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君主に迷いて、君に仕えず。
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文叔の家は広い。
どれくらい広いかというと、七丈の高さはある城壁が九里ほど四方に伸び、門は一面につき三つ東西南北で十二門。そこから三筋の道が伸び重なった中央の巨大で真っ赤に塗られた建物が文叔の家だ。
そして、その中の一番奥にある最も豪奢な部屋が文叔の部屋である。
そんな素敵な部屋での目覚め。
はっきり言って最悪である。
(──だっる……)
雨音が僅かに聞こえ、窓に目をやる。この部屋の為だけに作られた池に波紋が広がり竹林の姿を歪んで写し出した。
麗しい情景に心が弾むどころが、うんざりとしながら重たい身体を起こす。
「しんど……」
思わず呟いたところで朝の支度をするため女官が入ってきた。聞かれたかとヒヤリとしたが、素知らぬ顔の女官の顔を見て、気付かれないようにそっと嘆息する。
腰から下が重だるく、身体のあちこちが痛んだ。昨夜は夏妃の処にわたり、その前の晩は玲妃。その前は誰だったか……。
皇帝の責務とは言え、連日の交合は流石に体に堪えた。
(皇帝に早死するものが多いのは、絶対性交しすぎなせいだな)
文叔は鉛のように重い身体を誤魔化しながら、促されるまま曲縁の椅子に座り一息ついた。
「陛下、御典医様がおみえです」
「通せ」
代わり映えしないやり取りに、殆ど反射的に返答した。
皇帝の日課は数多くあるが、朝一番は必ず医師の診察からはじまる。
「失礼いたします。今朝の体調はいかがですか」
扉の向こうから現れたのは、文叔専属の持医、泊鏡花だ。
雅な名の通りの美貌で、長い黒髪を後部でひとつに結び笑う姿は、天女にも優ると女官達が噂しているのを聞いたことがある。
肩幅もあるし、背丈も文叔よりあるので女子に見間違うわけはないのだが、確かに彼の医師とは思えぬ優雅な立ち振る舞いは、後宮のどの妃よりも華やかで洗練されて見えた。
だが、その得体のしれなさはどちらかというと天女より魔物の類のようだと文叔は思う。
というのも、鏡花には文叔が十歳で即位したときから毎日診察されているが、その時から見目形が全く変わっていないのだ……どころか寧ろどんどんその美貌が増している気がする。
その胡散臭い笑顔は文叔が物心ついた頃から全く変わず、不老不死の術を使っているのでは噂する者もいるほどだ。
「今朝も体調は最悪だよ。医師として失格だな。お前はクビ」
「またまた御冗談を。それでは失礼しますよ」
長年の付き合いの気安さで受け流し、鏡花がその長い指で文叔の顎をすくって口の中を覗いた。舌べろ、まぶたの下、脈を流れるように確認した後、ふむ、と唸る。
「腎虚の症状が進んでしまっておりますね」
「朝起きた途端に疲れているのはそのせいか?」
「腎虚は房事過多で進みます。まあ、皇帝陛下の職業病のようなものですから仕方ないですね」
カラッと笑って帰る身支度をしようとするので慌てて引き止めた。
「おい、こら、ヤブ。その腎虚をなんとかするのがお前の役割だろうが」
「しかし、そんなことを仰られても。病の本質は原因を排除しないことにはどうにもなりません。いくら薬や食事で養生しても限度がございます。陛下が房事過多になるのは、そのお役目上やむを得ませんので、打つ手なしといったところです」
涼しい顔でしれっとそんなことを言う鏡花を、文叔は必死に引き留めた。
「なんで医師のほうがそんな簡単に諦めるのだ。国で一番えらい医師ならもっと努力しろ。例えば……例えば房事をもっと控えさせた方がいいと……宰相に進言するとか……」
「──房事、嫌なんですか?」
チラリと上目遣いで尋ねられ、目を逸らす。返答を待っている気配がしたが、黙って無視した。
鏡花は大袈裟にため息をつく。
「国家の長たる方が情けない」
「やかましい。毎晩毎晩相手にしてみろ。女を見ただけで萎えてくるぞ」
「陛下は王子がお一人、姫がお二人。歴代の王の中でもまだまだ御子が少のうございます。それぐらいしかやることがないんですから、せっせとお励みあそばせ」
しれっと無礼なことを言う鏡花を睨みつけると、薄っすらと笑みを浮かべながら耳元で囁かれた。
「──秘具をお渡ししたではありませんか。あれはどうしたんですか」
突然の話題に驚いて顔を向けると、ぞっとするほど整った顔がこちらをまっすぐ見た。無視することを許さなれない圧に仕方なく白状する。
「一応……使っているが、お前がやるようには上手くいかない」
鏡花はなぜか笑みを深める。そっとその手が文叔の着物の裾を割った。
「……っ」
ひやっとした手が内腿に触れ、条件反射のように浅く座って足を開いた。後ろのすぼまりに鏡花の指が入っていく感触に、つい息を詰める。
「幼い頃からずっとこうやって触診しておりますのに……貴方はいまだにここを触ると緊張なさる」
「うるさい」
