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仔犬

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「拉致されて良かった……」

「優夜さんその言葉、暮刃先輩の前で言ったら面白い事になるのでやめて下さいね」


実は言って欲しいのではないですか赤羽さん。



訳は分からなかったけど拉致先は都心の高層ビル。入館のカードを首にかけられ、まず通された広い部屋。その場を見て俺が拉致嬉しい発言をしてしまったのには訳がある。
だって俺にとってここは天国だ。


「お前らここの服好きだろ!」

keinoケイノ!!」


唯が特に好きなこのブランドはデートの日に2人に貸せるほど持っている俺だって当然大好きだ。SSに向けた写真だと言うがまさかkeinoだったなんて。唯と一緒にまだ世に出てない新作が嬉しくて思わず掲げるが秋は焦った様子で話し出す。


「いや、柚さんこれ着て良いんですか俺らが……?!」

「俺が任されたんだから俺の好きにする!」



それってもしかしなくてもダメそうだけど、柚さんが良いと言うのなら良いことにしよう。とにかく俺は見れた事だけでも大満足だ。柚さんは相変わらず写真を撮りながらケラケラ笑った。


「優、お前そんな顔出来んだな」

「服はもう顔にすぐ出るんで」

こればっかりは仕方がない。
物心ついた時には雑誌を見ていたほどだ。

春コートは今年のトレンドを取り入れたもの。可愛い、これは男女で少しデザインが変わるのか。毎年定番のトップスは袖の広がりが去年より大きいな。ああ、雑貨まで全部あるのか。雑誌に載り切らない奴が見れるなんてすごい。男女で使えるトートは嬉しいし……なんて、とにかく目移りしながらも端から見ていく俺に柚さんは笑みを深くした。


「良いじゃん良いじゃん良い表情!ここのデザイナーかなーり俺の事信用してくれちゃってんの。だからコーデも好きにして良いって」

「……それって」

流石の俺でもこの言葉に大きな期待をしてしまった。服を持ち上げたままゆっくり視線を動かし柚さんの目を見ると今日はラベンダーのカラコンが楽しげに光っている。

好きにして良いなんて言われてしまったらときめいてしょうがない。


「俺が考えても良いんですか……?」

思わず服を抱きしめた俺に柚さんがニヤリと笑う。

「氷怜さんは人を見る目があるけど俺の目も大したもんだよ?」

「おれも優に考えて欲しい!」

「てか、優しかないじゃんこの場で」

「優夜さんのセンスは俺も計り知れませんよ」


秋も唯も赤羽さんまでそんな事を言うから吹き出してしまった。それでも好きな事を任されるのは本当に嬉しい。全身考えて自分たちで着れる。しかもそれが世に出回る。

そこまで考えたら堪らなく嬉しくて、そうなったら暮刃先輩の顔が浮かんで。だけど今はまだ、まだだ。ちゃんと全部終わってからもう一度話したい。



「任せて下さい」



これは見栄じゃなくて自信だ。










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