sweet!!-short story-

仔犬

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可愛いわがまま

可愛いわがまま

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恐らく格段にその本数が減ったと思う。


今日は珍しく昼にクラブを訪れた俺たち。
どちらかと言えば連れてこられて、買い物してたら幹部の人に出会ってあれよあれよと引っ張られてここに居るわけだが。



「おじゃましまーす!」


唯が元気にドアを開けると丁度対面位置に居た暮刃先輩が綺麗な笑顔で手を振った。優がその横にいくと甘く微笑んで頭を撫でる。

「今日の買い物は?」

「ハットです」


持っていた袋を広げ中を見せると黒のハットを暮刃先輩が取り出し優の頭に被せた。


「可愛い」

「…………これはかっこよく被りたいやつなんですけど」

「うーん、でも可愛いからなぁ」



ハイハイと言いながら帽子を取って今度は暮刃先輩の頭に。
これまたクリアブラウンの髪によく似合う。つばの先をつまんでいたずらに笑った暮刃先輩が首を傾けた。


「似合う?」

「憎たらしいくらいカッコイイです」


優がわざと拗ねてみせた横で唯も買ったキャップを瑠衣先輩の頭に被せた。


「キャップも買いましたよほら!」

「似合うー?」

「めちゃくちゃ!めちゃくちゃ似合います!」


そう言いながら唯と瑠衣先輩がイェーイと元気なハイタッチを交わしていく、このノリの2人は兄弟みたいで可愛いんだよね。


「ホイッと」

「わ!」


瑠衣先輩が流れるように唯を抱き上げ一回転、氷怜先輩のおひざの上に座らせた。唯がきょとんとしている隙に首にかみつく氷怜先輩の甘い攻撃が降り注いだ。


「気抜きすぎだろ」


くつくつ笑った時にはもう唯が真っ赤だから笑ってしまう。


「秋笑わない!」


頬膨らませて照れ隠しされても痛くもかゆくもないぞ。大人しく照れとけって。


俺は先輩達の手元を見ながらソファへと移動する。

氷怜先輩を筆頭に煙草を吸っている姿が少なくなったのだ。
ただ吸っていないわけではない。俺たちがいつもの部屋に行くと灰皿が空だった事がないし、しかも持っていたタバコの火をさりげなく消す。

吸ってないからわからないけど、かなりのヘビーユーザーなはず。先輩達は俺たちといる事で我慢しているのではないのか。

それは嫌だ。
それに吸って欲しくない、なんて言った事がないのだから好きにしてほしい。

瑠衣先輩の横に座るとテーブルに灰皿。相変わらず吸っていたようだけど匂いすら残らないってこの部屋すごくない?

ジッと見つめていたら視界の半分に瑠衣先輩の顔が。
近くで見ても当たり前に綺麗なんだよな。


「ナニ灰皿アツく見つめてんの」

「タバコ、吸って良いんですよ?」

「んーーー」



ソファの背もたれに大きくうなだれた瑠衣先輩。


「臭いの嫌いなのオレ」

「矛盾してません?」


横に座ったというのにそのまま腰を引かれて瑠衣先輩の足の間に座ることになる。白い指が俺の前髪を撫でているのを見守っていれば肩に瑠衣先輩の顔が乗る。


「自分は良くても相手はヤダ」

「つまり俺は煙草吸わない方がいいんすね」

「……吸いたいー?」


ワントーン声が下がったので思わず吹き出す。
先輩達ってある意味ものすごく素直だと思う、目線も行動も全て欲のままだ。



「吸いませんよ」

「そうして……唯ちん、この香水ナニー?」



首筋に息を感じて思わずビクつく。
俺がつけている香水を唯に聞くのは俺がそんなに数を持っていないのを知っているからだ。御察しの通り今日の香水は唯が選んでつけてきたやつ。


「MOMOって言う果実系の香水ブランドですよ~、今度瑠衣先輩にも合いそうなのその中から持ってきますね」

「ウン~……まあでもアッキーの匂いがオレはスキ~」


いい匂いーと首筋に埋まる瑠衣先輩。今日はこの人が可愛いモードだから良いけど、本気出されたら唯にだってバカにされそう。


話を黙って聞いてきた優は心配になってきたのか暮刃先輩の袖を引っ張った。


「暮刃先輩も吸って良いですからね」

「吸いたくなったら吸ってるから平気だよ」


優の頰を撫でる指が唇に移動した。

全く見たこととがない訳じゃないから本当だろうけど、そこまでしなくてもと思ってしまうよな。この人達なんでこんなに優しいのか。
そんな優しさに唯まで不安そうな顔になって氷怜先輩を覗き込んだ。


「でもでも、せめて美味しい方にしましょう!」

「別に好きでやってんだ……それにお前らいるとそんな吸いたくなんねえんだよな」

「ん?そうなんですか」


なんで?って顔の唯。
おいおい。


鈍感な唯にはもう氷怜先輩も慣れている。
含んだ笑いにいつもの色気をのせた。



「吸ってるより美味いからな」

「だって、唯」



優がくすくす笑いえば氷怜先輩も喉を転がした。
唯は当然、首をかしげる。


「え、なに?何が?」

「唯ちんあほー!」

「え?!」



唯にけらけら笑う瑠衣先輩により振動がくるけど、お腹に腕を回された事によって気にならなくなった。同じく首元に噛みつかれそうでちょっと心配ではある。

笑いが止むと杞憂に終わり顎を肩に乗せてきた。耳元で声がするとくすぐったいものがある。



「本当に吸いたいなら止めないけどオレらと同じやつにしてネ」

「え?」



なんだそれ。
首を傾げた俺に暮刃先輩がああと納得していた、氷怜先輩までも頷くのでチームに所属している人はもしかして同じ銘柄と決まっているのだろうか。
いやでも紫苑さんは確かメンソール系の細いやつを吸っていたから瑠衣先輩ともここにいる誰とも違う。



「何の意味が?」

「違う匂いするとムカつくから」



暮刃先輩と氷怜先輩のは良いんだと言うところが個人的にはツボで。そんな可愛いわがまま言われたら抱きしめ返すしか術がないからずるい。


こういう時は仕返しを。
身体を捻って足もソファの上に乗せて横に向き、瑠衣先輩の首に腕を回して頭まで滑られせる。身体も寄せて耳元で囁いた。



「じゃあ瑠衣先輩は俺たちの匂い付けてください」



見なくてもわかる。
きょとんとしてるって。




「…………ナニソレずる」




ほらね。
強いけど心地い力で抱きしめ返された。



聞こえてくる2人の声。




「唯斗、お前もやれよ」

「え?!」

「唯斗……」

「み、み耳元で囁くのずるい!!」



こっちも可愛い。





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