sweet!!

仔犬

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christmas!!

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「ねえ、2人もそうだよね?」


唯に呼ばれギクリと身体の動きを止めた。抜き足差し足忍び足で階段を降りていたのに。ソファから隠れるようにこちらを見ていた優も気まずそうに視線を彷徨わせ、諦めたようにため息をついた。


「いや……そこで俺らに振るなよ」

「そのモード無敵だから近寄りたくなかったのに……」


唯の心情やスピード感はお見通しだ。俺もソファから観戦する事にして向かっていくと、優の隣にはずっと肩を震わせている暮刃先輩。

ただならぬ雰囲気の唯がスープを盛り付けると、先に氷怜先輩がなんとも言えない顔で自分の料理を運んでいく。ローテーブルにそれを置くと瑠衣先輩が吹き出した。


「なに、何宣言?!ひーがあんなに慌ててんの初めてみたんだけど!

「…………いや」


爆笑されても言い返す事もせず、氷怜先輩が唯を見た。キッチンからにっこり笑って返し、スープを持ったお皿を両手に持つとゆっくりと運んできた。

唯を本当に怒らせた時、ありえないほど穏やかに静かに綺麗に笑う。言うなれば今はそれに近い。

おそらく唯のリミッターが氷怜先輩により外されたのだ。何がきっかけかは知らないけど、いつもの顔を真っ赤にして隠れそうになる唯は影を潜めた。その代わりに出たのがこの余裕とも取れる反応だ。

テーブルまで来た唯の頰をつねって氷怜先輩が数秒止まる。きょとんとした唯もなすがまま。
そりゃそうしたくなるよな、そのモードの唯は。

それでも唯は穏やかに微笑んだ。

「どうかしましたか」

「…………はあ」

ため息を1つ。
そして最後は頭をポンポンして冷蔵庫に向かっていくと、ボトルを二本掴んだのが見えた。それに続いた唯はグラスを人数分運んでいく。

暮刃先輩も肩をたまに震わせながらソファに座りなおした。

「……ねぇっ……お酒飲んだら余計にキそうだね、氷怜」

「うるせえよ……飲まないと無理だろ」

「そうなんだけどさ。それに俺も唯ほどじゃないけど煽られたし」

「ああー、オレもー」

「え?」

瑠衣先輩の言葉に苦笑いしたら優も同じような顔で笑ってたからやはりここは類友だ。

唯はきょとんとしていたけどその言葉を理解したらしい。他人の心情には相変わらず鋭い。それにこういうモードの唯は俺たちが煽ったんだと分かると堪らなく愛おしそうな顔をして口角が上げる。


「ふーん」

上品さとどこから出したのか分からない色気で微笑む。
やっぱり、無敵モードだ。

そのままくすりと笑ってキッチンの方にまた向かっていった。氷怜先輩が様子を見るように後ろ姿を見送った。

「あれは……」

「氷怜先輩何かしました?唯のあのモード、あれってブチ切れの真逆ですから」

ローテーブルの横に座り片膝を立てた氷怜先輩は数秒思案する。思い当たる節はあるようだった。

「でも俺もびっくりしました。唯っててっきり氷怜先輩とのそういう事が恥ずかしいんだと思ってたんですけど……氷怜先輩に対してあまりにもドキドキするから唯自身がまだ処理できてない事がネックなんですよ」

「それそれ!でも考えればたしかに唯ってそれ自体恥ずかしがる奴じゃないから元々。そういう話もさらっとするし。だから氷怜先輩ってやっぱ特別なんですよ」


優がウンウンと頷いたところで先輩達が動きを止めた。
かろうじてグラスを掴んだ暮刃先輩が条件反射なのかお酒を注ぐ。

「……そういう意味なの?」

「そうですよおそらく。だって気持ちを全部自分のものにしてからって言ってましたよね、唯」

「それは……」

唯を視線で追いながら静かに頷いた氷怜先輩。
バイブのように震えていた俺の横の人はお腹を抱えて笑いだした。

「ひー、逆に食べられたりして…………ぶっ……ふっあははは!!!」

転げ回る瑠衣先輩に氷怜先輩は怒るどころか、驚いたままぽかんとしている。彼にこんな顔をさせるのってきっと唯くらいだろう。そんな唯の天国に連れて行きたいって言葉の破壊力は大きく、そりゃ彼の心を揺さぶる。相変わらずとんでもない言葉選びだ。


でもそれって、簡単に訳せば最高の状態で先輩と、と言うごく一般的な気持ちだ。女の子が好きな人に会うために痩せるような、うまく話せるように準備するような。
唯の言い方はともあれ、その気持ちは分からなくもない。


「見て~このケーキ超美味しそう!」


冷蔵庫から戻ってきた唯はベリーがたくさん乗ったホールケーキに目を輝かせていた。注意がケーキに移ったのか殆どいつもの唯だ。

「……飯食ったらな」


いつもの丸い目が輝いて氷怜先輩はようやく笑った。少し困ったように愛おしそうに。

結局のところ俺たちは男で、だからこそお互いを大事にしてこの絶妙な距離感を保っている。それが崩れても恐らく幸せは変わらない。それでも堪らなく愛おしいこの距離感に今は浸っていたいのかもしれない。



「結局、俺らもそうかも」

「まあ、そうなんだけどさ」



あ、と思った時には遅かった。意味ありげに微笑んだ暮刃先輩と笑い方が獣じみた何かを混ぜた瑠衣先輩。
やばい、分かってるんだけど素直な部分はどうにもならない。

鈴の音は聞こえなくてもこれほど幸せな空間を俺知らない。
それに今夜はみんな機嫌が良くて、たまには俺らが狼をしたくなったのだろう。



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