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見つめて
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しおりを挟む「お前の目に俺はどんな風に見えてんだ」
喉を転がして笑う氷怜先輩。
別に何気ない会話の一部だったけどそう聞かれると改めて観察してみたくなった。
薄暗い広い部屋はまだカーテンは閉まっているけどわずかな隙間から反射するほど眩しい朝日が溢れている。ゆっくりと身体をよじると頭の下にあった腕がぴくりと動いた。次第に肘から手まで 使って頭を包まれ、反対の腕も背中に回り抱き寄せられた。
「おはようございます、ひさとせんぱい~」
「……ん」
まだ半分夢の中なのか籠るようなかすれ声。鈍い反応が可愛くてその首筋に顔を埋めると、ふわりと香る氷怜先輩の匂いが異様に安心する。
「いいにおい」
くんくんと嗅ぎながらおれも先輩の腰に腕を回してその体温を楽しむ。すると突然足の間に膝が入り全身を抱きこまれる。強い力でジタバタと抵抗しても全く敵わず声を漏らした。
「んーー!」
圧死する!そう思った瞬間に力が緩み代わりに小刻み震え出した。人が必死になっていると言うのに主犯は楽しそうだ。
「朝から刺激的なことしないでくださいよー!天国見えそうでしたよもう」
「朝から人の匂いを堪能してるお前が悪い」
「えーだっていい匂いだから」
「嗅がれるとクるんだよ。それにお前もいい匂いだよ。甘え」
何が来るの?あとおれの匂いって甘いんだ。シャンプーとかボディソープとかクリームとかそういうのも混じって余計に甘い匂いなのかもしれない。鼻が首筋に近づき匂いを嗅がれるとなんだかくすぐったくて笑ってしまった。釣られたように氷怜先輩がからりと笑う。
「氷怜先輩は朝ちょっとだけ弱くて、可愛さと爽やかさが3割増し」
「……ん?」
突然何をと言う顔。
きょとんとした先輩の頭に両腕を回す。
「今日は氷怜先輩観察デーです。あ、あと寝る時は上半身裸族派」
「裸族って言うのか……?また突拍子もない事してんなお前……でも良いなそれ。お前が俺のこと意図的にずっと見つめてくれる訳だ。なんなら一生やってくれ」
「……ちょっとずるいことを言うのは朝でもいつでも健在、っと」
「耳赤えぞ」
くっ、改めてそんな煽られたら恥ずかしいに決まっている。でも逆に言えばこれは調査なのだからどれだけ見たって恥ずかしがる必要はないのだ。こんな男前を建前を持って観察できる訳です。
「あ、忘れないようにメモしよう」
「……お前のそのまじめさは誰に似たんだ」
「え?んー……あ、父さんがかなり頭が良かったって聞いたことあるんで父さんもマメだったのかなぁとは思います」
スマホのメモ機能を引っ張り出して入力していく。その間氷怜先輩は意味ありげに笑いながらあくびを数回。あとはおれの髪の毛を指先で遊んだり、顎を掴まれてキスが降ってきたり、身体を撫でてくすぐってきたりする。
面倒見がいいと言うか、おれがいる限りこの人は一生構ってくれそうだ。
「先輩ペット飼ったらずーっと構うタイプですよねきっと」
「あーそういや実家の犬はかなり構ってやってたな」
「わんこ?!」
犬種は?サイズは?性格は?と畳み掛けるおれに氷怜先輩がクツクツ笑い出す。今度なと頭を撫でられ宥められた。
「人間でこんな構ってんのはそうそう無いけど」
「……おれだから?」
わかり切った事だけど敢えて聞いてみた。いい笑顔をしているがこの笑顔は爽やかなものじゃない。なぜなら、朝にしては色気が多すぎる。
「あと、可愛いから」
そう言ってまたキス。
甘い甘い甘い。クラクラしてメモ忘れちゃいそうだ。朝は甘さも3割増しかも、いやこればっかりは氷怜先輩の性分かな。いつもおれにわかりやすいように真っ直ぐ伝えてくれる。
「ど、ドストレート表現は最初から変わらないですね」
「お前も相変わらず可愛い反応だな」
可愛いって言われるのには慣れているのに氷怜先輩だとこうもむず痒いから不思議だ。メモに加えなければ、氷怜先輩の可愛いは破壊力大と。
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