sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
242 / 379
secret!!

2

しおりを挟む

「な……」

「お前、何やってんだよ!!」


立ち上がったトシさんは呆然と俺を見る。彼の腕を掴んだのはタクミさんなのに視線が外れない。

「お前飲み過ぎ、何でこんなこと……アゲハ本当にごめん。君の誕生日なのに……こいつ連れて帰るよ。今度ちゃんとお祝いさせて」

膝を折ってアゲハさんに謝ったタクミさん。本当に申し訳なさそうな顔に優しそうな瞳。ああ、唯が懐くわけだ。
一瞬驚いた表情のアゲハさんはそれでもすぐに可愛いらしい笑みを返した。

「楽しい時間だったから貴方が謝るようなことは何もないの」

「うん……それでもごめん。ほら、いくぞ」

トシさんは何も話さず、動かなくなった人形のように固まったまま引っ張られていく。俺は立ち上がり、ぶら下がった腕を少しつまんでトシさんの耳元で話す。


「素直にならないと、伝わりませんよ」

なんて良いアドバイスだろう。
やっと動き出したトシさんはギクシャクと目が揺れる。


「お前……何言って」

「自分で歩けよトシ。お前のせいでお店が騒がしくなっちゃっただろ……!」

「ま、まった」

「待たない!」


入り口まで行くと頭を下げたタクミさんと理解が追いつかなそうなトシさん。ひらひら手を振ってお見送りをしたら気分はもう穏やかだ。
振り返れば周りの人はお酒が回っていたせいもあってすでに気にしていない。アゲハさんがお酒を飲み進めてからは存外静かだったし。

「優ちゃん、裏に入って」

「え?」

「今ヘルプで私の友達が一人来てくれたから、すぐに水飲んで」

「アゲハさんこそ大丈夫ですか?あんなに飲んで」

「それより優ちゃんよ!」

小声だけど勢いのある言葉に驚く。そうかお酒がぶ飲みしたの俺だ。

グイグイ引っ張って行くアゲハさん。通りかかる彼女にお客様が話し掛けた。秋が居るテーブルの女子会を開いていた人達だ。秋の目が不安そうにこちらを見上げるので、大丈夫だと笑っで返す。

「アゲハどこ行くの?」

「お色直し」

「ドレスかえる?」

「それはあとでのお楽しみね!」

急いでいるのにアゲハさんはにこにこと笑いながら返し、タイミングよくその場から離れた。後ろも振り向かず、俺にしか聞こえない声で言う。

「あれ、普通あのまま飲むものじゃないのよ」


流石にそう思う。でも不味いとは思わなかったからいける口なのではとぼんやり思う。裏に入ってまず目にしたのは泣きそうなサクラ姉さんだった。

「あんなに無茶して!!」

メイクをしていたアゲハさんの部屋に戻るとグイッと差し出された2リットルの水。まさかこれ全部飲むのか。
ギョッとした俺に間髪入れずアゲハさんが叫ぶ。

「本当だよ!優ちゃんのバカ!!」

「すみません。凄いムカついて」


思い返したらなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。アゲハさんとサクラ姉さんは目線を合わせてキョトンとする。


「優ちゃんってクールな子と思ったら……」

「あと、アゲハさんカッコ良かったので男として何もしない訳にも」

「今は優ちゃんは女の子なの!」

「心は男なんですよ、唯仕込みの」


ソファに座りペットボトルを開けて重たい水を流し込む。意外と喉が乾いていたから冷たくて美味しい。唯と秋はまだ盛り上げてるんだろうか。ああ、それにしても暮刃先輩絶対怒るなあ。


タイミングよくサクラ姉さんのスマホがなると画面を開いて俺を見た。

「暮刃くん達こっちにそろそろ来るって……ものすごい巻いたわね……」

「うーん」


やばい、せめてお酒くさいのは消しておこう。また水を飲みながら時計を見ると開店から2時間ほどだ。主役をいつまでもここに居させる訳にはいかない。俺は微笑んで二人を送り出す。

「気持ち悪いとかないので、大丈夫ですよ本当に……アゲハさん、勝手に口出してすみませんでした。あんなに自分に気付いてない人も珍しくて」

「……タクミさんね、いつもあのトシって人のこと話すのよ。ライバルの同期がいるって。あんな奴とは思わなかったけど、多分からまわってるだけみたいだし。仲直りすると良いけど」

結局いい感じなのでは?余計なお世話だったか。
アゲハさんは俺の前に来るとしゃがんで仕方なさそうに笑った。

「優ちゃん、ありがとう。カッコ良かった」

「アゲハさんには負けます」

「何よ、可愛いって言ってくれないの?」


ケラケラ笑いながらちゃんと水飲んでよねと言って部屋を後にした。

「はあ、私まで暮刃くんに怒られそう」

「俺だけですよ怒られるのは。あ、秋と唯はあの二人に怒られますけど。サクラ姉さんも行ってください」

「……んー」


サクラ姉さんは俺の顔を覗き込んで確認する。俺はまた笑って水を飲んだ。

「ちゃんとこれ全部飲みます」

「しっかりしてるし、大丈夫かなぁ……何かあったらすぐに人呼ぶのよ?」

冷たい手が頬を滑りサクラ姉さんが部屋を出て行く、手を振って送りだし俺はまた一気に水を流し込んだ。

実は今、めちゃくちゃ暑い、気持ち悪いとかは無いけど布面積の無い服なのにほんとに暑い。

ペットボトルを持ったまま部屋を出ると奥の突き当たりに裏口を見つけた。ゆっくり歩いてドアを開けると本当だったら凍えるような風が入ってきた。でも今はそれが気持ち良くて、ドアの横にずれて壁を背にしてしゃがみこむ。
街頭のせいで星が見えない。
代わりにネオンがたくさんでそれはそれで綺麗だ。
自分でもバカなことをしたなと思うけど気分は悪くない。
そして初めての体験に思わず呟いた。



「うん。酔ってる」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました

猫足
BL
「浮気したら殺すから!」 「できるわけがないだろ……」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。 「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」 「スバル、お前なにいってんの…?」 美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。 ※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

最弱伝説俺

京香
BL
 元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!  有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

雨のナイフ

Me-ya
BL
雨の中、俺はアイツを待っていた…両手にナイフを握り締めて…。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

処理中です...