からかいを含んだ声に腹がたったが、抗議の声にも力が入らない。腎の臓器の状態はここで確認するのが一番なのだそうだが、そこを弄られるとどうにも自分を保つのが難しい。
「ほら。ここですよ。貴方の指では届かないけど、秘具なら届くでしょう? 姫君達との交合の前に、あれでここを擦って行けば不得手な房事などすぐ終わってしまいますよ」
「んっ、……で、でも。あれ……こわい……」
鏡花から貰った秘具とは、先端に馬の顔を模った細瓜のような形の木棒だ。その見た目のおどろおどろしさからして恐ろしくて仕方ないのだが、鏡花はそれを毎日閨房の前に尻に入れてから行くようにと指示した。無論拒んだが、先日その木棒の有用性が分かるまで延々とそれで尻を責められ、半ば無理やり使うことを約束させられた。
「おやおや。天下の龍王が嘆かわしい。私の指はこんな容易に飲み込んで行くのに。ほら、ここですよ」
「……あぅっ、んんっ!」
鏡花に弱いところを擦られ、文叔はあっという間に精を漏らした。鏡花はそれをすくって舐める。
「ふむ……酸味はないので熱病などにはかかってらっしゃらないですね。だが、随分と薄くてらっしゃる」
吐精の余韻でぐったりと椅子にもたれながら喘ぐことしか出来ない文叔を見下ろしながら、鏡花がまたため息をついた。
「一度吐精したくらいで、そのような様子では……確かに姫達との房事は気が重いでしょうね」
ひたすら睨むことしか出来ない文叔の顔を覗きこみ、ふいに真面目な顔で言った。
「一度、房中術を試してみてもよろしいかもしれませんね」
「……房中術って。あの交合で不老長寿になるっていう、あれか?」
やっと息が整い尋ねると、鏡花は慇懃な態度で頷いた。
「そうです。男女の気を交え、陰陽の気の調和を図る、あれです」
「だが、あれはひどく体を損ねる可能性があると、禁法になったはず」
「陛下は信じてくださいませんが、私は国一番の医師ですよ。儒教学者崩れが房中術を語りだしたからおかしなことになったのです。きちんと医学に基づけば、不老長寿とまではいかなくても、心身を健康に導くことが出来ます」
こういうときの鏡花は、妙に説得力がある。それ以上反論する気にもなれず黙っていると「では、早速今夜試してみましょう」と言った。
「今夜……というと、妃との寝所にお前も来るということか?」
「いいえ。陛下の寝室がよろしいかと。私と陛下で房中術を試みますので」
「──は?」
いまなにか聞き間違えただろうか。
「俺と、お前?」
「はい。私と陛下で」
鏡花が涼しい顔で繰り返す。
「だが、俺も男でお前も男だ」
「それなんですがね……」
その質問を待ってましたと言わんばかりに鏡花は仰々しく天を仰いだ。
「陛下は陰が極まる冬至のお生まれ。そもそも男とは陽盛であるものですが陛下は陰の要素が非常に大きい。そのせいで女人の陰と交わると陰の気が高まりすぎ体調を崩しておられる」
要は、ふつう男は陽、女は陰という性質を持つが、文叔は陰の性質が高いため、体調を崩しやすいということらしい。
「陽が欠けて陰の邪が増している状態です。だから私の陽を貴方に分け与えます」
「でも、どうやって……」
「詳しいことは今夜。陛下は身を清めて寝所でお待ちください。では」
鏡花は質問には答えないまま襟元を正すと、颯爽と部屋から出て行ってしまった。
※※※
いつも通りの一日を終え、いつも通り身を清め。異なるのは湯浴みのあと、後宮に向かわず自室に戻らされたということだ。
普段だったら屏風の後ろに控えている女官たちもしずしずと退室していった。なんでも鏡花に術式の邪魔になるから出ているようにと指示されたらしい。なんで皇帝の文叔ではなく、鏡花の指図に従うのか……と思うがいつもこんな感じなので仕方ない。
文叔は昔から病弱で城の者に軽んじられているし、鏡花は前の皇帝の代から宮仕えしているせいか誰も逆らえないところがある。医師のくせに宰相にまで顔がきくので、侍従や女官も文叔よりも鏡花の顔色の方を伺うのだ。
(まあ、だから逆に鏡花といるときは楽なんだけど)
生まれた頃から、常に人に見られているので、自分に視線が集まらない瞬間は正直ホッとした。鏡花には絶対言うことはないが、朝の診察の時間は文叔にとって唯一気が抜ける貴重な時間だった。
しかし……。
そわそわと、しきりに部屋の扉を眺めてしまう自分に戸惑う。
(もしかして俺は、緊張しているのだろうか)
房中術、すなわち性行為である。
いくら真面目な術といっても、そこには性のまぐわいが必須であるはずだ。この自分が、鏡花とまぐわうのだろうか。男同士でどうやるかは知らないが、男の愛人が父にも何人かいたのは知っている。だから出来ないわけではないだろうが。あの美貌の鏡花を自分の下に組み敷くのかと思うと何故か尻穴がキュッとすぼんだ。
「失礼します」
扉が開き、恭しく鏡花が寝台に近づいた。いつも着ている白の袍服に変わり、今夜は単衣だけ纏った簡素な姿だ。緩く結いた髪はほつれた部分が額にかかり、それを見ているだけでなんだか心臓が妙にざわついた。
「それでは、これより房中術を行います」
