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「……え……はつ、こい?」
危ない、落としそうになったグラスを握り直す。
初恋ってあの初恋かと疑いたくなるほど榊李恩に似合わない言葉だから一瞬では結びつけられなかった。
初恋?愛だの恋だのを鼻で笑いそうなのに、初恋を、未だに?
耳を疑う事実に俺たちよりもいち早く反応したのは本人だった。初めて見る余裕のない顔。いつも真っ暗で気力とは無縁の瞳だったのに今は怒りで燃えている。
「オイ……麗央適当なこと言ってんじゃねえ」
「適当?妥当な意見だと思うけど、昔の男が忘れられなくて物足りないから問題ばっかり起こしてるくせに。認めたくないけど頭と体力だけはあるんだからもう少し他に使ったら?馬鹿馬鹿しい」
「うわ、良いキャラ……」
さらっと言い放った麗央さんに俺の好感度は急上昇。彼は腰に手を当てて鼻を鳴らした。
「ボディーガードはごく最近だしそんな問題を起こしてるとは知らなかったけど、この前そこの胡散臭い笑顔の人がなんか言ってたでしょ、それだけでピンときたよ」
「胡散臭い笑顔!!!」
「瑠衣先輩笑うとこがちょっと違うっす」
赤羽さんを指差して笑う瑠衣先輩をまたもや秋がどうどうと宥め、赤羽さんは期待通りにいつもの笑顔を返す。
そんな騒がしさに耳も傾けず麗央さんは続けた。
「しかも今日だって簡単に折れるのがその証拠。暮刃さんのモノ馬鹿にするフリして自分の恥ずかしい部分隠すなよ。わっかりやすい初恋が忘れられないって顔して、そんなの恋する乙女にはすぐにわかるね」
あ、本当に恋する乙女だったんだ。
麗央さんがたたみかけると榊はぴしりと額に青筋を立てる。
ああ、なんだ、そんな顔もできるじゃん。
「黙れ」
「俺が氷怜さんのお願いで黙るとでも思ってるわけ?しかも好きなら好きって言えばいいのに!男らしくなーい!」
「ああ……?一生片想い拗らせてる奴に言われたかねぇあなぁ……!」
「今俺のことは関係ないでしょ?!しかもそれお前もじゃん!馬鹿じゃないの?!」
テンポいいなこの2人。
もうあんなに怖かった怒りの様子もいまでは逆ギレにしか見えない。
俺の苦悩は何だったのかと馬鹿らしくなるほど、2人の言い合いのせいで力が抜けてくる。このコンビ見た目の雰囲気は天使と悪魔みたいで反対なのになんか似ているかも。
「ちなみに初恋のお相手、皆さんも知っているんですよ」
どうでも良くなってきた所に、ずっと静かに控えていた赤羽さんがにこやかに告げる。
「何……」
ぴしりと固まった榊に俺は確信する。
ついに折れたのだ。
ああ、なるほど。
こうなれば話は早い。ここまで拗れた要因の相手まで把握している、しかも俺たちの知り合いならば榊李恩もだれも手を出さなくなるってことか。
赤羽さんって相変わらず……。
「エッグいなぁ……」
俺のかわりに紫苑さんが後ろでボソリと呟いた。赤羽さん聞こえているだろうに爽やかな笑顔、ご馳走様です。
ここで悪気ゼロの唯が爛々と目を輝かせた。
「はいはい!誰、だれですか!」
「それこそみなさんがよくお世話になっている人です」
「えーだれだれ!」
呑気に恋話を始めた2人に榊李恩がとうとう切れた。
「……おい、今ここで暴れたって良いんだぜ俺は、なぁ」
「ちょっとさっき約束させた事、忘れたとは言わせないけど」
きっと睨む麗央さんに舌打ちをした榊。すかさず瑠衣先輩が楽しげな声を上げた。
「んーどうせ暴れるならオレの相手してー?」
「瑠衣さんマジでやめて下さい。今日は」
「良いじゃん~、シオンも相手して貰えば?勝てないと思うけどーブフー!」
首を捻った瑠衣先輩の煽りに紫苑さんの何かがブチギレた音がする。いつか打ち負かしたい憧れの人にそう言われて黙る男はいないらしい、ここのチームには。優しいお兄ちゃんから一転、ギラついた目に変わる。
「榊ぃ、俺が相手してやるよ」
「……お前じゃ片手でも勝てるな」
「馬鹿言ってんなよ、おい……?」
睨み合いが始まりだんだんと騒がしい人間が増え、赤羽さんがさりげなく閉じていたカーテンを開ける。黄色い悲鳴が上がり、騒ぎに気づいたチームの人たちが集まり活気ある場所に変わってしまった。
あーなんか、話が丸まったんだろうな。脱力して完全に体の力を抜くと俺のお腹に回る手に力が入り、見上げると綺麗なグレーの瞳が俺を捉え悪戯に笑う。
「ね、大丈夫って言ったでしょ」
「はあ……」
にこにこと暮刃先輩に言われてしまい頷くしかない。氷怜先輩はもう興味が無いらしく唯を構い始めた。瑠衣先輩はいまだに笑っているが秋もついに宥めるのをやめて苦笑い、少し経てば料理秋の口に瑠衣先輩が運び始める。
忙しかったのは本当らしいけど、実は余裕綽綽だったのでは、それに、雑誌に載ったのむしろ俺たちをおびき寄せるためだったのでは。
「……いつからこうなるって知っててんですか」
またこの先輩達の手の内だったのかと、そんな気がしてくると俺たちの行動ってなんだったんだか。いじけそうになり、暮刃先輩の少し伸びた髪の毛をすくうとさらに目を細くして笑う。
「さあ」
嬉しそうに笑っちゃって。
まあ、腕の中は心地いいからもう良いか。
危ない、落としそうになったグラスを握り直す。
初恋ってあの初恋かと疑いたくなるほど榊李恩に似合わない言葉だから一瞬では結びつけられなかった。
初恋?愛だの恋だのを鼻で笑いそうなのに、初恋を、未だに?
