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kick!
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しおりを挟む「唯斗さんはひどいです……いっつも勝手に決めちゃうし、怪我するし、でも優しいし可愛いしカッコいいし、本当に、大切で、うっ」
ポロリと流した涙により唯は歓喜の声を上げた。
「桃花、可愛いいいいいい」
「だから!それも!!」
桃花が叫ぶように言い返そうとするが唯が抱きついてそれも叶わない。もういいですとまた泣き出した。
「あらら、出来上がってる」
ゲラゲラと楽しげな声がクラブのホール全体から聞こえて来る。榊さんとの手合わせはなんと今日で全員終わったと言う。何百人もいるらしいけどそれ全員ってかなりの人間離れ。結局氷怜先輩達は戦っていなかったけど、最後は幹部の人たちと榊さんの大戦が見れてものすごい白熱だった。
そしてお約束の打ち上げとばかりに飲み物を片手に今はみんなで楽しんでいる。後夜祭みたいで楽しそうなので俺たちも勝手に参加。先輩達は榊さんと麗央さん達と話があるみたいで部屋の方に行ってしまった。
そんな中、しばらく打ち上げが進んだところで式と桃花がやっと近寄ってきてくれた。なんだかんだ俺たちがちゃんと教えてもらってクタクタになっているのを見ていてくれたらしい。複雑そうな顔で言う。
「まだ納得いかねえけど、やるって決めたんなら気抜くなよ」
「本当は今すぐやめてほしいですが俺のためにもって言われたら、なんだかもう……」
式は自分で折り合いをつけたらしいが桃花は唯の一言で折れてしまったらしい。相変わらず唯はある意味恐ろしいが、桃花が今泣いているのは飲んでいたドリンクのせいでもある。
「ねえ式、桃花ってお酒弱かったの?」
「いや飲める。あれだろ飼い主がいるからタガが外れたんだろ」
「泣き上戸のスイッチを唯が入れたか……」
唯はもう酔ってる桃花が全部可愛いんだろう、よしよししながらめっちゃ写メ撮ってるけどアレ酔い冷めたら桃花絶望するんじゃないか。
式は淡々と飲んでるから結構いけるのかな。てか未成年なんだけどとかもう考えたらやっぱり終わりだ。あれはハッピードリンク、なんなら俺だって飲みたい。
「式、俺もそれ飲み」
「却下」
「せめてたいまで言わせてよ……」
食い気味だったので多分瑠衣先輩達せいだろうけど。まあ、そこまで飲みたいかと言われると多分コーラの方が美味しいんだよな。
俺はふと周りを見渡す。優は美嘉綺さんと何やら話しているみたいで、あの2人頭脳派だから小難しそうな話をしているに違いない。
唯の周りには紫苑さんも那加さんも亜蘭さんもいて唯と桃花のやり取りがツボらしい。なんだかんだすでに仲良くなっててさすが順応の速さピカイチの親友達よ。
あれ、でも神さん才さんが居ない。双子さんって目立つからすぐに見つけられるんだけどと思ったら後ろから大っきい声がかかる。
「秋!」
「式!」
「おわ!」
後ろから突然ぴょこぴょこと出てきたのは同じ顔に同じ声の神さんと才さん。驚いて持っていたコーラを落としそうになるが式は慣れっこなのか俺のコーラを掴んでお疲れ様ですとクールだ。
「式は相変わらずつまんないね」
「つまんないね」
「良いんですよ俺は面白くなくて」
「それがつまんなーい!」
最後は同時に声を揃えた2人は俺の頰を両方から突く。
「秋は何でも反応してくれるのに」
「まあ、ツッコミ兼ボケ要員だと思ってるんで俺」
親指立てたら式が眉間にシワを寄せた。これ無意識なんだろうけど、本当に素直だよな。でも少し意外だった。他の幹部の人達には式ってここまで表情出さないから。
「もしかして式と神さん才さんって割と仲良しなんですか?」
神さんと才さんが式の肩に肘を置く。鏡合わせみたいに同じ動きをしながら空いている手でなんとも言えない顔の式を示した。
「コイツに戦い教えたの」
「俺たち何だよね」
聞けば元々式は裏方としてチームに志願していたらしいが、表に出るならもっと力をつけろって他の幹部の人に言われ戦いを教えたのが双子さんだったとのこと。
「あれは教えたと言うか……」