まるでこれから診察をはじめるような神妙な顔で、鏡花が寝台の上に座った。いつもなら気にならない衣擦れの音がやたらと響いて自分でも顔が赤くなるのが分かる。妃達に近寄られても、なんとも思ったことがないのに。なぜ、こんなにこの男に近寄られると面映ゆいのだろう。
「まずは、陰陽の気を和合させることから始めます。急病でない限り治則は緩則治本が基本。すなわち急がず、ゆっくりと私と陛下の気を交じりあわせるわけです」
自分はこんなにも落ち着かない心地なのに、鏡花といえば全く気にしていないような涼しい顔だ。意識しているのは自分ばかりなのかと思うと何故か胸に冷たい風が吹いた。
誤魔化すように文叔も冷静を保って尋ねる。
「だから、それってどうやって……」
「こうするのです」
「……っ!?」
疑問は鏡花の唇に吸い取られた。
優しく、けれど有無を言わせぬ強引さで口を塞がれる。
房中術はイコール性交だとは理解していたつもりだが、まさか口吸いをすることになるとは。驚き過ぎて固まっていると、その隙をついたようにあろうことか舌まで侵入したきた。
「……んんっ」
正直に言えば。
文叔は妃達との口吸いがあまり好きではなかった。
何が気持ちいいのかもよく分からず、簡単に口を合わせてすぐ行為の方に進むことが多い。中には強引に向こうの方から舌を入れてくる妃もいたが、その奇妙な感触に酷く辟易した。
それが……なぜこんな。
「んふぅ……ちゅむ……ん、ふぅ……っ」
自分の口の中に、こんなにも気持ちよくなる箇所があるとは。これが房中術というものだのだろうか。中の形を教えられるようにゆっくりとなぞられ、吸われるとゾクゾクとしたものが腰骨を走り、体がぐにゃりと緩む。倒れ込みそうになるのを、見た目よりもガッシリとした鏡花の腕に支えられた。
「は……ちゅっ……ぁ……」
なおもお互いのすべての唾液を交換するような口吸いは続き、いつの間にか寝台に横になっていた。
「ふふっ、唾液が垂れてらっしゃいますよ。陛下は接吻がお好きなのですね」
そんなはずない。むしろ嫌いだったはずなのに。反論したいが、体に力が入らないし、なんだか頭がぼんやりしてうまく言葉に出来そうにない。
(これ……が、房中術?)
「陛下、いまのはただの接吻ですよ。房中術はこれからです」
なにも言っていないのにまるでこちらの心を読んだように鏡花が薄く笑う。
「さあ、では始めますよ。まずは任脈をたどります」
鏡花の指先が文叔の唇の下に触れ、そのままゆっくりと顎から胸へと降りていく。いつの間にか帯を抜かれ、はだけた胸元をそっと揉まれた。
「なっ、そ、れは……」
「しっ。もう房中術は始まっているのですよ。乳根から乳中のツボを刺激します」
耳元で囁かれ、腰の奥がぞくりと震えた。
静かな声とは裏腹な熱い指先が胸の膨らみをなぞった後、きゅっと乳首をつままれた。
「んあぁっ、や、あ、いたっ」
「おやおや。陛下の慎ましい二輪の花を摘んだ姫はまだいらっしゃらないようですね。指ですと痛むようですから、方法を変えましょう」
そう言うと、あろうことか乳首ごと口に含まれた。
「ひあぁっ、そんなっ、あ、んん……っ!」
ころころと舌で先端を転がされ、未知の感覚に驚くほどの快感が走った。そこが下半身と直接繋がっているのではないかというほどの悦楽に、文叔は息も絶え絶えになる。
「そ、そこは……んっ、なんのための、んひっ、ツボなの、だっ!?」
鏡花は僅かに間を開けて、ちゅぱっと音を立てながら乳首から顔を上げて言った。
「乳がよく出るのですよ」
「──は?そ、それっ、房中術と関係な、、、いっ、ひぁんっ!」
抗議しようとするも、今までになく強く吸われ頭が真っ白になる。乳首を舌で刺激されながら、ゆっくりと臍へと降りてくる指が、まるで皮膚の内側を触られているかのように鋭敏に感じる。下半身に熱が集まる感覚に、文叔はどうしようもなく身悶えた。
「せっかくここを気に入っていただいたようですが、督脈への刺激に移りますよ」
「あ、んんっ」
軽く乳首を噛まれた刺激に驚いている隙に、くるりと体をうつ伏せにさせられた。先程散々舐められ敏感になった乳首が寝台に擦れて鋭い刺激を生む。
「ふふっ、腰が動いていらっしゃいますよ陛下」
「あ、あっ、だって、は、あ、んんっ……!」
すっかり硬くなってしまった中心をどうにかしたくて、無意識に寝台に擦りつけてしまうのをやめられない。そんな文叔を咎めるかのように鏡花に項を甘噛みされた。
「ここは鼻血のツボです」
「~~~~ッ!」
だから、それは関係ないだろうと言いたいのに、感じすぎて声にならない。まるで全身性感帯になってしまったかのように、鏡花が触れてくる度に達しそうになるほど気持ちよかった。
鏡花の舌はどんどん下に降りていき、尻を舐められていると気づいた頃には、文叔の下半身は自分が先走ったものですでに濡れそぼっていた。
「あぁぁっ、ひあっあぁっ」
信じられないことに、尻の穴の中を舐められて文叔はとうとう達してしまった。そんな不浄の場所を舐められたこともショックだったが、それがどうしようもないほどの快感となったことが信じられない。
「もっ、あ、あ、やぁぁぁっ、あ……んんっ」
文叔が 気をやってもなお尻の窄みをふやけるほど舐められ続け、上に逃れようとしてもがっちりと尻を両手で抑えつけられた。
「ひうっ、ああ、あっ、あうっ、う、うぇ……っ」
永遠にも感じる途方もない悦楽に、文叔はとうとう泣き出した。快感は度を超えると恐怖になるのだと、文叔はこのとき初めて知ることとなった。それでも尻の中の舌はいっこうに出ていくことはなく、やっと舌が離れた頃には、抵抗する気力もなくなり前も後ろもぐっしょりと濡れていた。
「さて、それでは本番と参りましょう」
尻の窄みに熱いものが充てがわれても、快楽に溶けきった頭ではそれが暫くなんなのか分からなかった。メキメキと剛直が内壁を割り入ってきてやっと、自分が「女」の役割をするのだと理解した。
「あ、あ、う、そ……きょ、うかぁ……ッ」
「陛下、たっぷり解しましたが。私のものはかなり大きめです。ゆっくり息を吐きなさい」
「そ、そんなっ、む、りぃぃっ」
「陛下なら出来ますよ。ほら、前を弄って差し上げますから」
「あ、う、ん……ッ、はぁ、んッ」
前を指で弄られ、快感で腰が震えたと思った途端、後ろからズンッと突き上げられた。
「ああぁ……ッ、ひ、いんッ」
凄まじい圧迫感で息も出来ぬほどなのに、その剛直で中を擦られると下腹の奥がどんどん熱くなるのが自分でわかる。
「あ、あ、はぅっ、な、んでぇっ、あぁんッ」
「処女なのに感じるのはおかしなことではありませんよ。房中術は女側が過敏になりやすいもの。辛抱なさらず快楽に身を委ねなさない」
苦しいのに死ぬほど気持ちいい。ソコを擦られると前からも後ろからも、何かが漏れでてしまう感覚に襲われた。寝台の布は洪水のように濡れていたので、実際そうだったのかもしれない。自分という肉体が快楽でしか形作らなくなり、確かなものは腹の奥を埋める熱い楔のみとなった。
(──溶ける……)
腹の奥の熱が、全身を溶かしていく。この世の煩わしいものまで全て、蜜のようにどろりと溶け出す音が聞こえるようだ。
「丹田に陽の気が集まっているのがお分かりですか。熱くて仕方ないでしょう。と、言っても聞こえていませんかね」
「あぁぁ、あ、うぅっ……あひ、ぃんッ、あ─……ッ」
いまや口から出そうなほど深くまで入り込んだ熱の塊は、今にも破裂しそうなほど中で脈打って、それがまた快感となった。鏡花の声がどこか遠くで聞こえる。穿たれたときの淫猥な水音だけ、やけに耳元に響いて聞こえた。
「きょ、う、かっ、あ、あぁッんんっ」
過ぎる快楽が恐ろしく、無意識に手を伸ばすと力強く手を握られ、噛みちぎるように口付けられた。
「ふぅ……お可愛らしい。うっかり我を忘れてしまいそうです。どんどん腎虚の症状を悪化させ皇帝などさっさと退位すればいい。その為に子供を作ることも許したんだ」
「あ、あ、ああぁんッ、ひ、ひああぁッ」
激しい突き上げに、見も世もなく泣き叫んだ。抽挿はますます勢いを増し、腹奥の灼熱は逃げ場を失い膨れ上がり、今にも弾けそうだった。
「や、あ──ッ、でちゃうっ、あ、あぁぁぁッ!」
「……いいですよっ。女達が与えた快感など、全部忘れるほどの波に身を任せてしまいなさいっ」
一際強く穿たれて、深い快感に大きく背をしならせた。足先まで震え、快感が突き抜ける。途端、中に熱い液体が噴射されるのを感じ、とうとう自分は溶けきってしまったのだと錯覚した。鏡花に溶かされ、自分という存在が曖昧になる。そのくせ感覚は酷く鋭敏で、耳元に吐息を感じただけで腰が震えた。
「早く私と共に隠居生活を送りましょうね」
朦朧とした頭では、鏡花が何を言っているのか理解出来ない。
だが、その声音は酷く甘かった──。
※※※
「──で、これで俺も健康になったんだろうな」
いつの間にか意識を手放していた文叔が目覚めると、衣服はすっかり綺麗に整えられ、寝台も何事もなかったように整えられていた。ともすればあれは泡沫の夢だったのではないかと思うほどだが、腰の尋常じゃない重みが、確かに現実にあったことなのだと思い知らせてくる。
「それなんですがね、実は失敗しました」
「はぁぁあ!? だって、お前、あんなに自信満々だったのにっ」
「本来男性が吐精してはいけないのですが、陛下の中があまりにも気持ちよくて保つことが出来ませんでした。申しわけありません」
「なっ……!」
あまりのことに開いた口が塞がらない。なにか言ってやりたいが、茹で蛸のように顔を赤くしハクハクと無意味に空気を吸うことしか出来なかった。
ぬけぬけと失敗したと言って、対して悪びれている様子もない。なんて奴だと叱責してやりたい。やりたいが。
(俺の中が……気持ちよかったのか。ふ、ふーん……そうか……)
それ以上何も言えない文叔に向かって、鏡花は深くお辞儀しながら言った。
「つきましては、再度日を改めて房中術を行いたく……」
失敗したうえに、もう一度やりたいとは。なんと図々しい。
だが、文叔は慈悲深き君主であった。
「許す」
自分の声が鏡花の目線ほどは甘ったるくはなかったと、信じたい。
どれくらい広いかというと、七丈の高さはある城壁が九里ほど四方に伸び、門は一面につき三つ東西南北で十二門。そこから三筋の道が伸び重なった中央の巨大で真っ赤に塗られた建物が文叔の家だ。
そして、その中の一番奥にある最も豪奢な部屋が文叔の部屋である。
そんな素敵な部屋での目覚め。
はっきり言って最悪である。
(──だっる……)
雨音が僅かに聞こえ、窓に目をやる。この部屋の為だけに作られた池に波紋が広がり竹林の姿を歪んで写し出した。
麗しい情景に心が弾むどころが、うんざりとしながら重たい身体を起こす。
「しんど……」
思わず呟いたところで朝の支度をするため女官が入ってきた。聞かれたかとヒヤリとしたが、素知らぬ顔の女官の顔を見て、気付かれないようにそっと嘆息する。
腰から下が重だるく、身体のあちこちが痛んだ。昨夜は夏妃の処にわたり、その前の晩は玲妃。その前は誰だったか……。
皇帝の責務とは言え、連日の交合は流石に体に堪えた。
(皇帝に早死するものが多いのは、絶対性交しすぎなせいだな)
文叔は鉛のように重い身体を誤魔化しながら、促されるまま曲縁の椅子に座り一息ついた。
「陛下、御典医様がおみえです」
「通せ」
代わり映えしないやり取りに、殆ど反射的に返答した。
皇帝の日課は数多くあるが、朝一番は必ず医師の診察からはじまる。
「失礼いたします。今朝の体調はいかがですか」
扉の向こうから現れたのは、文叔専属の持医、泊鏡花だ。
雅な名の通りの美貌で、長い黒髪を後部でひとつに結び笑う姿は、天女にも優ると女官達が噂しているのを聞いたことがある。
肩幅もあるし、背丈も文叔よりあるので女子に見間違うわけはないのだが、確かに彼の医師とは思えぬ優雅な立ち振る舞いは、後宮のどの妃よりも華やかで洗練されて見えた。
だが、その得体のしれなさはどちらかというと天女より魔物の類のようだと文叔は思う。
というのも、鏡花には文叔が十歳で即位したときから毎日診察されているが、その時から見目形が全く変わっていないのだ……どころか寧ろどんどんその美貌が増している気がする。
その胡散臭い笑顔は文叔が物心ついた頃から全く変わず、不老不死の術を使っているのでは噂する者もいるほどだ。
「今朝も体調は最悪だよ。医師として失格だな。お前はクビ」
「またまた御冗談を。それでは失礼しますよ」
長年の付き合いの気安さで受け流し、鏡花がその長い指で文叔の顎をすくって口の中を覗いた。舌べろ、まぶたの下、脈を流れるように確認した後、ふむ、と唸る。
「腎虚の症状が進んでしまっておりますね」
「朝起きた途端に疲れているのはそのせいか?」
「腎虚は房事過多で進みます。まあ、皇帝陛下の職業病のようなものですから仕方ないですね」
カラッと笑って帰る身支度をしようとするので慌てて引き止めた。
「おい、こら、ヤブ。その腎虚をなんとかするのがお前の役割だろうが」
「しかし、そんなことを仰られても。病の本質は原因を排除しないことにはどうにもなりません。いくら薬や食事で養生しても限度がございます。陛下が房事過多になるのは、そのお役目上やむを得ませんので、打つ手なしといったところです」
涼しい顔でしれっとそんなことを言う鏡花を、文叔は必死に引き留めた。
「なんで医師のほうがそんな簡単に諦めるのだ。国で一番えらい医師ならもっと努力しろ。例えば……例えば房事をもっと控えさせた方がいいと……宰相に進言するとか……」
「──房事、嫌なんですか?」
チラリと上目遣いで尋ねられ、目を逸らす。返答を待っている気配がしたが、黙って無視した。
鏡花は大袈裟にため息をつく。
「国家の長たる方が情けない」
「やかましい。毎晩毎晩相手にしてみろ。女を見ただけで萎えてくるぞ」
「陛下は王子がお一人、姫がお二人。歴代の王の中でもまだまだ御子が少のうございます。それぐらいしかやることがないんですから、せっせとお励みあそばせ」
しれっと無礼なことを言う鏡花を睨みつけると、薄っすらと笑みを浮かべながら耳元で囁かれた。
「──秘具をお渡ししたではありませんか。あれはどうしたんですか」
突然の話題に驚いて顔を向けると、ぞっとするほど整った顔がこちらをまっすぐ見た。無視することを許さなれない圧に仕方なく白状する。
「一応……使っているが、お前がやるようには上手くいかない」
鏡花はなぜか笑みを深める。そっとその手が文叔の着物の裾を割った。
「……っ」
ひやっとした手が内腿に触れ、条件反射のように浅く座って足を開いた。後ろのすぼまりに鏡花の指が入っていく感触に、つい息を詰める。
「幼い頃からずっとこうやって触診しておりますのに……貴方はいまだにここを触ると緊張なさる」
「うるさい」
からかいを含んだ声に腹がたったが、抗議の声にも力が入らない。腎の臓器の状態はここで確認するのが一番なのだそうだが、そこを弄られるとどうにも自分を保つのが難しい。
「ほら。ここですよ。貴方の指では届かないけど、秘具なら届くでしょう? 姫君達との交合の前に、あれでここを擦って行けば不得手な房事などすぐ終わってしまいますよ」
「んっ、……で、でも。あれ……こわい……」
鏡花から貰った秘具とは、先端に馬の顔を模った細瓜のような形の木棒だ。その見た目のおどろおどろしさからして恐ろしくて仕方ないのだが、鏡花はそれを毎日閨房の前に尻に入れてから行くようにと指示した。無論拒んだが、先日その木棒の有用性が分かるまで延々とそれで尻を責められ、半ば無理やり使うことを約束させられた。
「おやおや。天下の龍王が嘆かわしい。私の指はこんな容易に飲み込んで行くのに。ほら、ここですよ」
「……あぅっ、んんっ!」
鏡花に弱いところを擦られ、文叔はあっという間に精を漏らした。鏡花はそれをすくって舐める。
「ふむ……酸味はないので熱病などにはかかってらっしゃらないですね。だが、随分と薄くてらっしゃる」
吐精の余韻でぐったりと椅子にもたれながら喘ぐことしか出来ない文叔を見下ろしながら、鏡花がまたため息をついた。
「一度吐精したくらいで、そのような様子では……確かに姫達との房事は気が重いでしょうね」
ひたすら睨むことしか出来ない文叔の顔を覗きこみ、ふいに真面目な顔で言った。
「一度、房中術を試してみてもよろしいかもしれませんね」
「……房中術って。あの交合で不老長寿になるっていう、あれか?」
やっと息が整い尋ねると、鏡花は慇懃な態度で頷いた。
「そうです。男女の気を交え、陰陽の気の調和を図る、あれです」
「だが、あれはひどく体を損ねる可能性があると、禁法になったはず」
「陛下は信じてくださいませんが、私は国一番の医師ですよ。儒教学者崩れが房中術を語りだしたからおかしなことになったのです。きちんと医学に基づけば、不老長寿とまではいかなくても、心身を健康に導くことが出来ます」
こういうときの鏡花は、妙に説得力がある。それ以上反論する気にもなれず黙っていると「では、早速今夜試してみましょう」と言った。
「今夜……というと、妃との寝所にお前も来るということか?」
「いいえ。陛下の寝室がよろしいかと。私と陛下で房中術を試みますので」
「──は?」
いまなにか聞き間違えただろうか。
「俺と、お前?」
「はい。私と陛下で」
鏡花が涼しい顔で繰り返す。
「だが、俺も男でお前も男だ」
「それなんですがね……」
その質問を待ってましたと言わんばかりに鏡花は仰々しく天を仰いだ。
「陛下は陰が極まる冬至のお生まれ。そもそも男とは陽盛であるものですが陛下は陰の要素が非常に大きい。そのせいで女人の陰と交わると陰の気が高まりすぎ体調を崩しておられる」
要は、ふつう男は陽、女は陰という性質を持つが、文叔は陰の性質が高いため、体調を崩しやすいということらしい。
「陽が欠けて陰の邪が増している状態です。だから私の陽を貴方に分け与えます」
「でも、どうやって……」
「詳しいことは今夜。陛下は身を清めて寝所でお待ちください。では」
鏡花は質問には答えないまま襟元を正すと、颯爽と部屋から出て行ってしまった。
※※※
いつも通りの一日を終え、いつも通り身を清め。異なるのは湯浴みのあと、後宮に向かわず自室に戻らされたということだ。
普段だったら屏風の後ろに控えている女官たちもしずしずと退室していった。なんでも鏡花に術式の邪魔になるから出ているようにと指示されたらしい。なんで皇帝の文叔ではなく、鏡花の指図に従うのか……と思うがいつもこんな感じなので仕方ない。
文叔は昔から病弱で城の者に軽んじられているし、鏡花は前の皇帝の代から宮仕えしているせいか誰も逆らえないところがある。医師のくせに宰相にまで顔がきくので、侍従や女官も文叔よりも鏡花の顔色の方を伺うのだ。
(まあ、だから逆に鏡花といるときは楽なんだけど)
生まれた頃から、常に人に見られているので、自分に視線が集まらない瞬間は正直ホッとした。鏡花には絶対言うことはないが、朝の診察の時間は文叔にとって唯一気が抜ける貴重な時間だった。
しかし……。
そわそわと、しきりに部屋の扉を眺めてしまう自分に戸惑う。
(もしかして俺は、緊張しているのだろうか)
房中術、すなわち性行為である。
いくら真面目な術といっても、そこには性のまぐわいが必須であるはずだ。この自分が、鏡花とまぐわうのだろうか。男同士でどうやるかは知らないが、男の愛人が父にも何人かいたのは知っている。だから出来ないわけではないだろうが。あの美貌の鏡花を自分の下に組み敷くのかと思うと何故か尻穴がキュッとすぼんだ。
「失礼します」
扉が開き、恭しく鏡花が寝台に近づいた。いつも着ている白の袍服に変わり、今夜は単衣だけ纏った簡素な姿だ。緩く結いた髪はほつれた部分が額にかかり、それを見ているだけでなんだか心臓が妙にざわついた。
「それでは、これより房中術を行います」
まるでこれから診察をはじめるような神妙な顔で、鏡花が寝台の上に座った。いつもなら気にならない衣擦れの音がやたらと響いて自分でも顔が赤くなるのが分かる。妃達に近寄られても、なんとも思ったことがないのに。なぜ、こんなにこの男に近寄られると面映ゆいのだろう。
