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死生契闊

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「英羅……?」


いつもすぐに来る返信もだんだんと時間が空くようになり普段まったく連絡を取り合わない知秋と来夏がお互いの状況を確認し、仕方なく一緒に英羅の家に向かう。
インターホンを押しても反応はない、だが一か八かで回したドアノブが開いてしまった。夕方の薄暗いこの家はどこの電気もついていないようだった。結局玄関まで立ち入ったものの、勝手に入るのは気が引け一瞬立ち尽くす、するとギシり音がして廊下に電気がついた。


「あれ……ああ君たち、久しぶりだね。ごめんインターホン、気が付けなかったよ」


二人は驚いて一瞬言葉が出なかった。
突然顔を出した英羅の父親が別人のように痩せていたからだ。優し気な笑顔と話し方は変わらないが、明らかに雰囲気が変わってしまっている。英羅に似てその場を明るくする気丈な父親だったのに。

「英羅ならそのうち……」

「父さん?!」


後ろから英羅の声がして振り返ると焦ったような顔の彼の姿。知秋と来夏は一瞬で英羅もさらに痩せてしまっていることに気が付く。知秋と来夏を通りすぎ英羅は靴を脱ぎ捨てると父親に肩を貸した。

「起きてくるなよ、まだ寝てないと……」

「少しトイレに行こうと思っただけだよ」

「部屋も寒いのに暖房すらつけてねーし!!」

「……布団にいたから、気が付かなかった」


力なく笑う父親を担ぎ英羅は部屋の中に入っていく。固まっていた二人は慌てて英羅を手伝うために靴を脱ぎ部屋の中に入ると随分と部屋が荒れていた。最後に二人がこの部屋に来たのは母親の葬式の後だった。その時はお世辞にも片付いているとは思えなかったがここまでではなかった。忙しいのだろうと勝手に決めつけ二人は部屋のか片付けをしたのだ。

それから10日ほどは経ったがここまで荒れるものだろうか。


「とにかく、父さんは疲れすぎ!寝ろ!」

「……ごめんね、英羅」

「何で謝るかなあ」


泣きそうな顔で英羅が笑っている。
明らかに普通ではない、あんなに眩しかった二人がぽきりと折れてしまいそうだった。


知秋と来夏はまた部屋を静かに片づけ始めた。何も言わず英羅の父親との会話に耳を傾けながら。何か聞き逃してはいけない気がした。


しばらくすると父親は眠ってしまったようで、大きくため息を吐いた英羅がようやく知秋と来夏に振りむいた。自分もごめんと謝りながら笑うのだ。


「連絡ないから勝手に来ただけだ。気にすんな」

「うん、またご飯持ってきた」

「ありがとう」


やっぱり食べ物に目もくれない。

「返信したつもりだったわ、ごめんな。片付けもありがと」

「……親父さん、医者には……?」

「見せてる。やっぱ精神的なものだって……ぽっきり、いったんだろうってでも一応食べてるし、様子見ようってことで……」


泣くかともった瞳は一瞬潤んだだけだった。

「……英羅は?」

「俺はこの通り!」


来夏の質問に作った力こぶに信頼できる要素が一つもなかった。知秋と来夏が黙ると英羅もさすがに無理があるか、と乾いた笑いを返す。

「ちょっと俺もまあ、疲れてるけど。ここで折れるのは違うだろ?」



今度こそいつもどおりに笑って見せた英羅に少なからず安心はしたが不安が拭い切れる物ではなかった。頼りなく、今にも消えてしまいそうな火のように。

それを見ていると何もできない焦燥感と静かな悲しみ、そして置いて行かれるようなそんな気持ちになるのだ。

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