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secret!!
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しおりを挟む「な……」
「お前、何やってんだよ!!」
立ち上がったトシさんは呆然と俺を見る。彼の腕を掴んだのはタクミさんなのに視線が外れない。
「お前飲み過ぎ、何でこんなこと……アゲハ本当にごめん。君の誕生日なのに……こいつ連れて帰るよ。今度ちゃんとお祝いさせて」
膝を折ってアゲハさんに謝ったタクミさん。本当に申し訳なさそうな顔に優しそうな瞳。ああ、唯が懐くわけだ。
一瞬驚いた表情のアゲハさんはそれでもすぐに可愛いらしい笑みを返した。
「楽しい時間だったから貴方が謝るようなことは何もないの」
「うん……それでもごめん。ほら、いくぞ」
トシさんは何も話さず、動かなくなった人形のように固まったまま引っ張られていく。俺は立ち上がり、ぶら下がった腕を少しつまんでトシさんの耳元で話す。
「素直にならないと、伝わりませんよ」
なんて良いアドバイスだろう。
やっと動き出したトシさんはギクシャクと目が揺れる。
「お前……何言って」
「自分で歩けよトシ。お前のせいでお店が騒がしくなっちゃっただろ……!」
「ま、まった」
「待たない!」
入り口まで行くと頭を下げたタクミさんと理解が追いつかなそうなトシさん。ひらひら手を振ってお見送りをしたら気分はもう穏やかだ。
振り返れば周りの人はお酒が回っていたせいもあってすでに気にしていない。アゲハさんがお酒を飲み進めてからは存外静かだったし。
「優ちゃん、裏に入って」
「え?」
「今ヘルプで私の友達が一人来てくれたから、すぐに水飲んで」
「アゲハさんこそ大丈夫ですか?あんなに飲んで」
「それより優ちゃんよ!」
小声だけど勢いのある言葉に驚く。そうかお酒がぶ飲みしたの俺だ。
グイグイ引っ張って行くアゲハさん。通りかかる彼女にお客様が話し掛けた。秋が居るテーブルの女子会を開いていた人達だ。秋の目が不安そうにこちらを見上げるので、大丈夫だと笑っで返す。
「アゲハどこ行くの?」
「お色直し」
「ドレスかえる?」
「それはあとでのお楽しみね!」
急いでいるのにアゲハさんはにこにこと笑いながら返し、タイミングよくその場から離れた。後ろも振り向かず、俺にしか聞こえない声で言う。
「あれ、普通あのまま飲むものじゃないのよ」
流石にそう思う。でも不味いとは思わなかったからいける口なのではとぼんやり思う。裏に入ってまず目にしたのは泣きそうなサクラ姉さんだった。
「あんなに無茶して!!」
メイクをしていたアゲハさんの部屋に戻るとグイッと差し出された2リットルの水。まさかこれ全部飲むのか。
ギョッとした俺に間髪入れずアゲハさんが叫ぶ。
「本当だよ!優ちゃんのバカ!!」
「すみません。凄いムカついて」
思い返したらなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。アゲハさんとサクラ姉さんは目線を合わせてキョトンとする。
「優ちゃんってクールな子と思ったら……」
「あと、アゲハさんカッコ良かったので男として何もしない訳にも」
「今は優ちゃんは女の子なの!」
「心は男なんですよ、唯仕込みの」
ソファに座りペットボトルを開けて重たい水を流し込む。意外と喉が乾いていたから冷たくて美味しい。唯と秋はまだ盛り上げてるんだろうか。ああ、それにしても暮刃先輩絶対怒るなあ。
タイミングよくサクラ姉さんのスマホがなると画面を開いて俺を見た。
「暮刃くん達こっちにそろそろ来るって……ものすごい巻いたわね……」
「うーん」
やばい、せめてお酒くさいのは消しておこう。また水を飲みながら時計を見ると開店から2時間ほどだ。主役をいつまでもここに居させる訳にはいかない。俺は微笑んで二人を送り出す。
「気持ち悪いとかないので、大丈夫ですよ本当に……アゲハさん、勝手に口出してすみませんでした。あんなに自分に気付いてない人も珍しくて」
「……タクミさんね、いつもあのトシって人のこと話すのよ。ライバルの同期がいるって。あんな奴とは思わなかったけど、多分からまわってるだけみたいだし。仲直りすると良いけど」
結局いい感じなのでは?余計なお世話だったか。
アゲハさんは俺の前に来るとしゃがんで仕方なさそうに笑った。
「優ちゃん、ありがとう。カッコ良かった」
「アゲハさんには負けます」
「何よ、可愛いって言ってくれないの?」
ケラケラ笑いながらちゃんと水飲んでよねと言って部屋を後にした。
「はあ、私まで暮刃くんに怒られそう」
「俺だけですよ怒られるのは。あ、秋と唯はあの二人に怒られますけど。サクラ姉さんも行ってください」
「……んー」
サクラ姉さんは俺の顔を覗き込んで確認する。俺はまた笑って水を飲んだ。
「ちゃんとこれ全部飲みます」
「しっかりしてるし、大丈夫かなぁ……何かあったらすぐに人呼ぶのよ?」
冷たい手が頬を滑りサクラ姉さんが部屋を出て行く、手を振って送りだし俺はまた一気に水を流し込んだ。
実は今、めちゃくちゃ暑い、気持ち悪いとかは無いけど布面積の無い服なのにほんとに暑い。
ペットボトルを持ったまま部屋を出ると奥の突き当たりに裏口を見つけた。ゆっくり歩いてドアを開けると本当だったら凍えるような風が入ってきた。でも今はそれが気持ち良くて、ドアの横にずれて壁を背にしてしゃがみこむ。
街頭のせいで星が見えない。
代わりにネオンがたくさんでそれはそれで綺麗だ。
自分でもバカなことをしたなと思うけど気分は悪くない。
そして初めての体験に思わず呟いた。
「うん。酔ってる」
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