で言ったので、葵も素直に答えた。
「うん。俺が青龍かは分からないけど、今までずっとお世話になってたアオだよ」
すると、グアンは呆けたように呟いた。
「……青龍様の世界の人は、皆そのように美しいのですか?」
「え?」
「い、いえ! な、なんでもありません! 失礼致しました……」
グアンは顔を赤くして下を向き「陛下が大げさに言っているのだとばかり思った」などとぶつぶつ呟いている。
「グアン?」
葵が不安になって呼びかけると、グアンは気を取り直したようにゴホンと厳しい顔つきになって言った。
「青龍さま、遅くなって申し訳ありません。ホンの恐ろしい企てを聞いた時から、狙いは青龍様に違いないと思い、わざと捕まり青龍様をお助けする機会を伺っておりました。落雷の騒ぎで、混乱している間に抜け出しましょう。私もそうそう何度も雷を落とす事は出来ませんので」
では、武器庫に落ちたという雷はグアンが起こしたということか。葵が驚いてグアンを見る。グアンは少し得意そうに微笑んだ。
「私は青龍の民と言われる星見の一族の長です。これくらい造作もない、とは言えませんが多少天候を操る力はございます。……問題は鍵を開ける力は無いことでございます。まさか、青龍様を檻に入れるなど、なんという神をも恐れぬ所業でしょう。信じられません。あのホンが──」
「グアンは、フェイロンともホンとも幼なじみなんだよな」
「……はい。我々二人は恐れながら陛下と共に学問や剣術を学ばせていただきました。当時から陛下はこれぞ龍王といった才覚に溢れておりまして、幼き時からこの尊い方をお守りしようと誓い合ったのですが……。ホンが前帝の忘れ形見だった事は皆知るところでしたが、ホンも陛下を慕っていたので、まさかあのような恐ろしい野望を持っていたなんて」
「ホンは、友人に言われて決意したって言っていた」
「ええ、ですがそのような友人など見当もつきません。もしや山の民に操られているのやもと思い探ってみましが、蛇の姿は見えませんでした。……ホンはもしかしたら陛下への憧れが強すぎたのかもしれません。昔から、何でも陛下のお下がりを欲しがるような子でしたから」
グアンはしんみりとそう言ったが、ハッと気を取り直した。
「申し訳ありません。余計な話をっ! 今はとにかく、青龍様をここからお出しする事ですよね。ああでも、どうしましょう」
「グアン、大丈夫。今は無理しないで。それに、さっきも言ったけど、実は俺が青龍なのかもよく分からないんだ」
それを聞いたグアンは、おお、と大げさに天を仰いだ。
「青龍様は青龍様でございます。青龍様の好物である紫龍草、あれは青龍様以外には猛毒でございます」
「でも、あちらの世界にいる俺の友人がまずかったけど毒じゃなかったって言ってたよ」
「ふむ……。王宮で王により管理されている紫龍草ですので、そもそも食べるような不届き者はめったにいません。しかし、それでも食べて生き残った者は皆口を揃えてこう言っています。『あの世が見えた』と。あの世とは、比喩ではなく、もしかしたら青龍様の世界の事なのかもしれません。これは陛下にもお話しした事があるのですが……」
葵はその言葉を聞いて思わず、あっ、と声を上げた。
「フェイロンはやっぱり紫龍草を食べたの!?」
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