「まずは、陰陽の気を和合させることから始めます。急病でない限り治則は緩則治本が基本。すなわち急がず、ゆっくりと私と陛下の気を交じりあわせるわけです」
自分はこんなにも落ち着かない心地なのに、鏡花といえば全く気にしていないような涼しい顔だ。意識しているのは自分ばかりなのかと思うと何故か胸に冷たい風が吹いた。
誤魔化すように文叔も冷静を保って尋ねる。
「だから、それってどうやって……」
「こうするのです」
「……っ!?」
疑問は鏡花の唇に吸い取られた。
優しく、けれど有無を言わせぬ強引さで口を塞がれる。
房中術はイコール性交だとは理解していたつもりだが、まさか口吸いをすることになるとは。驚き過ぎて固まっていると、その隙をついたようにあろうことか舌まで侵入したきた。
「……んんっ」
正直に言えば。
文叔は妃達との口吸いがあまり好きではなかった。
何が気持ちいいのかもよく分からず、簡単に口を合わせてすぐ行為の方に進むことが多い。中には強引に向こうの方から舌を入れてくる妃もいたが、その奇妙な感触に酷く辟易した。
それが……なぜこんな。
「んふぅ……ちゅむ……ん、ふぅ……っ」
自分の口の中に、こんなにも気持ちよくなる箇所があるとは。これが房中術というものだのだろうか。中の形を教えられるようにゆっくりとなぞられ、吸われるとゾクゾクとしたものが腰骨を走り、体がぐにゃりと緩む。倒れ込みそうになるのを、見た目よりもガッシリとした鏡花の腕に支えられた。
「は……ちゅっ……ぁ……」
なおもお互いのすべての唾液を交換するような口吸いは続き、いつの間にか寝台に横になっていた。
「ふふっ、唾液が垂れてらっしゃいますよ。陛下は接吻がお好きなのですね」
そんなはずない。むしろ嫌いだったはずなのに。反論したいが、体に力が入らないし、なんだか頭がぼんやりしてうまく言葉に出来そうにない。
(これ……が、房中術?)
「陛下、いまのはただの接吻ですよ。房中術はこれからです」
なにも言っていないのにまるでこちらの心を読んだように鏡花が薄く笑う。
「さあ、では始めますよ。まずは任脈をたどります」
鏡花の指先が文叔の唇の下に触れ、そのままゆっくりと顎から胸へと降りていく。いつの間にか帯を抜かれ、はだけた胸元をそっと揉まれた。
「なっ、そ、れは……」
「しっ。もう房中術は始まっているのですよ。乳根から乳中のツボを刺激します」
耳元で囁かれ、腰の奥がぞくりと震えた。
静かな声とは裏腹な熱い指先が胸の膨らみをなぞった後、きゅっと乳首をつままれた。
「んあぁっ、や、あ、いたっ」
「おやおや。陛下の慎ましい二輪の花を摘んだ姫はまだいらっしゃらないようですね。指ですと痛むようですから、方法を変えましょう」
そう言うと、あろうことか乳首ごと口に含まれた。
「ひあぁっ、そんなっ、あ、んん……っ!」
ころころと舌で先端を転がされ、未知の感覚に驚くほどの快感が走った。そこが下半身と直接繋がっているのではないかというほどの悦楽に、文叔は息も絶え絶えになる。
「そ、そこは……んっ、なんのための、んひっ、ツボなの、だっ!?」
鏡花は僅かに間を開けて、ちゅぱっと音を立てながら乳首から顔を上げて言った。
「乳がよく出るのですよ」
「──は?そ、それっ、房中術と関係な、、、いっ、ひぁんっ!」
抗議しようとするも、今までになく強く吸われ頭が真っ白になる。乳首を舌で刺激されながら、ゆっくりと臍へと降りてくる指が、まるで皮膚の内側を触られているかのように鋭敏に感じる。下半身に熱が集まる感覚に、文叔はどうしようもなく身悶えた。
「せっかくここを気に入っていただいたようですが、督脈への刺激に移りますよ」
「あ、んんっ」
軽く乳首を噛まれた刺激に驚いている隙に、くるりと体をうつ伏せにさせられた。先程散々舐められ敏感になった乳首が寝台に擦れて鋭い刺激を生む。
「ふふっ、腰が動いていらっしゃいますよ陛下」
「あ、あっ、だって、は、あ、んんっ……!」
すっかり硬くなってしまった中心をどうにかしたくて、無意識に寝台に擦りつけてしまうのをやめられない。そんな文叔を咎めるかのように鏡花に項を甘噛みされた。
「ここは鼻血のツボです」
「~~~~ッ!」
だから、それは関係ないだろうと言いたいのに、感じすぎて声にならない。まるで全身性感帯になってしまったかのように、鏡花が触れてくる度に達しそうになるほど気持ちよかった。
鏡花の舌はどんどん下に降りていき、尻を舐められていると気づいた頃には、文叔の下半身は自分が先走ったものですでに濡れそぼっていた。
「あぁぁっ、ひあっあぁっ」
信じられないことに、尻の穴の中を舐められて文叔はとうとう達してしまった。そんな不浄の場所を舐められたこともショックだったが、それがどうしようもないほどの快感となったことが信じられない。
「もっ、あ、あ、やぁぁぁっ、あ……んんっ」
文叔が 気をやってもなお尻の窄みをふやけるほど舐められ続け、上に逃れようとしてもがっちりと尻を両手で抑えつけられた。
