sweet!!-short story-

仔犬

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双子にしか分からない

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双子は俺に鍵を押しつけて嵐のように去って行った。手のひらに残る柴犬付きの鍵を見つめて居た堪れなくなった俺はお昼ご飯も食べず秋に泣きつきに行ったのだ。
昼休みの教室はどこも賑やかだけど数個となりの秋達のクラスは特に賑やかである。覗けば見慣れた秋といつもセットの唯と優の姿。それから話したことはないけど美人と話題の転校生誠司桃花と、陸上部で大人気の本田式まで同じく机を囲っていた。3人だけでも目立つのに男前と美人まで居て、なんだこの集団は。集まるだけで目がチカチカするわ。

しかも勉強机をつなげた大きなテーブルの真ん中には高校生活ではお目にかかれないお弁当というかレストランのランチのような豪華なご飯が並べられている。
出前か?それは出前なのか?

本人たちは特に変わった様子もなく秋は覗いている俺に気が付くと軽く手を挙げた。


「あれ、リョウじゃん。珍しいな、いつも自分のクラスメートと食べんのに」

「……秋いぃぃ」


安心する顔を見たら涙腺が緩んできた。相変わらず屈託の無い爽やかな笑顔に抱き着く。

「……ああー、なんか察した。お前のクラスさっき騒がしかったから、もしかして神さんと才さん来た?」

頷いた俺は情けない顔をしているだろうに唯と優は俺の席を秋の横に作ってくれた。この2人は前回の交流でかなり仲良くなったので俺の扱いも慣れている。俺も2人も人見知りをしないので仲良くなるのは割と一瞬だった。

どこから持ってきたのか紙皿と箸、コップを渡され男にしては、いや女よりもかわいい顔で唯が微笑んだ。


「リョウ君お昼は食べた?おれ作ったんだけど良かったら食べてね」

「……え、作った!?」

「今日はシチリア料理の詰め合わせ~」

「シチリア料理?!……ってどんな?」


俺はわかりやすい料理ばかり食べているので難しい名前なんて知らない。オムライスとか焼肉とかハンバーグとかラーメンとか、とにかくうまければいいわけだ。だけど鼻をくすぐるこのいい匂いは名前に身に覚えがなくても食欲が沸く。よく見ればクラスの他の奴らも同じく紙皿と箸を持っていた。教室でまさかのブッフェスタイルか。

「まあ話はいくらでも聞くから。まずは食べろって」

「そうそう、お腹すくとネガティブになるよ」

隣で優まできれいに微笑むのでありがたく頂くことにする。手を合わせていざ口の中へ。


「……んまあああ」


うまい、なんかさっきまでの嵐が夢のように感じるほど美味い。流石あの人の恋人なだけある。可愛い顔に料理まで出来るとは。


「お前良い奥さんになるなぁ」

「やったあ~!」


きゃっきゃと嬉しそうに騒ぐ唯を誠司桃花がくすりと笑った。噂通りやっぱり美人だ。優も美人系だけど、優よりも大人っぽさがある。

「良かったですね」

「奥さんで喜ぶのお前くらいだな」

何故か唯にだけ敬語な誠司の隣で本田式が鼻で笑った。
とは言っても嫌味な感じはしない。秋達とは対照的に見えるけど最近よく一緒に居るのを見るので気が合うのだろう。

考えてみればそんな仲に俺がいきなり入ってしまったわけだ。混乱していたせいで周りが見えなくなるの、悪い癖だ。改めて箸を置いて挨拶をする。

「えーと、いきなり悪かった。俺、長谷リョウ。本田式と、誠司桃花、だよな?」

「宜しくね、リョウくん」

「リョウな。式でいい、桃花も名前でいいだろ?」

もちろんと微笑んだ桃花、無愛想に見えるが式も接しやすい性格だ。こういうのはフィーリングなので理由はないけど、案外外れない。特に秋の周りはそんな奴らばっかりだ。

俺が口の中の幸せを楽しんでいると桃花が悪魔の名前を口にしたので一気に現実に戻される。


「神さんと才さん、最近よく来てるよね」

「そういえば……何だ、このリョウと関係あるのか?」


俺はともかく式が2人の名前を聞くと嫌そうな顔をするのは何故だ。

「え、知り合い?」

「知り合いも何も桃花と式はチームの幹部だよ」

「げほっ!!」


びっくりしすぎて吹き出しそうになるのをなんとか堪えたら喉に詰まった。やばいと思ったらすぐに唯が飲み物を渡してくれる。ようやく呼吸が楽になり改めて桃花と式を見つめ直し、拳に力を入れて台パン。

「ま、またチームの人かよおおおおお」

一応料理に被害が行かないように力加減。秋が背中をさすってくれる。

「あーはいはい、そうだな。でも2人はとっても良いやつだからな」

「そんなん伝わるわ、くそおおおお」

違うのだ。今更チームの人間だからどうのこうのとか言わないのだ。だってこうして話して嫌な感じがしなければ俺と合うのだから。でもこのチームの人間と会った時、悔しいと言うかやばいなと思ってしまうのは双子のせいだ。

「やっぱり逃れられないのかなぁ……うぅ」

うつ伏せになって泣き始めると頭上で会話は続いた。式のどうしたんだと不思議そうな声。

「神さんと才さん、好きなんだってよ。リョウの事」

「わあ、そうなんだ。素敵だね」

桃花が嬉しそうな声を上げたが俺からしてみたら地獄だ。顔を上げたら目の前で唯一俺と同じような顔をする式の姿があった。


「そりゃ大変だな……」


その言葉だけで今日1番報われた気がしてまた泣けてきた。




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