最後の恋人。

かのん

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ちょっとだけ・・・甘えていい?②

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「……いいよ。もっとして。」



「え?」



「好きにしてくれていいよ。」



快感を感じるより痛みを感じたほうが少しでも嫌なこと忘れられそう・・・



“ザッ……”



自分にはあたらなかったけど、カッターが自分の顔の真横に刺さったのが音でわかる。



それと同時に目隠しを外されて手錠も外された。



“ハラハラ…”



起き上がるとカッターで刺されて髪の毛が少し切れたようで30センチぐらいの髪の毛が春のベッドに落ちた。



「俺はさ、美咲ちゃんみたいに恐怖を感じてない子には何も感じないんだよね。」



「ごめんなさい…」



何やっているんだろう私



人形になっておけばいいって思っていたけど



私も相手のこと人形って思っていたんだ



感情のない人形に抱かれればその場限りの関係になれるって



相手だって感情のある人間なのに――



春に借りた上着を着てふらふらと外に出てみたけど、朝4時は誰もいない。



スカートから見える太ももの傷を誰にも見られないほうがいい



髪の毛も変な長さになっちゃったし…



「ふふッ……自業自得。」



携帯にはセフレたちからのラインで未読がたまっている。



【いつ会える?】
【今からまたホテルいかない?】
【今日泊まりにこいよ。】



「なんか…疲れちゃった。」



ペタンと路上にお尻をついて座るとヒヤッと冷たさが脚から一気に心まで突き刺さってきた。



胸が苦しくなる理由は冷たさなんかじゃない。



こんな格好になっていても「大丈夫?」って声をかけてくれる人がいないからだ





でも自分からそう望んできたことなのに――



・・・無性に寂しい。



寂しい、寂しい、寂しい――

















「美咲さん!」



「え…?」



葵君の後ろから太陽の光が降り注いできてまぶしくて見れなかった。



だけど本当は太陽の光のせいじゃなくて、葵君がこのときの私にとって救世主で神様のように見えたからまぶしかったのかもしれない



「大丈夫ですか!?この傷は!?」



私のことを嘘でも心配してくれる葵君が声をかけてきてくれて



生きていてよかったって思った――



私を責める冷たい目をしながらも、こぼれた涙をすくってくれた手が温かかった



この女、龍から危ないやつの家から出てきたって連絡がきたと思ったら



血が出るような怪我して・・・



服は上は破れているけど男物の上着を着ている



ってことは無理やりされたというわけでもない



どれだけモノ好きなんだよ…



頭ではやっぱり最低なあばずれ女って思っているのに――



太陽の光に照らされてこぼれる涙は何で綺麗なんだろう



……震えている体を抱きしめてあげたくなるのは何でなんだろう?









「ちょっとだけ……甘えてもいい?」






普段なら年下にこんな風に甘えるなんて想像もしていなかった



だけどこのときは年齢とか関係なくて



ただ目の前にいる葵君に甘えたくて、頼りたくなって・・・



男性らしいゴツゴツとした太い鎖骨におでこを乗せて目を閉じた。




「美咲さん…もうこんなことやめてください。」



本当はいつも思ってた。



誰かこんな私を止めてって・・・



「こんなんじゃ、心も体が傷ついてばっかりで幸せを感じられないじゃないですか…」



「でも恋しても…また傷つくかも……」



「傷つくかもしれないです…でも恋はその人を思えば心が温かくなったり、イライラしたり…自分が生きているって実感できるじゃないですか。」




確かに裕也に恋をしていた時は



裕也のことを思えば胸が締め付けられたり、イライラしたり…



だけどまた明日、裕也に会いたくなっていた



今は誰でもいいからとフラフラして



顔や名前をいとおしく思い出す人はいない



生きてはいるけど操り人形のような日々



セフレでもいい



自分が求められたら生きているって実感できるような気がしてた



でも実感できるはずがなかった



だって私もセフレも相手は誰でもよかったんだから――



「自分を大事にしてください。お願いです…」



そう懇願する葵君の瞳にはうっすら涙が浮かんでいて



私はその涙が自分のために流されたものだと思ってた



だけどその涙は私のためじゃない



葵君が今でも愛おしいと思っている人への涙



その涙の訳を知るのはまだ先のことーー



「葵君は傷つくの怖くないの?」



「俺は生きている実感がないほうが怖いですよ...」



他の人から見れば傷の舐め合いの関係



恋したいけど怖くてできない私と



恋したいけどできない葵君



「俺も少しだけ...甘えていいですか?」



そういって私の左肩に頭を寄りかかってくる葵君が愛おしかった
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