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走って逃げて数分後にドアのノック音が響いた。

「英羅、ここを開けて」


来夏の優しい声が今は恐怖しか感じない。ドアを開けようとしてくる2人に俺は叫んだ。


「入ってくるな!!」


ドアを押して必死に開かないようにする。何でこの部屋鍵が外側なんだって考えるとやはり監禁用の部屋なのだ。最悪だ、最悪だ。

「また機嫌が悪くなったか」

「お前がキスなんてするからだろ」

「あ?俺は一昨日から英羅に触れてねぇんだよ。耐えられるか」

「はあ?僕だってそうなんだけど」

「そんな言い合い聞きたくない!!向こうでやれ!!しばらく近づくな!!!」



俺がさらに叫ぶとようやく2人はドアから離れていった。それでもリビングから言い合いが聞こえてくる。

なんだよ、さっきまであんなに優しかったのにこの変貌ぶり。いや異常なのは気づいてたけど想像してた以上のヤバさだった。2人は嘘をついてない、それは確かだ。だけど嘘をついてないからこそあの異常さもよく分かる。

親友2人に気を抜いてたから仕方がない。仕方がないがもう少し警戒するべきだった。

「あー……なんだよ、もう」


母さんも死んで父さんも死んで、今度は狂った親友2人に監禁だって?神様ってやつは居ないのかよ。俺だけ、こんな人生なのかよ。


今更全部が悔しくなってきた。
未練のなかった人生がむかついて仕方がない。取り戻してやりたい、ボロボロで疲れた体に鞭打ってでももっと他のことをすれば良かったとか、今更後悔が襲ってきた。笑える、なんて笑える人生だ。

こんな事をきっかけに悔しい感情が生まれるなんて。



「英羅、いい加減出てこい」


何分経ったのか分からないがドアの前から知秋の声がする。今は会いたくない。まともに話ができない。


「……明日、明日部屋を出るから。1人にして」



返事はなかった。でもドアを離れる足音がするから俺の要望はどうやら通ったようだ。無理矢理入ってこない事に正直ホッとしている。

 


2人はいつだって俺の側に居て、笑ってふざけて、一番の理解者だった。他人に興味が薄いなとは思っていたけど、母さんのお見舞いに来てくれた時もあったし、父さんだって2人のことを気に入ってた。俺が困ってたら1番に駆けつけてくれるのも2人だった。

「……お前らそんな奴じゃなかっただろ」

2人は俺をそう言う対象で見てた。いつからだ。
監禁するほど、あんな悪魔の笑顔で、俺がこんなに動揺してても心配の言葉すらない。


「つまりなんだ、あの時から俺の事を……」


そう考えると2人の俺に対する気持ちは信じられないほど重く硬いものだ。俺が親友と呼びながら2人はそれ以上を欲していたのだろう。あの時2人の気持ちに気付いていたら、俺はどうしていたのだろうか。


この世界の俺はどうして、2人を受け入れたんだ。
そもそも本当に受け入れてたのか?大体何があってどうしてこうなったんだよ。
何もまとまらない考えがどんどん頭を疲弊させていく。


色んな事がありすぎて身体が重くなってきた。
よろりと立ちあがりベッドに潜り込む。

視線を窓に向けると星空が見えた、こんな時でも美しいものは美しい。
気持ちとは真逆の光景から逃げるように目を閉じるとすぐに闇に落ちる感覚があった。





その中で俺の知らない光景が流れ始める。




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