sweet!!-short story-

仔犬

文字の大きさ
上 下
158 / 188
っていう夢

4

しおりを挟む
決戦の日、晴れ舞台。
なんとでも言える最高の日だ。


「衣装OK!メイク道具OK!」

「立ち位置OK!歌順OK!」

「練習OK!気合は?」

「OK!!!」


3人で円陣を組み控え室に大きな掛け声が響いた。何度も何度も練りに練ったパフォーマンスは自分たちの持てる全てを詰め込んだ。テンションは収まりが効かないが、本番になればスイッチが入るだろう。たぶん。

たぶん、がついてしまうくらいには気合が入りすぎていた。白い衣装に身を包んだ3人の笑顔はどこかぎこちない。


そんな3人に柔らかな声がかけられる。


「みんな、来ちゃった」

「……え、春さん?」


3人が大好きな、大大好きな先輩に当たる春が控え室に顔を出した。俳優の彼がフェスに出る事は無いので椎名が呼んだのだろう。

犬の如く尻尾を振って駆け寄る3人を春は保護者のように微笑みながら受け止めた。

「大丈夫?」

「ああ春さんだ~忙しいかと思って会えなかったから~嬉しい~」

「マイナスイオン……」

「あー落ち着く~」

「ごめんね。最近俺もドタバタしてて今日も実は君たちの出番まで居られなくて……」

春の大河ドラマの撮影は順調と聞いていたが、多忙になってしまうのは仕方のない事だ。

会えないと踏んでいただけにこのタイミングで会いに来てくれる事が唯たちにはもう感動ものだ。

「いやいや、今日も撮影ですよね。その前に来てくれるなんてぇ……うう」

「唯泣くなよ、移るだろお!」

「2人ともやめてよそれが移るから……」

唯の涙がみるみる伝染していき、3人の目が潤む。その頭を撫でながら春はやっぱりと苦笑した。

「テンション高くなってるんじゃないかなって思ってたんだよね……」

緊張と昂りでいつもと様子が違くなってないか、息子のように可愛がってきた後輩の様子を撮影の合間をぬって見に来たのだ。

春はいつもと変わらぬ優しい口調で話しかける。春の声は誰もを癒す魔法だ。

「君たちなら大丈夫。椎名さんも君たちのことを信じてるし僕だってこんなに誇らしい子達他にいないから」

「は、春さん……」

「式くんと桃花くんも心配してたけど、あの子達も今日ライブがあるからこれを渡してほしいって……」

式と桃花は椎名の事務所に所属するもう一つのアイドルユニットだ。同じ時期にデビューしライバルであり良き共である。ちなみに桃花は唯の最古ファンであるがこれは周知の事実だ。

そんな2人が春に託したものは香水だった。みんなでひとつずつ買ったこれはお守りのような存在だ。自分たちのは使い切ってしまい今日はつけてこれないと零したのを覚えていたらしい。


「おおお、お守りだぁ~」

「ああほら、もう泣いちゃダメ目が晴れたら大変でしょ」

「う、そうだった」


なんとか涙を堪える3人に春は香水を振ってあげる。花の香りは優しい。

式も桃花も頑張ってる。なら俺たちもだ。


「……春さん、ありがとう。もう大丈夫です」


ようやくふわりと笑って見せた3人。こうなれば彼らの勢いは止まらない。
春は確信して立ち上がり微笑む。


「うん、君たちは無敵だ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天空からのメッセージ vol.19 ~魂の旅路~

天空の愛
エッセイ・ノンフィクション
そのために、シナリオを描き そのために、親を選び そのために、命をいただき そのために、助けられて そのために、生かされ そのために、すべてに感謝し そのためを、全うする そのためは、すべて内側にある 天空からの情報を自我で歪めず 伝え続けます それがそのため

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

【完結】【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす
BL
Ωであることを隠して生きてきた少年薬師、エディ。 両親を亡くしてからは家業の薬屋を継ぎ、細々と生活していた。 しかしとうとう家計が回らなくなり、もっと稼げる仕事に転職することを決意する。 職探しをしていたエディは、β男性対象で募集しているメイドの求人を見つけた。 エディはβと偽り、侯爵家のメイドになったのだが、お仕えする侯爵令息が極度のΩ嫌いだった――!! ※※※※ ご注意ください。 以下のカップリングで苦手なものがある方は引き返してください。 ※※※※ 攻め主人公(α)×主人公(Ω) 執事(β)×主人公(Ω) 執事(β)×攻め主人公(α) 攻め主人公(α)×主人公(Ω)+執事(β)(愛撫のみ) モブおじ(二人)×攻め主人公(α)

ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました

中七七三
恋愛
わたしっておかしいの? 小さいころからエッチなことが大好きだった。 そして、小学校のときに起こしてしまった事件。 「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」 その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。 エッチじゃいけないの? でも、エッチは大好きなのに。 それでも…… わたしは、男の人と付き合えない―― だって、男の人がドン引きするぐらい エッチだったから。 嫌われるのが怖いから。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

処理中です...