最後の恋人。

かのん

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失踪②

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「美咲さっ……!」


目を開けたら美咲さんが目の前にいてくれる
そんな甘い現実なんてない。
うなされていたのか、目を開いたら同時に涙が頬を伝った。


最後に泣いたのはいつだったのだろう…?
だからなのか、このあふれ出る涙をどうやって止めたらいいのかわからない。


あぁ、そうか……最後に泣いたのはミサキが亡くなった時でもない。
あの時はまだミサキが亡くなったことに実感もなかったし
自分に苛立っていて涙なんてでなかった。


最後に泣いた記憶は
“母親に捨てられた時”。



あの日は寒くて……でもあの家には帰りたくなかった。
俺の顔が綺麗で、自分が醜いことを気にしていた母親に
家に帰ればいつも怒られた。


『あんたなんて産まなきゃよかった。』


だから母親に置いて行かれても仕方ないって。
俺がこんな顔だから仕方ないって自分に言い聞かせてた。


言い聞かせたんだけど
やっぱり俺の中では“母親”だったんだ。
似ていなくても、罵倒されても、唯一の肉親でーー。
だから、あんな母親でも
置いて行かれたことはショックで
涙が止まらなかった。


封印していたあの時の記憶が今蘇る。
そういえばあの時母親は誰かを……抱っこしていた気がする。



「葵君!大丈夫か!?」


「とも…き…さんッ……」


「過呼吸で倒れたんだよ。ここは病院で……よかった~」


まさか久しぶりの涙をこの人に見られるなんてーー
でも涙について何も言わない。表情も変えない。
この人の懐の深さはどうなっているのだろう…?
美咲さんのことだってそうだ。
いつもこの人は見守って、そして温かく包み込んでくれる。


「葵君、ごめんなさいッ……」


「美咲さんのお母さん…?」


体をゆっくり起こすと美咲さんのお母さんが深々と俺に頭を下げている。


「何で謝るんですか?」


「あの子に聞いたわ……本当にッ…ごめんなさい!!」


「おばちゃん、何を美咲から聞いたの?何か知っていることがあるの?」



「美咲が……あなたの大事な人を殺したって…」


「え…?」


俺はミサキが死んだのは美咲さんじゃないって信じたかった。
だって俺の前での美咲さんは、俺が知ってる限りの美咲さんは
そんな人じゃない。
もう、悩みたくないんだ…もう、苦しみたくないんだ。
ミサキと美咲さんの間でーー。


「だからきっとあの子失踪したんだと思う。」


「でも美咲がどうして…人殺しなんか。」


「私も冗談でしょ?って本気にしなかった。だけどあの子言ったの。もし私がいなくなったら、きっとその人私に会いにくるって。あなたのことなのね……。」


「おばちゃん、ちょっと落ち着こう。ちょっと外で休もう、ね?」



智樹さんが美咲さんの母親を連れて外にでるのと同時に
龍と雅さんが入ってきた。


「葵…大丈夫か?」


「ごめん…ちょっと疲れているから寝るわ。」


「そっか……でも一言だけいいか?」


「え?」


「さっき聞こえてきたけど…美咲さんはミサキを殺してなんかいない。」


「どうしてそう言いきれる!?もう止めてくれよ…もう……ッ」


「葵……」



「ちょっと病室はお静かに…大丈夫ですか?」


看護婦さんの声が聞こえているけど
どんどん遠のいていく。
呼吸がしたいけど苦しくてできない。
なぁ、ミサキーー
俺をそっちに連れて行ってよ。
現実の世界で生きて行くのに疲れたよ、俺ーー。

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