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死生契闊

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優しくないなんて分かってる、狂った愛情だなんて分かってる。
分かった上で愛してる。






高校生活の終わりが近づいたころ、英羅の母親の訃報を知らされた。
知秋と来夏に英羅から入れた連絡でそのことを知った二人はすぐに会いに行った。
家につくと英羅は真っ赤な目で二人を出迎える。こんな時でも笑いながら眉を下げてきてくれてありがとうなんてお礼を言うのだ。


「ごめんな、来てもらっちゃって。二人には一応知らせたくてさ」

「連絡くれなかったら怒ってたわ」

「……こんな時に英羅一人にしたら自分が嫌いになる」

「うん……ありがとう」


英羅の父親はいろいろな手続きで追われていてまだ病院にいるようだ。静かな部屋がいつもより静かに感じられるのは気のせいじゃない。あの輝かしいほどの瞳が今日は陰って見える。

「今日なんか食ったのか……一応食い物買ってきたから」

「いつも悪いな。でも今食欲ないから、あとで食うよ」

絶対に喜ぶと思って買ったお弁当に視線すら向けなかった。
それでもさすがに今は仕方ないかと知秋が頷く横で来夏が遠慮がちに言う。

「できることあれば、手伝うからね……?」

「うん、でも父さんが全部手配してくれてるから……ありがとう」


英羅の力ない笑顔を見るのは初めてだった。
胸が痛い、チクリと刺してくる。それでも、こんな時だって堪らなく愛おしい。

「夜は英羅のお父さん帰ってくる?」

「うん、一週間くらいは休むみたいだから。一人じゃないよ」

だから大丈夫なんて力なく笑う英羅を来夏がそっと抱きしめた。少し驚いた様子の英羅に来夏の優しい声が耳元で響く。

「来夏……?」

「僕がいるからね」


本当は引きはがしたい欲に駆られた知秋も抱きしめられた英羅が少し柔らかい笑顔を見せたので、今日ばかりは我慢して同じように二人ごと抱きしめた。当然来夏が嫌そうに眉を顰めるが。

「苦しいんだけど……」

「お前が離れたらいいだろ」

「……相変わらずだなあもう」


こんな時でも喧嘩を始める二人に英羅が小さく笑い出す。


それからは少しずついつもの調子を取り戻した英羅がポツリポツリと他愛のない会話をし、結局しばらくして二人は見送る英羅に後ろ髪をひかれながら手を振った。
帰り道、珍しく来夏が知秋に言葉を漏らす。

「英羅、大丈夫かな……」

「初日だし、仕方ねえんじゃねえの」


あれほど献身的に母親のために動いていたのだから、その喪失感は計り知れない。
落ち込んだとしてもきっと当たり前なのだ。そう言い聞かせる、消えそうな英羅の笑顔がどことなく不安になりながらも二人は家に帰っていった。





「英羅風邪なんて珍しいな」

「まあ……」


教室で初早紀がポツリというが知秋と来夏の口から英羅の家庭事情を話すことはなかった。まだあれから数日だ。担任も気を使ってか英羅は風邪と言っているし知っているクラスメートはまだいない。一番早くに異変に気が付いたのは初早紀くらいだった。


「お前らさみしくてしょうがないだろ。俺が昼飯一緒に食ってやろうか」

「うるせえ、お前と食うくらいなら一人で食うどころか帰る」

「マジで可愛くねえ!」


泣き真似をした初早紀は結局ケラケラ笑いながら離れていった。
初早紀なりに心配していたのだろう。


来夏も知秋もこの時はまだ英羅とは連絡が取れていた。家に行けば会えたしもう少しでいつも通りになるのではとそんな笑顔を見せる日もあった。

連絡が来ているのはどうやら俺たちだけらしい、そんな小さな優越感も相まってすぐに気が付けなかったのだ。英羅と家族の異変に。


それからだった。
英羅が学校にも顔を出さなくなっていったのは。

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