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rival!!
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しおりを挟む「で、どんな状況なのーー!?ねえー!李恩隊長!」
「あー叫ぶな!うるせえ!!」
「だって!!風が!!すごい!!」
寒いのにオープンカーで風がビュンビュンなのだ、叫ばないとやってられない。するとウィーンと音がして後ろの方から屋根が閉まっていく。やっと空間が密閉されると身震いがきた。
「へっくしゅん」
「おいやめろやめろ、お前が風邪ひいたら俺のせいになんだろ」
「誰もそんな事言わないって……で?で?麗央さんはどうしちゃったんですか」
発車してから孟スピードは変わらずで、法定速度多分アウトかも知れないけど見なかったことにしよう。李恩は自分のスマホにちらりと目をやった。
「あいつが撮影の予定勝手に入れて自分でスタジオ向かって、そしたら変なやつに絡まれてる。つか誘拐?」
「誘拐?!身近でそんな事が……」
「はあ?なに言ってんだお前、俺と会った時も連れ去られてるだろ」
「は!そういえば」
ポンと手を叩いたら冷たい目で見られたけどもうその目怖くないからねおれ。なにも気になんないからね、ジト目と呆れ顔には耐性あるからね。にっこり笑って続きを促す。
「理由は?」
「そりゃ金だよ」
麗央さん優雅な雰囲気は元々あったけど本当にお金持ちらしい。多分先輩達と同じくらいかそれ以上か。
「あいつの親父、可愛い息子をそりゃもう溺愛してる。だからその分息子は狙われやすくて、流行ってんのかってくらい身代金の話題が出てくんだわ。しかも一回親父がすぐにでも息子を返して欲しいからって多額の金をポンって渡したことがあってそれから更に引っ張りだこ。誘拐犯にな」
「そ、それはまた……あれ、だとしたらなんで先輩達はそういうことが無いんだろ、あんなにセレブさんだけど」
「ありゃ裏の世界行き来してるからそう簡単に手出す奴いねぇよ、麗央の父親はそういうのすら知らない人間で、その上金持ちで息子を溺愛してるから今の状況が生れてんだ」
まあ、あんなに美人で可愛いくて天使オブ天使な麗央さんが産まれたらそれはもう可愛がって愛でる。誘拐されたら自分が持ってるものならなんでもあげて早く返して欲しいって気持ちはよく分かる。
なるほどねぇと頷いていると李恩が髪をかき上げた。
「お前まで来なくても良いんじゃねぇの、ましてやあんたの事あいつ相当許せなさそうだけど」
「でもおれ麗央さん好きなんです。だから勝手にお助けしますよ」
笑っておれが言うと、少し見えた口元の笑顔。
こう答えること分かってたんじゃないのかな、この人は。
「……そうかよ」
「それにほら、最近クラブでいつも稽古してもらってるからね」
「ああ、意外と良い動きするよな」
「え?!」
まさか褒められるとは思わず嬉しくてバンザイ。だけどこの人はテンションが一定なのでスルーだ。
「まあ、幼児程度には動けてる」
「上げて落とす!」
ええい、そりゃ甘やかされている自覚はあるけど。だけど結構本気でやってるし、これでも男なのでそういう事言われるともっと頑張ろとか思っちゃう。
でも見てなさそうで意外と見てくれてたんだ。
優はまだツンケンしてるけど、そのうち仲良くなれるんじゃないかなぁ。
「ああ、だから李恩がボディーガードなんだね」
「あ?」
「麗央さんパパも麗央さんも李恩ならどうにか出来るって思って抜擢したんでしょ。だから李恩が頼りになる人なんだなぁって思った」
そう言うと少しだけ横顔の雰囲気が暗くなった。
何か言ってしまっただろうか、素直に彼の良いところを口にしたつもりだが、麗央さんも李恩もまだおれには分からない何かが引っかかっているらしい。
「……俺はなぁ、優夜みたいに冷たそうでなんでもハッキリ言う奴が好きなんだよ。線が細くてツンとした美人がな」
なんだかその言葉が言い聞かせてるように聞こえたのはきっと気のせいじゃない。
「えっと、優はやさしいし、可愛いところは可愛いですけどね」
「知ってる……嫌味じゃなくその態度の方が俺が助かるって話だ」
助かるってなんだろう。なにが助かるんだろうか。麗央さんもおれが女の子なら助かったのだろうか。2人は何に囚われているんだろう。
真っ黒な目が一瞬だけ悲しそうに見えた。
李恩がぽつりと呟く。
「……だからお前見てるとあいつを思い出す」
「あいつ……?」
聞き返しても返事は無い。
それと同時に急ブレーキがかかり車が止まっておれはドアに頭をぶつけるが、おーおー痛そうでちゅねーと抑揚のない声。微塵も心配してなさそうですこの人。
「いたた」
「着いたぜ」
李恩が早くも車を降りていたので慌てて続けば、止まったのは高層マンションの目の前だ。見上げると首が痛くなるくらいで外壁が真っ黒。最近建てられたばかりのデザイナーズマンションだった。
「なんか想像と違う……」
「廃墟でも想像してたか?まあ、誘拐犯も色々いるからな」
随分と誘拐に事情通な彼は慣れた手つきで電話をかけ始めた。
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