sweet!!-short story-

仔犬

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笑って誤魔化したくなるほど

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「ネェ、あの子達さぁ…………」


VIPルームと呼ばれる部屋はいくつかあり、一つは小さめの部屋で下のフロアが見渡せるガラス張りの窓がある。外からは覗かれないようになっているので、干渉されたりはしない。その窓の前にあるソファに長い足をを放り投げ、背もたれに腕を乗せながら瑠衣は気だるげに呟いた。

「ココに馴染むの速いよネ~~」

「人見知りしないからね、足どけて瑠衣」


いつもは大きい部屋を使うのだが内装をリニューアルするとのことで今は使えない。部屋の面積が小さくなる分ソファも小さめになる。瑠衣の足が邪魔なソファの端しか空いておらず、足が上げられてできた場所にしかたなく暮刃は腰を下ろした。
退けたはずの足が暮刃の膝に降りてくると、ため息はついても払いのけはせずその足の上に最新の薄型PCを置いて立ち上げる。

「……下に行ったら良いのに」

「ちょっと観察~」

瑠衣の視線は窓から動かさず背もたれに顎を置く。窓を覗けば秋がチームの1人と踊っていた。

「やっぱりうまいよね彼」

「うん、上手」


珍しく間延びした返事が来ない。横顔は何の感情も持っていなかった。ただじっくり秋を見ている。

秋は踊っているとは言えクラブノリのダンスではない。もともと習っていたヒップホップ系のダンスだ。チームにもダンスをやっていたのが数人いたらしく今話してるのはそのうちの1人だ。人に邪魔にならない程度に2人が軽く動作だけを合わせ、今流行りのダンスユニットの振りをまねしているようだ。
小さな動きだが経験者だとすぐにわかる。
見事に動きが合ってお互いの肩を組んだ。

「……アイツなんて名前?」

「ヨウイチだったかな」

「フーン……」


瑠衣が他人に興味を待つというのは、そうあることではない。基本的にケンカにしか興味がなく、口はうまく、人も集まってくるが深入りするタイプではなかった。他人の名前を覚える気もさらさらないだろう。

だが最近では秋が関わる人物に少なからず目を配っているようだ。納得いかなそうな顔をして。

「瑠衣もそんな顔するようになったんだね」

「暮刃もデショ~~」

「まあね……」

暮刃が窓越しから優を見つける。秋よりも左側のバーカウンターの方だ。バーテンダーに絶対に酒を渡さないようにと伝えてあるので緑の飲み物はメロンソーダであろう。受け取って口につけようとしていた時にバーテンダーに止められる。キョトンとした優のグラスの上にアイスが乗せられた。照れたようにありがとうと口を動かした。

「ゆうたん喜んでる。カーワイ」

「……」


彼はバーテンダーといつ仲良くなったのだろう。そのまま見続けていると、優がポケットからスマホを取り出すとイヤホンを片方つけてバーテンダーにもう片方を渡す。そのまま顔を近づけて2人で音楽を聴き出した。クラブでそれはどうなのかわからないが通じる趣味があったのだろう。楽しそうに笑い合う彼らの光景にいささかの不満を感じる。

「ヤカナイ、ヤカナイ」

「撫でるな」

慰めのように頭を撫でる手を払いのけた。
最近ではチームの誰かが彼らを見つけると勝手にここに連れて来ている。
慣れない場で自分達から交友関係を広げられるのは才能だと暮刃は思っているし、それを止めたいとも思ってはいない。才能でありそれが魅力だ。微笑ましく、褒めて上げたい。だが不安要素が増える。やはりあの笑顔が他人に向くのがどうにも落ち着かない。

「寂しいなんて穏やかな感情だったらいいんだけどね」

「だいたいそういう時の暮刃、瞳孔開いてるもん」

ふざけて笑う瑠衣を、小突いてPCに意識を集中させた。
瑠衣はまた観察をはじめ、もう1人の子を探す。少し髪が長めの唯はソファに座る数人の女の子の前に立膝をしていた。

「唯ちんはなんか見つけやすいよネー、派手なのかなぁ」

大抵クラブで唯を1人にさせると女の子が集まる。とは言え肩を組んで女の子を口説くでもなく手に持っているのは何かしらの美容品。その知識を話し、女の子達は懸命に聞いている。クラブとしては異様な光景だ。

「あー、あれこの前にモデルしたやつだ。発売先週あたりだった」

「女の子のじゃないのか」

「男子にも使えるで売ってるみたいよ~」

と言うことは最新作を唯は手に入れて女の子に教えているのか。相変わらず美容の情報が速い。


「どんなやつなの?」

「えー、ナンダッケ……あ、まって唯ちんが話してる。えーと…………『オススメのハンドクリームはこれ!ネイルや冬の乾燥で癖になったささくれもこれがあれば潤います…赤ちゃんが持つ潤いを保つ生き生きとした細胞と同じ成分がこれに含まれているので爪や肌、髪の毛にも有効。天然成分なので舐めても大丈夫ですよ。ちなみに唇の縦じわにも効き目あり!おれの唇で実証済み!』だって」

「完璧だな……」


瑠衣の目はかなり良い、視覚優位なのか物事の全てを目で見て捉えようとする癖があり、いつのまにか話してる相手の口を見て理解していた。つまるところの読唇術だ。

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