sweet!!-short story-

仔犬

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画面越しのあなた

3

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優が震えた携帯を俺たちに見せたので、みかんを3つ持っておこたにIN。
暮刃先輩の文字が前面に出た画面は普通の電話ではなく顔が見えるタイプだ。優の代わりに通話開始ボタンを押してみた。



「……ゆう?」


かすれた甘い声は寝起きの特典だろうか。画面の向き的に片手で持っているのだろうが、顔は見えておらず少しずれている。見えた肩は素肌で何も着ていないのだろうか。

「何先輩ちょっとエロすぎませんか!」

「……あれ、唯も居る……おはよう」

叫んだおれの声に反応するも画面は変わらない。これは起きてすぐに取りあえず連絡ができていない優に電話したのだろう。まだ頭が働いていないのか反応が遅い。

優がため息をついて呼びかけた。

「暮刃先輩おはようございます」

「おはよう、優ごめんね連絡できてなくて」

「それはいいんですけど、取りあえず何か着て起きてください」

「え、ああ、ごめんごめん」


起き上がりベッド脇に手を伸ばすとローブのようなものを肩にかけた。その動作は映画を見ているように綺麗だ。

おれと秋がゆらゆらと携帯に向けて手を振り、ついでにみんなにみかんを配布。

「ん、そっか今日君たちおやすみだもんね」

「暮刃先輩、雪降ってますよ。大雪」

「……どうりで冷えると」


画面から暮刃先輩が消えるとピッと音がして光が強くなる。カーテンを開けたらしい。
カーテンすらオート……。

「すごいや、真っ白」

ベッドの頭の方にスマホが動かされ、固定したのか先輩が映し出される。近くにあったのかタバコに火をつけると静かに吸い出した。

「結構寝たな……」

「めずらしい、暮刃先輩が昼まで寝てるの」


事情を知らない秋が不思議そうな顔をした。画面を優に向けていて、その真横にいるおれ達は映らない。

優の問いに昨日の記憶が蘇ったのか、暮刃先輩の眉間にシワが寄った。

「……んー、昨日ちょっとねぇ……」

「ふっ!」

氷怜先輩と同じような口調でさらに嫌そう言うのでアイスを吹き出してしまった。
やばい。とは言えもう隠せないので優がおれたちも映るようにスマホを持ってくれたので、優を挟むように寄り添った。

優と秋が不思議な顔をしながらこっちを見ている。


「2日酔いは大丈夫ですか?」

「大丈夫少しだるいくらい……氷怜?」


眉間にしわを寄せた暮刃先輩、昨日のことを思い出したのだろう。

「さっき電話してたんで」

「しかも起こさないし……」

「罪悪感からせめて寝かしてあげようと思ってるのかもです……」

秋は意味がわからないといった顔をしながらも黙々とみかんを食べていた。

「いや進んで飲んでたのは俺だからね。いくら赤羽のやつが煽ってきたとは言え……なんか思い出したらムカついてきたな」

暮刃先輩のオーラが黒くなってきたのを察した優と秋が不思議な顔をする。

「昨日何かあったんですか?」

「まだ2人には話してません」


タバコに口をつけたまま暮刃先輩が曖昧な表情をする。

「まあ…………」

「昨日はねぇ面白いヤツが来たから遊んであげて~、そのあと飲み勝負になってなぜか赤羽っちが敵について超ウケた~」

暮刃先輩が左に顔を向ける。画面が振動で揺れると綺麗な顔がドアップに。
口にフォークを加えている。つまりそれは氷怜先輩の朝ごはん。

「ハロハロー」

「瑠衣先輩おはよです」


ニッと笑った瑠衣先輩は暮刃先輩に思いっきり寄りかかって画面の左に両手を向けた。お皿を持った手だけが映り瑠衣先輩がそれを受け取る。

「暮刃も食うか?」

「氷怜起こしてよ」

「珍しく熟睡してる奴起こすのもな」

画面越しが騒がしくなると先輩達が勢揃いしていた。みんなラフな格好でゆるゆるのスウェットだったりシャツだったり、でも顔が整っているのでドラマのようにカッコいいのが心臓に来る。

「何だ、勢揃いだな」

「おこたに住み始めて早30分です」

なんだそれと先輩たちが笑っている。眩しい……海外ドラマの一面でも見てるようだ。

「何作ったんですか?」

「スープパスタだって」

瑠衣先輩がお皿の中を見してくれる。輝くスープにホワホワの湯気。うん、美味しそう。


「瑠衣先輩ずるいひとくち」

「画面から出ておいで~」


がっくりと肩を落としたおれに秋がみかんを口に運んでくるから思わずパクり。これはこれで美味しいけどさ。

優が伸びをする姿勢をとった。腕を伸ばしてスマホを抱えているのが疲れたのかもしれない。
長くなりそうだし、ぱたぱたとかけて部屋に戻りスマホスタンドを持ってきた。
秋がけらけらと準備の良さを褒めた。

「おおさすが現代っ子」

「まあね!」


両手が空いた優がみかんを食べ始めると首を傾げた。

「赤羽さんに何言われたんですか?」

「ん、内緒」

タバコを一息吸ってキレイに口角を上げた。

「暮ちん優たんの名前出されて超ムキになってたよねーー」

「瑠衣うるさい」

「いやーん!こわーい!」

騒ぎ立てるも大人しくスープパスタを食べ始めた瑠衣先輩。優が少しだけ目を見開いて、そのあとすぐに眉間にしわを寄せた。

「赤羽さんらしいなぁ……」

「それに君はたぶん気にしない、それじゃあ面白くないしね」 

「暮刃先輩そういうところだけわがままですよね……」

そんなこと言いながらも優が笑った。なんとなく赤羽さんの言いそうなことに察しがついたのだろう。


「って事は氷怜先輩もそれ言われたら飲んじゃいます?」

「男ならそんなもんだろ」

ベッドに座って片膝を立てた氷怜先輩が表情も変えずに答えた。流れるように暮刃先輩にタバコを受け取る。加えると暮刃先輩手が伸びて火をつけた。伏せた目が色気を出る。

「瑠衣先輩はー?」

「さあ、ドーデショー?」

秋の間延びした質問に同じように返した瑠衣先輩。
どうやらふざけ通す気らしい。

詳しいことはよく分からないけど、少なくともこうして先輩たちの日常の一部におれらがいなくてもおれらが登場しているのだ。そう思うと笑ってしまった。

「何ニヤニヤしてんだ唯斗」

こうやって同じ世界にいると思えない人が電話までして、おれたちの事で色んな事を思ってくれているのかと思うとその内容がよく分からなくてもなんだか嬉しくなってしまった。

「ナニ唯ちん思い出しスケベ?」

「何ですかそれ初耳なんですけど!」

「ねぇよそんな言葉……あとそこは否定しろよ」

はあとため息を吐いたけど氷怜先輩も笑っている。



「だって先輩達がおれたちの居ないところでおれたちの話してくれてるの嬉しいんですもん」

「当たり前だろ」

こうして会わない日までやんわりと甘やかしてそのうちデロデロに溶かされて先輩たち無くしては生きていけなそうだな。

秋も氷怜先輩の声に嬉しそうに笑った。

「ムキになるかは分かんないですけど、いつでも会いたいって思ってます」

「また明日からめいっぱい構ってくださいよ先輩」


そういった優の肩に頭を乗っけておれもと笑うと、先輩達がきょとんとする。


「何それ。可愛いこと言うなら画面越しやめて」


暮刃先輩がちょっと真顔で言うからおれはにやけた。















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