sweet!!-short story-

仔犬

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お菓子くれても悪戯する

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車に戻って貰った衣装を広げてみたら本当に作り込まれてて、レイヤーさんもびっくりのレベル。そしてある衣装を見た瞬間これはもう先輩達に着せるしかないとクラブに戻って早速いつもの部屋に押しかけたおれたちの格好を見て3人が固まった。

「トリックオアトリート!!」

おれたちは既に着替えを済ませてすっかり変身済みだ。全員ケモ耳が生えてしっぽまで生えて、肉球付きの爪の生えたグローブもはめてガオガオモード全開。

服はパンクロック調の黒をメインとしたベルトの付いたパンツや革靴。所々が破れたようなデザインになっていてタンクトップの上に肩を出して羽織るレザーコートに首輪までとかなり作り込まれている。

それを着たおれたちは髪も跳ね上げにしてヤンチャを醸し出し、メイクでハロウィン仕様にして牙までつけ完全にオオカミ男になりきった。だと言うのに相変わらず先輩達は固まったままだ。ようやく瑠衣先輩がポツリと呟く。


「ナニソレ」

「オオカミ男ですよ、どう見ても」

「ワンコにしか見えないけど……」

「うるさいです。つべこべ言わずこれ着てください」


秋が瑠衣先輩に押し付けたのはピンクの仮装だ。そして特攻服である。


「ナニコレ」

「特攻服ですよ、どう見ても」

「オレに着ろって言ってるー?」

「他に誰が?」


白と黒とピンクのそれを見た瞬間いやもう、こんなの氷怜先輩達が着るしかなくない?天地がひっくり返ってもこれ先輩達しか着こなせなくない?ってなったのだから着てもらわなければいけない。

ジリジリと詰め寄るおれたちに見守っていた那加さんが吹き出した。


「この子らこれ車で発見した時からもうこのテンションで……あなた達が特攻服ってそれはもう……ふっ」

「わ、笑うな那加!!」


突っ込む亜蘭さんも笑いを堪えているようだ。何故苦笑気味なのかわかんないけど、これはおれたちのドリームなのだ。


「だってだって隊服って男のロマンだし!!これ着こなせるの、この手の頂点の先輩達しかいないって言うか、天下無敵唯我独尊なんて言葉背負えるの先輩達しか居ませんよ!!」

「サラシで着て欲しいです……」

「写真撮りたいっす1000枚くらい」

どうせコスプレするならカッコいい人にカッコいいものを着て欲しいではないか。しかもこの特攻服なんてもう本当におれたち大好きなのだ。
こんな時でしか着れないし、しかもおれたちが着るより本物が着ることにより完成する。


「氷怜先輩~、着て欲しいなあ……」


もうヨダレが出るほど見たくてたまらない。ソファに座っていた氷怜先輩の足元に膝をついてお願いすると大きな手が頬を撫でた。

「……これはどーした」

「あそこのクラブのオーナーが寄越したんですよ」

「ああ、サクラの……」


もふもふでグレーと黒、白の毛が混ざったケモ耳を触られると作り物なのにくすぐったくて思わず笑ってしまう。


「似合いますか?これ」

「可愛い」


ふって小さく笑う氷怜先輩。
目尻を下げて笑ってくれるからあのお兄さんの期待通り先輩は喜んでくれているらしい。でもそんな事は関係なく可愛いとか言われたらおれも嬉しくなっちゃう。

「菓子、ねえな」

「へ」

「……ああ無いね、そうだね」

優に腕を広げて暮刃先輩が仕方なさそうに頷いた。優が白の特攻服を持ちながら暮刃先輩の腕の中に収まるとその胸板に仮装を合わせる。


「やっぱり白」

優が微笑むと優の首輪を暮刃先輩の指が撫でる。

「……これ着てお願いしたら叶えてくれるって思って先に着たでしょ」

「んー、半分くらいは」


くすくすと笑う優の頬を暮刃先輩が摘んで見せる。早く着て見せたかったのが残り半分なので秋もおれもなんとも言えない顔になってしまう。

「可愛いと余計に生意気な子に見える」

「でも可愛いんですよね」

今度は悪戯っこみたいに優が笑うと暮刃先輩が苦笑気味にこめかみにキスを落とした。当然見てしまったおれが照れて氷怜先輩に抱きついたらおれまでキスされてさらに爆発寸前。

