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死生契闊

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「なんで初早希に会わせたんだよ」

「会わせるつもりなんて無かったって言ってんだろ」

抑えるように話す声が聞こえてぼんやりと目を開けた。ああいつもの部屋だ。真っ白な部屋。

「……また喧嘩してんのか」

「英羅!」

パッと振り向いた来夏がホッとしたような顔をして覗き込んできた。出て行った時のような冷たい来夏では無かった。
綺麗な髪がもう少しで顔につきそうだ。

「体調はどう?医者には見せたから、しばらくは安静にしていようって」

「来夏」


俺が呼ぶとすぐに来夏は口を閉じた。


「嫌な思いさせてごめん」


本当はもっとたくさん言いたい事あるんだけどまだ上手くまとまらなくて、だからとりあえず来夏には謝りたかった。

来夏はすぐに眉を下げ視線を彷徨わせ、そして小さくごめんと呟く。

「なんで来夏まで謝るの」

「英羅が知秋にお願いするのも、タバコも僕が勝手に怒ってる事だから……」

「うん、でも、来夏にもちゃんと聞いたらあそこまで怒らせちゃったりしなかったかなって」

綺麗な髪を撫でると柔らかくてなんだか安心する。メイラはこんなふうに撫でてあげた事あったのかな。しばらく撫でているとジッとこの光景を見ていた知秋がポツリと呟いた。


「また嫌な事でも思い出したのか」


またと言うからにはメイラが今回みたいに倒れたことがあるのだろう。
たしかにショックな事実だったけど、よく考えてみればあんなに頭が痛くなるなんて可笑しい。この身体はメイラのものだから初早希からの手紙を見て何か拒否反応を起こしたのかもしれない。

まあそれでもショックはショックだ。今だって心がじわりと痛い。

だけどこの事実を2人に話すべきなのか、そもそも何をしたらいいのかも分からない。知秋の言葉は頭を横に振って適当に流す。


「いや……俺どれくらい寝てた?」

「半日くらい……今は次の日の昼だ」

「結構寝込んだな……2人はご飯食った?」


俺が聞くとそんな事忘れてたみたいな顔の2人。着替えてるけどそれ意外はもしかしてずっとここに居たのだろうか。


「ダメじゃん、飯は健康の基本だぞ。うしっ、なんか作るかあ」

「ま、まだ寝てた方が……」

「いやでも今は普通に元気よ」

来夏が心配そうに腕を掴んできたけどずっとベッドに居た方が体に悪い気がする。頭が重いくらいでそこまでじゃないし。

「てか2人は今日仕事は?」

「今日は英羅といる日」

「……後でやる」

来夏は即答し、知秋は視線を横にずらした。
お、お前らそれで大丈夫なのか。てか知秋今日出かける日だったけど後でやるってくらいだし急ぎだったのでは……。

「ん、んー、俺のせいだしなんも言わんけど。心配な事あるなら先済ませてこいよ知秋。俺飯作ってる間とかでもさ」

来夏に至っては元々家にいる日だし、一点の曇りも無い眼差しなのでもはや心配しないぞ俺は。相変わらず謎の多い仕事だ。


「……でもそうか、この時間から2人居るのなんか久しぶりかも」


ちょうど良い。ご飯食べながら2人と話してぼんやりと考えよう。
自分が何をしたいのか、何が出来るのか。








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