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試行錯誤

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しばらくは映画に夢中になるも一日中見れるほど集中力はない。
腕を伸ばして体の凝りをほぐす。


「にしても、運動不足になるなあ」

「……英羅が健康を気にするなんて世も末だな」


俺もこの世界の俺の評価がどんどん下がってるよ。まじで何してたの本当に、メンヘラ英羅にはなかなか理解が及ばない。

「な、知秋は何してんの?1人の時とか」

「あ?……筋トレとか?まあでも仕事してるわ」

「な、なんかお前も中々枯れてるな……じゃあ筋トレしよ俺とも」

「英羅が筋トレ……?」


その、英羅が〇〇……?シリーズやめてくれ。心に地味にくるんだよ。
知秋は眉を寄せながらも俺を膝からそっと立たせ自分は床にしゃがみ込む。床にポンポンと手を置き俺を呼んだ。

「腹筋でもしてみろよ」

「ば、馬鹿にしてるだろ」

鼻で笑われてはカチンと来るものだ。知秋に足を押さえさせる。

何てったって日々重量級を持ち上げて運んでた俺に腹筋ぐらい容易く……。

「い、一回もできねぇ……何でだ」

「英羅が出来るわけねぇよ、箸より重いもん待ってた記憶もねぇし……強いて言うならお前は体の柔らかさの方がすげえけど」

「いや、俺めちゃくちゃ体硬……」


開脚してみたら、ぐにゃっと開いた。しかもペタッと上半身を床につけられる。


「え?!こわ!この身体こわいんだけど……」

「そりゃあんだけ毎日ヤッてりゃやらかくなるだろ」

「ヤッ……!そういうのもっとオブラートに言ってくれませんかねえ?!」


俺の知らない俺がしでかした事だから恥ずかしがるな俺。無理だけど、恥ずかしくて死にたくなるけど。真っ赤になったのも見られたくなくてうずくまって隠したのにわざわざ知秋が持ち上げて俺の顔を確認する。やめろ悪魔か。
でも意地悪な笑顔で馬鹿にでもするのかと思ったら、まじまじと観察しているでは無いか。


「……何」

「本当にあの時の、昔の英羅みたいだなって……無邪気でバカでケラケラ笑ってた」


驚くような少し悲しそうな顔の知秋を見ると胸が痛い。
だけど2人の知る俺がやばいやつになっていたのは分かるが、この前までの記憶上のくたびれた俺だってたいして変わらない気がする。
生き方が違うだけで何もかも諦めて嫌な事を思い出しては自嘲的になり、早く死にたいと願いながらもギリギリ生きていける生命活動をする。あの肉体労働の日々だって、いつ死んでもいい思っていたから抜け出すこともしなかったのだ。


「……元を辿れば、全部俺だな」

「何?」

「いや、俺は俺だよって話」


そう言って笑ったら知秋が強く抱きしめてきた。

離さないように確かめるように、まるで不安でいっぱいの子供のようだ。


少し寂しげな目が、居なくならないでと言っていた気がする。


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