「ひうっ、ああ、あっ、あうっ、う、うぇ……っ」
永遠にも感じる途方もない悦楽に、文叔はとうとう泣き出した。快感は度を超えると恐怖になるのだと、文叔はこのとき初めて知ることとなった。それでも尻の中の舌はいっこうに出ていくことはなく、やっと舌が離れた頃には、抵抗する気力もなくなり前も後ろもぐっしょりと濡れていた。
「さて、それでは本番と参りましょう」
尻の窄みに熱いものが充てがわれても、快楽に溶けきった頭ではそれが暫くなんなのか分からなかった。メキメキと剛直が内壁を割り入ってきてやっと、自分が「女」の役割をするのだと理解した。
「あ、あ、う、そ……きょ、うかぁ……ッ」
「陛下、たっぷり解しましたが。私のものはかなり大きめです。ゆっくり息を吐きなさい」
「そ、そんなっ、む、りぃぃっ」
「陛下なら出来ますよ。ほら、前を弄って差し上げますから」
「あ、う、ん……ッ、はぁ、んッ」
前を指で弄られ、快感で腰が震えたと思った途端、後ろからズンッと突き上げられた。
「ああぁ……ッ、ひ、いんッ」
凄まじい圧迫感で息も出来ぬほどなのに、その剛直で中を擦られると下腹の奥がどんどん熱くなるのが自分でわかる。
「あ、あ、はぅっ、な、んでぇっ、あぁんッ」
「処女なのに感じるのはおかしなことではありませんよ。房中術は女側が過敏になりやすいもの。辛抱なさらず快楽に身を委ねなさない」
苦しいのに死ぬほど気持ちいい。ソコを擦られると前からも後ろからも、何かが漏れでてしまう感覚に襲われた。寝台の布は洪水のように濡れていたので、実際そうだったのかもしれない。自分という肉体が快楽でしか形作らなくなり、確かなものは腹の奥を埋める熱い楔のみとなった。
(──溶ける……)
腹の奥の熱が、全身を溶かしていく。この世の煩わしいものまで全て、蜜のようにどろりと溶け出す音が聞こえるようだ。
「丹田に陽の気が集まっているのがお分かりですか。熱くて仕方ないでしょう。と、言っても聞こえていませんかね」
「あぁぁ、あ、うぅっ……あひ、ぃんッ、あ─……ッ」
いまや口から出そうなほど深くまで入り込んだ熱の塊は、今にも破裂しそうなほど中で脈打って、それがまた快感となった。鏡花の声がどこか遠くで聞こえる。穿たれたときの淫猥な水音だけ、やけに耳元に響いて聞こえた。
「きょ、う、かっ、あ、あぁッんんっ」
過ぎる快楽が恐ろしく、無意識に手を伸ばすと力強く手を握られ、噛みちぎるように口付けられた。
「ふぅ……お可愛らしい。うっかり我を忘れてしまいそうです。どんどん腎虚の症状を悪化させ皇帝などさっさと退位すればいい。その為に子供を作ることも許したんだ」
「あ、あ、ああぁんッ、ひ、ひああぁッ」
激しい突き上げに、見も世もなく泣き叫んだ。抽挿はますます勢いを増し、腹奥の灼熱は逃げ場を失い膨れ上がり、今にも弾けそうだった。
「や、あ──ッ、でちゃうっ、あ、あぁぁぁッ!」
「……いいですよっ。女達が与えた快感など、全部忘れるほどの波に身を任せてしまいなさいっ」
一際強く穿たれて、深い快感に大きく背をしならせた。足先まで震え、快感が突き抜ける。途端、中に熱い液体が噴射されるのを感じ、とうとう自分は溶けきってしまったのだと錯覚した。鏡花に溶かされ、自分という存在が曖昧になる。そのくせ感覚は酷く鋭敏で、耳元に吐息を感じただけで腰が震えた。
「早く私と共に隠居生活を送りましょうね」
朦朧とした頭では、鏡花が何を言っているのか理解出来ない。
だが、その声音は酷く甘かった──。
※※※
「──で、これで俺も健康になったんだろうな」
いつの間にか意識を手放していた文叔が目覚めると、衣服はすっかり綺麗に整えられ、寝台も何事もなかったように整えられていた。ともすればあれは泡沫の夢だったのではないかと思うほどだが、腰の尋常じゃない重みが、確かに現実にあったことなのだと思い知らせてくる。
「それなんですがね、実は失敗しました」
「はぁぁあ!? だって、お前、あんなに自信満々だったのにっ」
「本来男性が吐精してはいけないのですが、陛下の中があまりにも気持ちよくて保つことが出来ませんでした。申しわけありません」
「なっ……!」
あまりのことに開いた口が塞がらない。なにか言ってやりたいが、茹で蛸のように顔を赤くしハクハクと無意味に空気を吸うことしか出来なかった。
ぬけぬけと失敗したと言って、対して悪びれている様子もない。なんて奴だと叱責してやりたい。やりたいが。
(俺の中が……気持ちよかったのか。ふ、ふーん……そうか……)
それ以上何も言えない文叔に向かって、鏡花は深くお辞儀しながら言った。
「つきましては、再度日を改めて房中術を行いたく……」
失敗したうえに、もう一度やりたいとは。なんと図々しい。
だが、文叔は慈悲深き君主であった。
「許す」
自分の声が鏡花の目線ほどは甘ったるくはなかったと、信じたい。
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