34 / 74
依々恋々
1
しおりを挟む「美人と男前に挟まれたんだけど俺!やっぱり並ぶだけの価値ある顔してるって事だろ?」
そう彼が言うとクラスメートの数人が笑い出した。
「はいはい。イケメン自慢してんじゃねーよ!」
「ふふん、僻むな僻むな」
ぱっちり二重に整った鼻と口、少し幼く見える顔は愛嬌があった。中身は案外潔く、男子校生らしい馬鹿なところもあってそんな顔を見ていたらどんどん惹かれていった。
ころころと変わる表情が太陽みたいだ。
でも本当に太陽なら掴めない。
クラス替え当日、知秋はクラスメートには一切目を向けず寝てばかりだった。出席番号順に並べられた席に興味もない。
女子たちの黄色い悲鳴は頭痛がするし男子の興味関心がこちらに向くのも鼻につく。知秋は嫌になって顔を伏せて時間が過ぎるのを待った。下らない、楽しくもない。興味がない。
知秋から2個下がった席にいた来夏も校庭に飛ぶ蝶をただ眺めていた。どちらかと言えば蝶は嫌いだ。虫なんて美しいと思えない。だけどあの模様は良い、金の刺繍であの模様だけを入れるのはどうだろうかと服のデザインが思いつく。まだ1人もクラスメートの顔すら見ていないのに。
その2人の間にガタンと勢いよく座った来夏は一瞬で2人を会話の中に引きずり込んだのだ。
「来夏と知秋でしょ?俺、英羅!よろしくな?」
寝ている知秋を指で突き、外を見ていた来夏の視界に笑顔いっぱいで英羅は笑いかけた。驚いたのも束の間、周りのクラスメートも一気に近寄って来たのだ。
英羅がいるなら2人も話せる。そう思った者もいれば英羅と話したいだけの者も多かった。とにかく彼は人を引き寄せる、そんな魅力があった。
「いつも2人どこで昼飯食ってんの?」
「……その辺で」
「その辺ってどの辺?」
こんな調子でポンポンと会話が投げる英羅はだいたい突拍子もなく2人に話しかける。
それでも英羅はいつもクラスメートに囲まれてばかりで自分たちの事などすぐに忘れるだろう、できることなら巻き込まないでほしい。
そして最初の挨拶から3日ほど経った。
2人も最初こそ驚いたが興味はすぐに消えてしまう、それでもまた春の嵐のように彼はやってくるのだ。
「じゃあ今日は2人と一緒に食べよ」
「あ?」
「え……何で?」
「一緒に食べたいから?嫌だったらやめるけど……前後席のよしみじゃん」
とは言われてもいきなりだった。
普通なら2人はこんな勝手な話は無視だ。耳にも入らないが悪戯に笑う英羅に毒気を抜かれ仕方なく席を立つのをやめた。
席を向き直すような事もせず英羅と知秋が横を向いて、後ろの席の来夏は机に向かったままそれぞれ食べ始めた。お腹は空いていなかったが英羅がバックからお昼ご飯を探すので仕方なく2人もお昼ご飯を取り出した。
「つっても今日俺昼飯買えなくてこれしか無いんよなぁ」
ぱさりと机の上に置かれた菓子パンがひとつ。知秋は視線だけを菓子パンに移し、流石に驚いた来夏が静かに尋ねる。
「これだけ……?」
「今月ピンチでさー」
ピンチと言っても学生ならば家に何かしらはあるのではないか。来夏が黙り込むと英羅は話し出した。
「父さん仕事で帰って来れないし、母さん病院だからやりくり自分でやろって思ったんだけど、バイト代足りなかったわー。あ、でも明日給料日だから滑り込みセーフ!」
「……バイトしてんのか」
「おお、知秋が初めて話しかけてくれた……睨むなっつの」
英羅がにやけると知秋は眉間に皺を寄せる。むず痒さによるものだったので睨んだわけではなかった。
「してるよー先生にも許可もらってさー。今はカラオケと居酒屋!」
掛け持ちだ。
この会話だけでも英羅の環境が伺えたが2人はまだ踏み込むような関係性ではなかった。ぱくぱくと菓子パンを食べる英羅の腕は細くて、どこにそんな元気があるのか不思議だった。あっという間に食べ終えてしまう英羅を見て来夏は自分のお弁当と英羅を交互に見て1番カロリーのありそうな肉をフォークに突き刺した。
「あげる……」
「え、ん?」
「足りなそうだから、あげる」
来夏が静かにそう言うと英羅の瞳がたちまちきらきらと光る。来夏は驚いた。人の瞳がこんなに光るのかと。
「まじでいいの?うまそー!」
フォークごと貸すつもりだったのだが英羅はパクりと来夏の腕から肉を口に入れる。蕩けるような笑顔を見せた英羅。
「んま~、やっぱり肉だよな」
「……これもやる」
それ見ていた知秋も自分のおにぎりを差し出した。よく食べる知秋は数個おにぎりを持っていたし、目の前でそれほど嬉しそうに食べられいつのまにか手が動いていた。
「なに、何何。お前ら天使?!」
けらけらと笑いながら嬉しそうにおにぎりを頬張る英羅。知秋も来夏もただその姿を見ていた。
見飽きなかった。誰に声をかけられても誰と付き合ってもこんな感情生まれなかった。だけど英羅は一瞬で2人の心の何かを掴んだのだ。
「んーまじでありがと!米もあれば元気100倍~!」
上履きを抜いで椅子の上で体育座りをした英羅がなあなあとまた2人問いかける。
「2人っていつも一緒にいるけど、友達って割には喋らないし、もしかして幼馴染とか?」
「……まあ、親同士が仲良い」
とは言っても他の奴といるよりは幾分か楽、と言うレベルの仲だった。お互いに興味がない分邪魔にもならないし、2人でいた方が割り込みもなく都合が良い、というくらいの関係だ。
それでも英羅は自分のことのように喜んだ。
「え、そーなんだ!良いなぁ俺親戚とかも居ないからさ、ちっちゃい頃からの友達とか憧れる」
「そんな良いもんじゃねぇよ、だいたいこいつ何考えてるか分かんねぇし」
「……知秋はすぐイライラする」
「あ?テメェが分かりずらいからだろ」
「おっと?!何何、喧嘩すんの?!」
物理的に板挟みの英羅が2人に向かってストップの合図で手のひらを向けた。焦った様子の英羅だが数秒経つとぷっと吹き出す。
「変なの、だったら一緒に居なきゃ良いのに」
窓から柔らかい風が入ってくると英羅の髪を撫でた。体を丸め小さくなってくすくすと笑うのだ。目尻を下げて楽しげに屈託なく。
光に当たっているのにまるで光っているのは英羅自身だった。
2人の恋は簡単に始まった。
7
お気に入りに追加
352
あなたにおすすめの小説
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
君が好き過ぎてレイプした
眠りん
BL
ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。
放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。
これはチャンスです。
目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。
どうせ恋人同士になんてなれません。
この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。
それで君への恋心は忘れます。
でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?
不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。
「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」
ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。
その時、湊也君が衝撃発言をしました。
「柚月の事……本当はずっと好きだったから」
なんと告白されたのです。
ぼくと湊也君は両思いだったのです。
このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。
※誤字脱字があったらすみません
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
幼馴染から離れたい。
June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。
だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。
βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。
誤字脱字あるかも。
最後らへんグダグダ。下手だ。
ちんぷんかんぷんかも。
パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・
すいません。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる