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黒の章

黒の章2

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 驚いて声が聞こえた方を見ると、先ほどは何も居なかった筈の窓枠に小さな黒い蛇が見える。
 
 (蛇? まさかね……)
 
「何アホ面晒してるんすか。自分が喋れないからって、蛇が喋れないとでも思ってるんすか? あんたが無能なだけですよ」
 
 蛇が──喋っている。
 格子に身体を巻き付けながら、ケケッと笑っているようにさえ見える。
 
「それよりも、いい加減皇帝のペットみたいな生活やめてもらってイイですか? 見てるこっちが恥ずかしいんすよ。誰がわざわざ、あんたをこっちの世界に連れてきたと思ってんだよ」
「待てっ、じゃあ、お前が俺をこの世界に連れてきたのか!? って、えっ!?」
 
 突然、喉が自由に開いて、声を出せるようになった。驚いて思わず声を上げる。これは、一体どういう事だろう。急に色々な事が起こって目が回りそうだ。だが、いま目の前にいる蛇を問い質すチャンスを逃してはいけないという気がした。
 
「ふぅん、本当に覚えてないんだ……」
「覚えて……?」
「いいえ、こっちの話。そうですね、まぁ、大体そんな感じです」
「何だそれ、大体って……何故こんな事したんだ!? 何が目的だよ!?」
 
 憤って蛇を問い詰める。すると蛇は、そんな葵を嘲るように笑って言った。
 
「あんたさぁ、なんで怒ってんすか? 人間だったあんたを、こっちで爬虫類にした事? それとも、爬虫類のあんたを、人間にしない事? あんた、人間やめたかったんじゃないの?」
「それは……」
 
 必死に言葉を探したが、言い淀む。
 確かにこの世界に来たきっかけは、全てに嫌気がさしていたからだ。忌まわしいオメガの肉体を、捨て去りたい気持ちでいっぱいだった。
 だからといって、今はこのまま青龍としての姿でいたいとも最早思えない。
 
 (だって、この姿じゃフェイロンが怯える)
 
 なら、やはり人間に戻りたいか? と問われれば、即答出来ない自分がいた。
 
「あんたっていっつも中途半端だよな。あのチキンな皇帝と契約しないならしないで、さっさとこんな国オサラバして、俺んとこ来てくださいよ」 
「お前のところ?」
「そうだよ。俺ら仲間じゃん。あんたはしょうもない奴だけど。仲間だから、面倒くらいは見てあげますよ」
「……お前は、誰なんだ?」
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