sweet!!-short story-

仔犬

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言葉遊び

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静かだ。時計の針の音さえも響かない。
静かな空間は自分に合っているはずだ。
図書室も放課後の教室も静寂が覆う世界が心地よかった。

それなのに今は何かひとつの音すら探してしまう。
そうじゃないと飲み込まれそうなんだ彼に。





「もしかして、緊張してる?」


待っててと言われ、沈み込みそうなソファに座った。
黒のシックなデジタル時計を見つめていたら、家の主はいつのまにか戻ってくる。

手に持つカップの中は見えないけれど、鼻をくすぐる匂いですぐ紅茶だとわかった。


「静寂は得意だったんですけどね」

「そう……ほら、ミルクとシロップもあるけど」


小瓶に入ったミルクだけを受け取って、白を入れる。溶け合う前に残るミルクの線を見届けてからかき混ぜた。

「バランスだよ。得意かどうかじゃなくて」

「え?」

「静寂に調和できるのは静寂だ。心がそうでなければバランスが崩れる。乱れてるんでしょう?俺がいるから」

心を読むように話すから熱い紅茶をいっきに多く飲み込んで舌を火傷した。


「大丈夫?みせて」

見せてどうにかなるものでもないのに見せてしまうあたり、いよいよ自分の変化について行けない。心が二つに分かれて、目がとろんとする従順な俺をそうではない俺が遠くで見ていて恥ずかしがっている。

顎に手を当てて上に向かされ覗いてくる瞳がいつもの優しいものではなくいたずらな弧を描く。

「赤くなってる」

「すぐ治ります」

「氷いる?」

首をすこしだけ動かしていらないと伝えればひどくならないといいね、と呟いて手が離された。遊んでる。


「心配してるフリはあまりいい気分でないです」

「違うよ、ほんとうに心配してるんだけどイタズラ心が勝ってしまって」


こういう会話はおそらく唯には無理だ。唯は変なところで恥ずかしがるし、変なところでスイッチが入るし翻弄されたのに結局ゆいのペースに持っていかれていく。しかも無意識なのが目に見える。
秋は言葉遊びには付き合うタイプだから耐えるかもしれない。でも限界付き。

となりに先輩が座るとソファの柔らかさにさらに沈んだ。


「ここ綺麗ですけど新しいんですか?」

「うん新築。ここに来たのは君達と出会った頃かな」

「家具も全部新しいように見えますけど」


「ついでに全部買い替えから」

「お金持ちだなぁ」


家がお金持ちなのもわかるけど、謎ばっかりだ。
今日は質問ばかりになりそうな予感。


「家具気に入らなかったんですか?」

「心機一転に」

「……なんだか似合わない言葉遣いますね」

「え、ひどいなぁ」


くすくす笑って長い足を組んだ。ソファの肘掛に頬杖をつく。何か言いたげな口が意地悪そうに笑った。


「君達を家に呼ぶのに俺が納得のいく空間にしたかったんだ」

「先輩ちょっと潔癖入ってますよね。それってつまり……」




俺が試すように見れば暮刃先輩が人差し指を口の前で立てた。

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