sweet!!

仔犬

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kick!!

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それも結構最初の、付き合うくらいの時に今までは弟みたいでしたけどってそんな感じの言葉。たしかにそれからは具体的な話なんてしてこなかったかも。
だからと言って瑠衣先輩だってわざわざそんな話持ち込んでこないしな、ほとんど行動で伝わってる。そういうのはお互い敏感だから雰囲気で分かるし。


「ええーと……?」


思考が途切れそうになると握っていた手に力が入る。
真っ白で骨張っているけど綺麗な大きな手は喧嘩好きなんて嘘のように傷一つない。その手に俺の髪を手櫛されながらまた考えだした。

最近の瑠衣先輩のわがままは基本的にやって欲しい事が決まっている。じゃあ今回は?ただ行きたくないだけじゃないはず。いつもなら結局それなりに楽しむのがこの人だ。

手を引っ張って、はいこっちに注目の合図を出す。

「これから一つずつ不機嫌候補を挙げます」

「へー?聴いてあげまショー」

聞ける程度にはゆるい不機嫌。そうなんだよ、この人のわがままって色んなレベルがあるけど、今日はポップなわがままなのに異様に長いのだ。天気予報よりも難解かも。

もうとりあえず分かりやすいところから上げてみる。

「まず、好意に気付いてるリョウを弟みたいに可愛がってる事。けどもちろん友達ですよ。今日だけは瑠衣先輩も巻き込んじゃいましたけど」

「ソウネー、薄情なダーリンでカナシー」

「は、薄情ね……でもじゃあこれは一応マルが貰えるってことですよね」

「まだまだあるでショ、アッキーの薄情シリーズ」

「いやな名前に変えられたな……」


まあ、これが本命の不機嫌の理由じゃない事は予想通り。次だ。

「神さん才さんに言われた事を言わない」

「あーソウネ、それもヒドーイ」

「……デートなのに、見張られるような感じでデートじゃない」

「まあ、嫌でしょ」

「……自分で言ってて辛くなってきた。てかまだあんのかよー」


俺まで項垂れそうだ。
分からん、後何がある。だってリョウの事だって俺がどうするかなんて分かりきってるはずだこの人は。頭が良くて、そんなに出してるつもりはないけど、どんだけ懐いてるかとか。

「おバカなアッキーにヒントをあげようかー」

「え?」

「オマエはアイツのわがままを先に聞いて叶えた」

少し低くなった声。
この場合のわがままは今日の事だろう。たしかにわがままを聞いたことになる。瑠衣先輩の事知って欲しい思いはあったとは言えリョウのためと言われたらその通り。

いつも何かにぎらついている目が今は何も映していない。普段は騒がしいけど、1番静かな面があるのは実は瑠衣先輩なんじゃないだろうか。でもこれ、わざと。

「今度は怒ったフリですかー……」

「オー察しがイイでちゅネー」

暮刃先輩や氷怜先輩より1番複雑な感情を器用に使うのはこの人だ。だからむくれるなんて、ふざけるなんて全部遊びだ。面白いからしてるだけ、でも今回ここまで遊びを引き伸ばしてるのは何故だろう。

あれさっき、なんて言ってたっけ。
先に?リョウのわがままを何より先に……。

その瞬間、にやけそうになって口元を隠す。
分かってしまった。手を離してもにやけが止まらない。やめてくれ俺のツボをつくのがうますぎる。

「何がお望みですか?」

つまり全部わざとなのだ。
これは壮大なわがままだと、あいつの願いを叶える前に俺にわがままを聞けって事。

オレが望みを聞くといつものにんまり顔がついに飛び出た。そして犬歯を見せるように悪戯に笑うから流石の俺も叫び出す。

「てかなんだよもう!そんなの言ってくれればいーじゃん!!」

「だってそれじゃあツマンナイじゃん~」

うわ出ました。楽しい事大好き族。
もう買ってきたドリンクがぶ飲みして喉を潤す。無駄に頭使っちゃったし、俺も後で絶対なんか食うからな。

「はあー、それで?何をして欲しいんですかね!」

瑠衣先輩もストローが刺さったドリンクにようやく手を伸ばした。唇に赤いストローが当たる前に悪魔みたいなニヤリ顔をする。表情豊かで感服するわ。

ドリンクを持った手の人差し指が示した方角には誰もいないが、彼には何か見えるようだ。

「アイツに納得させるような言葉はオレへの愛の告白でもあるっしょー?だからはい、ソレ、オレに先に言うべきでショ」

「それは……」

そう、つまり言語化してみせろって言いたかったと。

だってそんなの言わなくても分かるようにしてるのに。しかも分かりきってるくせに。いや、ずっるいなぁ。当たり前すぎて分かんないとこ突いてくる。
思わず一度両手で顔を隠して落ち着かせる。
フードコート昼前だから人がまばらで良かった。


ようやく落ち着かせて瑠衣先輩を見つめると大きなガラスから入る日差しに目を閉じその瞳がゆっくりとこちらに戻ってくる。宝石のような目の奥がギラギラと揺れていた。

「で?」

もう決まっている。ずっと前から。
俺は瑠衣先輩の顔を両手でぎゅっと押さえて目を合わせた。相変わらず綺麗な目だな。キラキラの海みたい、これがまたこんなにも愛おしい。


「例え誰かに瑠衣先輩をわかってもらえなくても俺は瑠衣先輩と一緒にいますよ。この腕にいつでも収まるように」


そういうと、一瞬で雰囲気が変わる。
この男が本気を出すと恐ろしいと思うのはこういう時だ。きっとそう思ってることすらお見通し。
だから俺も攻撃が足りないのだ。この人が好きな言葉、そして事実をさらに付け加える。

「それに俺がお世話はしてますけど、俺に首輪をつけたのは瑠衣先輩でしょ」

こんな時だけ噛み付かない瑠衣先輩はゆっくり口角を上げ赤い唇で俺の指輪に口付けた。白い肌にエメラルドグリーンの目が弧を描くと絶望するくらい綺麗に笑う。


「よく出来ました」



ひとたまりもないってこう言う時だ。





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