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溺れる
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しおりを挟む「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます……」
見知らぬ人間がゼーハー言いながら崩れ込んだにも関わらず心配してくれるとはなんてお優しい人だろう。差し出された手を取って顔をあげたら驚いたことに外人さんだった。
「こんばんは、大丈夫?」
どっからどうみても日本人ではないのに、こうも流暢に話していると違和感すら覚えてしまう。おれはなんとか息を整えてお礼を口にした。
「あ、あの!ありがとうございます、ごめんなさい押しかけて!」
部屋の主はおれ達をゆっくり見渡し、式と桃花が裸足な事、乱れた髪、最終的に視線は肩紐が千切れたおれのワンピースに戻ってきた。いろんな事情を全て笑顔で丸め込むみたいに笑って、おれの肩にポンと手が乗る。
「ちょっと、驚いたけど大丈夫だよ。何かあったんでしょう?」
「ここに仏様が……!」
拝みたいこの優しさ。
長めのウェーブが効いたブロンドの髪。バトル映画に出てきそうな筋肉と外人さんらしい高い身長。真っ白い歯でニカっと笑ってくれるとグリオを思い出してなんだか安心して気が抜けるが、バスローブ姿なのを見て思わず謝る。
「ごめんなさい、せっかくのバカンス中に……!」
「ん?ちょうど暇してたから良いんだよ。ほら、座って休んでいくと良い。お茶をいれて来るからね」
全員が立ち上がると彼はどうぞと招いてくれる。ぞろぞろと入っていくが式と桃花は先に行ってろと手を振った。
「足音、しないよな」
「しない……ここに入ってたの見られてたのに」
みんなで部屋に入り込み式と桃花が閉めたドアに耳を寄せる。あんなに大人数がいきなり静かになるだろうかと不思議がる中で、おれ達はといえばお茶をいただいていた。でも上品には飲めなくてからっからの喉にごくごく流し込む。潤ってしまえばもうぐったりでウォーターヒヤシンスのソファに3人で寄りかかる。
「あーー生き返ったああ」
「何だったんだ、本当……」
「なんか警察に追われる犯人の気分だったよ……」
どうやら外人さんはお仕事で日本に来ていて完全なバカンスとはまた違うらしい。にこにこ笑う姿が印象的な恩人さんはところでさと話し出す。
「今日見かけたんだけど君達の連れ有名人だよね、噂通り凄くかっこいい」
「え、知ってるんですか?カッコいいですよねぇもう、最高に~~」
「こんな可愛い子を連れている彼らには余計に興味が湧いたかな」
「おれ達先輩たちの後輩なんですけど、もう学校でもそりゃもう人気者でですね!」
おれのテンションが上がっても彼はうんうんと楽しそうに聞いてくれている。世の中助け合いとは言うがこんなに良い人には何かお礼をしなければ。
テーブルに残った人数分のコップを見て優が声をかけた。
「桃花と式の分も淹れてくれたよ、流石に鍵かけてればもう乗り込んで来ないんじゃない?」
「あ、すみません。一応もう少し……」
桃花が恩人さんに謝るが彼は良いんだよとにっこり。
不意に鳴る音に優はポッケからスマホを取り出した。うわやばいとぼやいてすぐさま電話をかけ出す。そう言えばおれレストランにスマホ置いてきた。秋も首を振って忘れたと言う。
「あー、もしもし、暮刃先輩……?」
恐る恐る話し出す優。
多分通知がいっぱいきてたのかも、トイレに何十分掛かってんだって思われててもおかしくない。全力ダッシュで鬼ごっこをなんて説明したらいいのか、もはや眠気まで来ているし。
「すみません電話出れなくて……あのー、迎えにきて欲しいんですが……え、はい、無事ですよ。他のお客様に助けられて、はい……」
なんだか焦っているような暮刃先輩の声は優が普通に話しているのでだんだん落ち着いてきたようだ。隣で秋がふうっと息をついた。流石の彼も疲れたのか眠そう。
「あーディナー食べかけだったのに、冷めたよなぁ」
「そうだねぇ……てゆかこんな姿で会ったら心配させちゃうね」
「まあなぁ……仕方ないけど」
ワンピースボロボロだし、せっかくの旅行なのに申し訳ない。こうなると氷怜先輩に抱きつきたくなってきてああ恥ずかしがって逃げるんじゃなかったと後悔。なんだか悲しくなってくると視界まで歪んできた。
涙でも流れたのか、でもなんか可笑しい。
「大丈夫?」
にこやかな恩人さんに大丈夫と返事をしたくても声がうまく出せない。
ボーッとする脳みそが考えをまとめられなくなるほど眠たいのだ。左肩に重みを感じたと思えば秋がおれに寄り掛かるように寝ていた。
「なんか……眠た……」
「優?」
電話越しの暮刃先輩の声。そのまま倒れた優が手から落としたスマホが見えたのを最後におれの意識も途絶えてしまった。
耳の奥で桃花と式の声がする。
「離せよ!!」
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