式が遠い目になってしまった。何となく、言いたいことは分かる。コツを掴んだから良いものの、教えるってか体当たりでやってみたら?って感じだったわ。あと結構無理な動きさせられるから今すでに筋肉痛。
「何さー結構付き合ったと思うけど」
「そうだよ指一本も動かせなくなってたじゃん」
「え?!」
そんな激しいの?式をもう一度見ればもう目が据わっている。何をやらされたんだ。
「あの時才さんが熱血の喧嘩漫画にハマってたからそれと同じ致死量のトレーニングさせられて……次の日起き上がれないし箸も持てないし……はは」
「お、思い出すな式!過去だ!もう大丈夫だって」
お酒のせいなのか今夜はみんな感情の振り幅がでかい気がする。なんとか式の正気を取り戻すためコーラを口に持っていってあげると珍しくそのまま飲んでくれる。あ、唯が桃花の泣き上戸かわいいって言うのがわかってしまった。いつもは1人で何でもやっちゃう人の世話が焼けちゃうとちょっと可愛く思えるわ。
式はしばらくすると自分の下についていると言う人と話をしに行ってしまう。少し聞こえてきたのは戦術がどうとかだったから、こんな時まで真面目なもんだ。
「そんなんじゃ彼女出来ないぞー」
「当分作る気ないので」
神さんか才さんの言葉に振り返りもせず言い放った式。俺は思わず苦笑する。
「かっこいいねぇ」
友達がかっこいいと誇れるもんだ。
「作る気ない、ね。本当バカ真面目」
「本当バカ」
「……まさかのバカ残し」
結構男前のいいセリフだったけど2人には響かなかったらしい。そして俺はまたピンときた。
「あ、今ボケたの才さんですね」
「お!正解!」
やっぱり最後は同時言うのか。なんとなく二人の微々たる違いは見えてきたけど、まだまだ一見しただけじゃ分からない。
ボケた才さんが俺を覗き込む。耳にかけた髪、この人たち言動が子供っぽく見えるけど、実際は綺麗な顔立ちに大人っぽさをちゃんと持ってる。ああ、また瑠衣先輩と被るなぁ。
「秋達は式と同じクラスなんだっけ、あいつ学校でもあんななの?」
「まあ、俺たちの面倒見てくれるくらいですからねぇ」
「ちなみに正反対の俺たちが式の担当に任命された理由聞く?」
もちろん気になるので頷いた。
「真面目には不真面目合わせとけばー?」
「って瑠衣さんが」
「ブハ!」
何となく瑠衣先輩に似てる人が瑠衣先輩のモノマネすると似過ぎててツボに入ってしまった。自分が一番適当なのにそれ言うんだとか、とにかく面白くてお腹痛い。
「似てるし、本当2人のキャラ良いっすよね。なんかもうずっと面白い」
「ねえ、秋」
涙を溜めて笑う俺に神さん突然真面目な顔をする。また何か企んでるのかなと思えば顔が近づいてきた。逆の耳に才さんまで。
あーなんでここの人たちこんなに顔イケメンなんだろとかぼんやり考えていると耳元で衝撃の話を聞いた。
「え」
「ナニー、もうツインともう仲良くなったのアッキー」
びっくりして固まっていると目の前に瑠衣先輩。
2人はまた短く言葉を俺に残して、すぐにいつも通りの態度にもどる。でも先輩達に対する態度は他のみんなと分け隔てなく接しているのは那加さんくらいで他のメンバーはがらりと雰囲気を変える。
「瑠衣さんお疲れ様です」
同時に声は出すが丁寧な姿勢と態度。普段も面白くてもったいないとは思うけど、この真面目さは良いギャップだ。式の事をバカ真面目と煽るけどこの人達も自分が認めた存在にはとことん尽くすタイプ。
「今日もツインは見事なシンクロだネ~」
「双子人生楽しんでますので。あ、もうあいつとは話終わりましたか?」
「ウン、サカリンなんか面白いヤツだからもう少しチームに居させるヨー」
立ったまま話す3人の下で座って聞きながらコーラを飲んでいたのに奪われた。ちゃんとチームの話してる時は大人しくしてんのにこうやってイジってくんだよな瑠衣先輩。あっけなく飲み干されるコーラを見ていたら今度は手持ち無沙汰なのか顎ごと片手で掴まれる。おもちゃか俺は。
「だと思いました」
「俺もまだ今日不完全燃焼……ま、瑠衣さんもですよね」
「当たり前」
にやりと笑い合うその姿。
この人達一番似てるのはその闘争心の高さかも。
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