上 下
35 / 99

抱いてください……③

しおりを挟む
「キャッ!」



「ごめん!」



「なんだ、誠二じゃない。」



「あの……」



「あ、誠二、さっきリップがとれているって言ってきたけど全然とれてなかったよ~」



「そっ……か。」



「……素直に美緒さんの具合見てきてほしいっていえばいいのに。まぁお義兄さんたちの前でそんなこと言えないか。」



「それで美緒は…?」



「ストレス性のものだと思う。ねぇ、誠二、本当にこれでいいの…?あんなに辛そうな美緒さんを見ていたら私っ…」



「ごめんな円花、巻き込ませて……」



「それは私が巻き込ませてって言ったから、後悔はしていないけど、でも美緒さんが……」



「いいよ、これで……お前だって俺の気持ちに共感してくれたじゃないか。同じ経験した者同士として。」



「そうだけど……でもこれじゃ美緒さんきっと後悔するよ。」



「兄さんがいるから…」



誠二から渡された水はぬるくて、私がトイレに立ったあとすぐ追いかけてきて
ここにずっと立っていたんだろうな。
美緒さんのことが心配で――



「円花さん?」




「あ、美緒さん…」



「もしかして待っていてくれたの?」



「あ……はい。あ、水どうぞ。もうぬるくなっていますけど。」



「ありがとう。飲みやすくてちょうどいいよ。」



ただ、ただ一人の男が好きなだけなのに…
美緒さんこんなにもいい人なのに
私という婚約者なんかがいても頑張ってほしい。




「この水、本当は誠二が美緒さんにって持ってきたんです。」



中途半端な優しさは美緒さんにとっては辛いものかもしれない。
だけどそれでも知っていてほしい、感じてほしい。
誠二は……本当は美緒さんのことを思っているんだってこと。



「そっか……」



誠二が買ってきた水を愛おしい表情で大事に抱く姿を見ると胸がチクリと痛む。
本当に…ただ、ただ誠二のことが好きなんだ。



「美緒…大丈夫か?」



「誠一さん…はい、大丈夫です。」



「もう今日は終わったから帰るところだ。父さんたちはもう帰った。俺は車を用意してもらうから。」



「お父様、僕も一緒に行きたい。」



「じゃあ、一緒に行こう。円花さん美緒をお願いします。」




「美緒さん、ここで座って待ってましょう。」



「円花さん…本当に色々とありがとう。」



「お礼はいいですから…ね?」



「今日のこともだけど……結婚のことも…」



「どういうこと……ですか?」



「……覚悟が決まったって感じかな。」



覚悟って……それは誠一さんとずっとこれから共に生きていくってこと?
誠二さんのことはもう完全に忘れるってことなの?
私がいなきゃ諦めなかったってことなの…?



「美緒さん、あの…」



「お義姉さん。」



「誠二さん…」



「具合大丈夫?」



「ごめんなさい、せっかくの席で…あ、お水ありがとう。」


「……俺も飲みすぎただけだから。」



嘘。
誠二さんお酒が入ったグラスには一口も口をつけていなかった。
いくら私が酔っぱらっていたからってそれぐらいはキチンと記憶にある。



誠二さんの優しさが心臓を一突きされるぐらい痛い。
だけど…この優しさにもう少し浸っていたい。
これぐらいは……いいかな?



「誠二さん……遅くなったけどおめでとうございます。」



フラフラの体でソファから立って笑って言っているつもりだった。
大丈夫、ちゃんと唇の端は上に上がっている。



「危ない…!」



時間が止まったかのように…スローモーションで今でも記憶としてよみがえる。
誠二さんが私の右腕と腰を支えて倒れそうな私を支えてくれた。



倒れゆく瞬間、涙の粒が瞳から離れていった。



そっか……私泣いていたんだ。
誠二さんのことを忘れるってさっき自分で決めたのに――



久しぶりの誠二さんの温もり、心臓の鼓動、吐息を感じれて
それだけで私のカラダはもう疼いてしまう。



カラダが誠二さんを欲して仕方ない。



誠二さん、











どうか、私を抱いてください。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

処理中です...