耳を疑う事実に俺たちよりもいち早く反応したのは本人だった。初めて見る余裕のない顔。いつも真っ暗で気力とは無縁の瞳だったのに今は怒りで燃えている。
「オイ……麗央適当なこと言ってんじゃねえ」
「適当?妥当な意見だと思うけど、昔の男が忘れられなくて物足りないから問題ばっかり起こしてるくせに。認めたくないけど頭と体力だけはあるんだからもう少し他に使ったら?馬鹿馬鹿しい」
「うわ、良いキャラ……」
さらっと言い放った麗央さんに俺の好感度は急上昇。彼は腰に手を当てて鼻を鳴らした。
「ボディーガードはごく最近だしそんな問題を起こしてるとは知らなかったけど、この前そこの胡散臭い笑顔の人がなんか言ってたでしょ、それだけでピンときたよ」
「胡散臭い笑顔!!!」
「瑠衣先輩笑うとこがちょっと違うっす」
赤羽さんを指差して笑う瑠衣先輩をまたもや秋がどうどうと宥め、赤羽さんは期待通りにいつもの笑顔を返す。
そんな騒がしさに耳も傾けず麗央さんは続けた。
「しかも今日だって簡単に折れるのがその証拠。暮刃さんのモノ馬鹿にするフリして自分の恥ずかしい部分隠すなよ。わっかりやすい初恋が忘れられないって顔して、そんなの恋する乙女にはすぐにわかるね」
あ、本当に恋する乙女だったんだ。
麗央さんがたたみかけると榊はぴしりと額に青筋を立てる。
ああ、なんだ、そんな顔もできるじゃん。
「黙れ」
「俺が氷怜さんのお願いで黙るとでも思ってるわけ?しかも好きなら好きって言えばいいのに!男らしくなーい!」
「ああ……?一生片想い拗らせてる奴に言われたかねぇあなぁ……!」
「今俺のことは関係ないでしょ?!しかもそれお前もじゃん!馬鹿じゃないの?!」
テンポいいなこの2人。
もうあんなに怖かった怒りの様子もいまでは逆ギレにしか見えない。
俺の苦悩は何だったのかと馬鹿らしくなるほど、2人の言い合いのせいで力が抜けてくる。このコンビ見た目の雰囲気は天使と悪魔みたいで反対なのになんか似ているかも。
「ちなみに初恋のお相手、皆さんも知っているんですよ」
どうでも良くなってきた所に、ずっと静かに控えていた赤羽さんがにこやかに告げる。
「何……」
ぴしりと固まった榊に俺は確信する。
ついに折れたのだ。
ああ、なるほど。
こうなれば話は早い。ここまで拗れた要因の相手まで把握している、しかも俺たちの知り合いならば榊李恩もだれも手を出さなくなるってことか。
赤羽さんって相変わらず……。
「エッグいなぁ……」
俺のかわりに紫苑さんが後ろでボソリと呟いた。赤羽さん聞こえているだろうに爽やかな笑顔、ご馳走様です。
ここで悪気ゼロの唯が爛々と目を輝かせた。
「はいはい!誰、だれですか!」
「それこそみなさんがよくお世話になっている人です」
「えーだれだれ!」
呑気に恋話を始めた2人に榊李恩がとうとう切れた。
「……おい、今ここで暴れたって良いんだぜ俺は、なぁ」
「ちょっとさっき約束させた事、忘れたとは言わせないけど」
きっと睨む麗央さんに舌打ちをした榊。すかさず瑠衣先輩が楽しげな声を上げた。
「んーどうせ暴れるならオレの相手してー?」
「瑠衣さんマジでやめて下さい。今日は」
「良いじゃん~、シオンも相手して貰えば?勝てないと思うけどーブフー!」
首を捻った瑠衣先輩の煽りに紫苑さんの何かがブチギレた音がする。いつか打ち負かしたい憧れの人にそう言われて黙る男はいないらしい、ここのチームには。優しいお兄ちゃんから一転、ギラついた目に変わる。
「榊ぃ、俺が相手してやるよ」
「……お前じゃ片手でも勝てるな」
「馬鹿言ってんなよ、おい……?」
睨み合いが始まりだんだんと騒がしい人間が増え、赤羽さんがさりげなく閉じていたカーテンを開ける。黄色い悲鳴が上がり、騒ぎに気づいたチームの人たちが集まり活気ある場所に変わってしまった。
あーなんか、話が丸まったんだろうな。脱力して完全に体の力を抜くと俺のお腹に回る手に力が入り、見上げると綺麗なグレーの瞳が俺を捉え悪戯に笑う。
「ね、大丈夫って言ったでしょ」
「はあ……」
にこにこと暮刃先輩に言われてしまい頷くしかない。氷怜先輩はもう興味が無いらしく唯を構い始めた。瑠衣先輩はいまだに笑っているが秋もついに宥めるのをやめて苦笑い、少し経てば料理秋の口に瑠衣先輩が運び始める。
忙しかったのは本当らしいけど、実は余裕綽綽だったのでは、それに、雑誌に載ったのむしろ俺たちをおびき寄せるためだったのでは。
「……いつからこうなるって知っててんですか」
またこの先輩達の手の内だったのかと、そんな気がしてくると俺たちの行動ってなんだったんだか。いじけそうになり、暮刃先輩の少し伸びた髪の毛をすくうとさらに目を細くして笑う。
「さあ」
嬉しそうに笑っちゃって。
まあ、腕の中は心地いいからもう良いか。
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