「唯自爆してるし……瑠衣先輩は俺のこれはビミョーなんすか。反応珍しく薄いっすけど」

秋が爆笑しながら瑠衣先輩の前でケモ耳を掴んで見せると首をかしげた。瑠衣先輩はじっと見つめる。

「いーんじゃ無い~?」

「なんか不満そうに見えますけど。ちなみにこれここまで着いてきてくれた那加さんと亜蘭さん以外見せて無いですからね」

「……分かってんなら良い~、可愛いアッキーおいでー」

「わ、分かりやすい不貞腐れ方するなぁ」


呆れながらも両手を広げた瑠衣先輩の腕の中に収まる秋。隣で暮刃先輩が優の肩を撫でながら意味ありげに微笑んだ。

「流石に可愛すぎ、かな」

「変なもんじゃないっすけど、流石に目を引くんで隠してますよ」

「悪かったな気遣わせて」

「いえ、その仮装してあげるならここ閉めますね。ちなみに見ても良いなら是非居たいんですが」

「おい那加!出るぞ!」

亜蘭さんに引っ張られながら那加さんが茶目っ気たっぷりの笑顔で出て行き、がちゃんとドアが閉められた。
那加さんに白シーツをこの部屋に来るまで被せさせられたのは意味があったらしい。
氷怜先輩を見上げると肩が出た部分を撫でられる。やっぱりくすぐったくて身を捩る。

「くすぐったいです。これ、ダメですか?」

「食べたくなる奴が出そうだから」

「食べる……オオカミなのに?」

え、どう言う意味だ?と振り返っても優も秋も明後日の方向を向いていて誰も答えてくれない。


「アハ!唯ちん相変わらず~オオカミ検定不合格!」

「え?!オオカミ落第した?!」


じゃあおれはケモ耳がついた何かの動物でしかないじゃないか。でもだ、話の流れ的に特攻服を着てくれるみたいな、感じ、だった、よね?


「氷怜先輩、これー……?」


両手で握りしめた特攻服を渡すとじっと見つめられる。おれが瞬きを3回くらいするとようやくため息を吐きながら立ち上がった氷怜先輩。

「着てやる」

「やったー!!!」


ソファから転げ落ちる勢いでバンザイ。秋もガッツポーズだし、優様は良い笑顔だ。

「しょうがないなぁ、なんでも似合っちゃうオレが着てあげるよー」

「うーん、他のならまだ良いんだけど……」


暮刃先輩も仕方ないと立ち上がるとその場でバサバサと着替え始めた。優様のおかげでサラシを巻いてその素晴らしい腹筋が綺麗に見える。肩に特攻服をかけ、太めのパンツと革靴。みるみる出来上がるまさしく隊長にスマホの連写が鳴り止まない。

「カッコいい!!最高!!神様仏様宇宙ありがとうございます~!!!」

「壮大な感謝だね……」

もちろん髪もセットさせてもらった。
瑠衣先輩は片方だけ編み込みして前髪は横に流して襟足は跳ね上げ。
暮刃先輩のクリアブラウンの髪は全体をかきあげスタイルにして綺麗な顔を全面に、氷怜先輩の髪はワックスでツイストさせて動きを作るともうこれまたいい男の完成だ。特攻服こんなに似合っちゃうと映画の一場面にしか見えない。

「瑠衣先輩やっぱり派手色似合う!」

「当たり前~」

瑠衣先輩は着てしまえばノリノリだけど暮刃先輩と氷怜先輩は浮かない顔だ。

「落ち着かないなこれ……」

「暮刃先輩絶対そんな服着ないですもんね。でも似合います。待ち受けにしたいです」

「本当にやめて」

珍しく優のお願いを断るので流石に首を傾げる。


「そんなに嫌ですか特攻服。似合うのに……」

「仮装って分かってるけど、思い出しちゃうよね」

「思い出す?」

苦笑気味に言われ心当たりのないおれたちはみんなはてなを飛ばした。氷怜先輩がソファに座りおれを膝に乗せるとスマホを見せてくれる。

「……これ着てたの郷の時代だから、俺たちにとっちゃイメージが重い」


思わず固まった。
氷怜先輩が見せてくれた写真はスマホで撮った写真だが、元ある写真そのものを写メしたものだった。

少し色褪せた写真には倒れた人の山で1人立っている特攻服姿の男が立っていた。血塗れのその人は凶悪な笑顔でニヤリと笑っている。明らかにコスプレの特攻服ではない。髪の毛は金髪だが、そのオールバックにも2枚目俳優のような整った顔にも見覚えがあった。

何より背中に初代総長、日吉郷とはっきりと金の刺繍が入っているではないか。


「ぴ、ぴよちゃん……?」

「そー、イケイケゴリゴリオラオラ時代のピヨちゃん~」


瑠衣先輩が爆笑しながら言うが、秋も優もスマホを覗き込んだまま固まっている。そういえばぴよちゃんが先輩達に喧嘩を教えたって。




「言ったろ、昔は相当やってたって」





思わぬところで人の過去を見てしまうものだ。



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