sweet!!-short story-

仔犬

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桃の花が咲く時

桃の花が咲く時

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陽だまりみたい。



「おお、ここ久しぶりに来た」

桃花が唯達のバイト先に行ったことが無いと話したところ、唯はすぐに桃花を誘った。
まだ腕が治らない唯は時間を持て余しているようだ。
とは言ってもあらゆる誘いがあったに違いないと桃花は忙しなく通知を告げる唯のスマホを見て思っていた。

なんだか申し訳ないと言えば桃花と2人でお出かけってあんまり無かったからさと嬉しそうに言われ、番犬冥利に尽きた。


「桃花?」

ひょっこり除いてきた唯にハッとする桃花はすぐに笑顔になった。名前を呼ばれると力が抜けて、たったそれだけで優しくなれるような気がする。

バイトに顔を出す前に通りかかった河川に道を外れて降りていくと唯は芝生の上に座り込んだ。カフェまでの散歩にはもってこいの場所だ。

同じく桃花が横にしゃがみこむとにっと唯が笑う。


「久しぶりって?」

「ここでさあ初めておれ達と先輩達が揃ったの。今思えば奇跡だよね~」

「ああ、それがここなんですね」


唯の言葉は決して大げさではない。本当に運がいい良いというか見えない何かで結ばれているのだなと桃花も思う。

唯がふいに桃花を見つめた。


「そこからこうして桃花とも会えた」


一番欲しい言葉をくれるこの人間を素直に愛おしいと思う。暖かくて、泣きそうになる。知れば知るほど離れたくない。

それは忠誠と愛と友情が混じる奇妙な感覚だった。


「桃花!」

「はい」

返事をすれば唯が何かを手に持っている。ご機嫌にそれを持ち上げ桃花の頭に乗せた。

「うーん、美少年はなんでも似合うな」

持ち上げればいつのまに作ったのか綺麗に花で作られた冠だ。こんなところまで器用なものだと桃花は感心した。それをそのまま唯の頭の上に乗せて桃花は笑った。


「あなたの方が似合います」



そう言った桃花に唯はきょとんとした表情から一転。
丸い瞳に色をつけ細めると口角を品良くあげる。

試すような、遊ぶような、そんな声。


「可愛い?」


おそらくこのふいに見せる表情に氷怜が惚れたのだろうと桃花は確信していた。無意識のその情緒の出し方は桃花自身も驚くほど胸を動かされた。

最初は自分の恐怖を溶かす日向のような存在だったのに。可愛らしさが鮮やかなものに変わっていった事には桃花自身も気づいている。

だからこそ唯には本心がすんなりと言えた。



「唯はいつも可愛い」

「…………こんな時だけタメ語ってずるう」



すぐにいつもの調子に戻った唯は、負けました負けましたと投げやりに立ち上がる。
その耳が少し赤い事に桃花は思わず笑ってしまう。あれほど周りをかき乱す本人がこういうのに弱いのだから尚更だ。

おそらくこの気持ちにあの人は気づいている。
それなのに唯の側に置いてくれるのは同じくらい氷怜達のことを慕っているからだと桃花は理解していた。
ただそこに居たいのだと自分の欲の根本も分かりきっている。
唯といればいるほど気持ちはどんどん満たされていた。焦りや寂しさも無い。全て丸ごと桃花は今の環境を愛していた。



それでも願うなら、少しだけもう少しだけ貴方に認められたい。


「あーあー、桃花が最近反抗期でやんなっちゃう」

「カッコイイ俺は嫌いですか?」

「そもそも桃花は最初っからかっこいいんだって!」


頭に花冠をつけたままの唯は立ち上がるとお尻を払った。さてとそろそろ行きますかと歩き出す唯は、もう冠を乗せている事すら覚えてないようだ。どこまで気付かないか楽しむ事にした桃花はその後を追う。



「転ばないで下さいね」

「桃花が居るから平気でしょ」

 

きっとあと少し。



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