233 / 379
secret!
2
しおりを挟む新学期も始まってバイトも始まった。夜は実家とシェアハウスを行き来して1週間がすぎ、あっという間に土曜日の朝。
昨日はシェアハウスに泊まったので先輩達も一緒に見送りをしてくれる。サクラ姉さんからそこで待っててと連絡が来ると迎えにきたのは意外な人物だった。
「おはようみんな。また随分と重いプレゼントをもらったねぇ……」
女性だったら目が眩むような美形さんが家を見上げてちょっと驚いた様子。いやそうだよね、驚くよね。だって家だもん。
氷怜先輩はなぜか不機嫌そうに胡蝶さんを睨んだ。
「胡蝶なんでお前がくる……」
「サクラさんが強くて頭が切れる子探してるって言うから、それなら強くて頭が切れてついでに美しい俺の方が良いかなって……まあ、冗談はおいといて、送り迎えだけだよ俺は。拳を振うのはあんまり向いてないしね」
流し目で色気が溢れ出て、自信のあるセリフだって似合ってしまう。今日もセクシーな胡蝶さんが運転席で微笑んだ。
「腕、治って良かったね」
「あ!そうなんですよ。その節はお世話になりました」
「こちらこそ」
にこにこと話す胡蝶さんの雰囲気は落ち着いていて癒される。久しぶり会うけどビシッとスーツは変わらない。でもいつものような派手なものでなく、ボーイさんと同じスタンダードなものだ。それでも美しさは眩しいほど。
「今日は休みだったし君たちに会えるから思わず立候補してみたんだ。また雰囲気変えて……うん、可愛いね」
色気に甘さが混ざるとどうして視線が離せなくなるのか。きっとこうやって女の子に希望を与えているのだろう。
「……胡蝶さんの可愛いって言葉にはすんごい含みがありますね」
「そうかな?」
秋と優が苦笑いで返すと瑠衣先輩が後ろから2人に腕を回す。
「えらいえらい。ちょうちょには気をつけナサイ~」
「ひどいなぁ」
「特に唯ね」
「え?……あ!胡蝶さんと言えば、クリスマスにもらった香水ちょうど今日つけましたよ!」
「わあ、嬉しい。ありがとう」
何故か瑠衣先輩が爆笑し、遠い目をしたのは氷怜先輩だ。
そしてやはり何故か秋と優にほっぺを全力で引っ張られる。い、いたい、のびちゃう。
そんなおれにくすりと笑った胡蝶さんがちょいちょいと手招くので何だろうと窓を覗き込むと首筋に顔が近付く。
瞬間、引き剥がされて氷怜先輩の腕の中だ。
なにが起こったのか分からないけど、横目で何故かキャーっと騒いで秋と優の目を隠す瑠衣先輩が見えた。
「相変わらず警戒心ゼロだ……大変だね氷怜」
「早く行け……」
「氷怜が離さないと乗れないけど?ほら乗って3人とも、1人は助手席ね」
そう言われて氷怜先輩が助手席のドアを開けたので車に乗り込んだ。窓を開けて顔を出すと頭を撫でられ、それでも視線は胡蝶さんに向いている。
「胡蝶……任せた」
「……驚いた、らしくないこと言うね」
「ウルセェ」
後ろで秋と優も暮刃先輩と瑠衣先輩に向けてを手を振った。
「なるべく早く迎えに行くから」
「大丈夫だと思いますけど……連絡しますね暮刃先輩」
今日先輩達になにがあるかはふわっと聞いた。大事な人と話したり試合があったりするって。おれたちも深くは聞かないけどそれ以上の事なんだろうなとは感じている、流石に雰囲気がねぇ。
秋も優も当然安心させるように声をかける。
「あんまり血みどろしちゃダメですよ。あ、そうだ指輪を汚さずに」
「そんなヘマするわけないっ、ヨネ~」
「いてー!」
秋が安心させるように言うと瑠衣先輩のデコピンが飛んできた。
おれも先輩に薬指を差し出し、にっと笑って見せた。
「あれから外してないですよー」
「ん、良い子」
はい、良い子ですと答えたくなるような甘い笑顔に心臓を撃ち抜かれた。ずーるい笑顔。
しかもさ、先輩達もおれらがあげた指輪を一度も外していないから見るたびにへにゃっとしちゃうよね。
「番犬が指輪つけるなんて世も末だ」
「匂いつけに来る奴よりマシだろ」
言い合いながらも任せるって事は氷怜先輩はやっぱり胡蝶さんを信じてるんだろう。胡蝶さんはふっと笑うと閉じかける窓に向かって言う。
「そんな顔するんなら、早く切り上げて迎えに来なよ」
「じゃあ行ってきます!」
走り出した車から見えなくなるまで見送り、角を曲がったところでシートに座り直した。
先輩達はたぶん色んなことがあって、それならおれはその時その時を全力で。
気合を入れ直すと後ろから秋と優が仕方なさそうに、それでいてにやりと覗き込む。親友にお見通しだ。
「唯はもう終わり?」
変身の魔法なら大得意。
4
お気に入りに追加
1,368
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました
猫足
BL
「浮気したら殺すから!」
「できるわけがないだろ……」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。
「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」
「スバル、お前なにいってんの…?」
美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。
※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
最弱伝説俺
京香
BL
元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!
有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる