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christmas!!
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しおりを挟む氷怜先輩の声が、言葉が、永遠と頭を巡っている。
葛藤か戦争か、心は甘い誘惑と戦っていた。
「唯斗」
「あ……」
甘い声が響いて言葉が出せなくなった。
心臓がうるさい。頭も回らないし体も動かない、このままだと飲まれて時間すら分からなくなりそうだ。まだ4人は向こうにいるんだろうか。それすらも確認できない。なにか、動かなきゃ。
腕の中は世界で一番安心なのに、壊れた機械のようにぎこちなくなった。すると背中にまわっていた手が頭を撫でる。固まっているおれをほぐすようにゆっくりと数回。
「怖がらせたか……?」
最後にポンポンと叩かれる腕の中でギョッとした。なんて恐ろしい勘違いをさせているのだおれは。だめだ動かせ、身体を。
なんとかぎゅっと服を掴み、顔を少しだけ氷怜先輩の胸から離す。俯いたまま顔が見れず、うるさい心臓が余計に鼓動を早める。治れ治れ。
「ち、違います」
ゆっくり、ゆっくりなら言葉が出る事に気づいた。
これを説明するのは恥ずかしい、でもこの人を傷つけたら意味がないのだ。
こんなに動揺するほど、何故こうもこの人に弱いのかそんなのは簡単、だって好きだから、迷いもなく、全てが。
だから怖いという気持ちは一切ない。
「そうじゃない……」
「……じゃあ何だ?」
「貴方を怖がった事なんて一度もない」
綺麗な目に映ったおれはどう見えるのだろう、ようやく顔を上げたおれを氷怜先輩が見ていた。穏やかさと何かを含んだ目で。
「こういう時、おれは貴方に、堕ちないようにしてる」
小さく息を飲んだ氷怜先輩に否定を入れる。そうじゃないと。
ゆっくり首を振って微笑むことができた。
「だって、おれが堕ちたら……おれだけが幸せになりそうで」
「俺はお前が堕ちてくれれば万々歳だがな」
それでも堕ちたらだめだ。
氷怜先輩は堕ちて欲しいのかもしれないし堕ちたとしてもそれは幸せになるのが保証されている。堕ちたおれをまるで宝物のように扱うのかもしれない。
でも、それよりももっとしたいことがある。
どうにか目だけを合わせたまま、絶対に急かしたりしない氷怜先輩は静かに相槌を打ちながら待ってくれている。
それが余計に愛おしくて胸が苦しくなる。これはそう、窒息しそうなのだ。そしてこの気持ちは嫌なものじゃない幸せでむせかえるような、そういう類のものだ。
だからこれを、おれの手の中に移動させて、それから。
苦しくて甘くて、グラグラする。これは本能なのだ。好きなものに対する、愛しいものに対するおれの本能にまだ踊らされている。すがりつくようにその腕を掴むと、氷怜先輩がおれを支えてくれた。思わず、その手にすり寄った。
「おれは」
「ん……」
苦しくてあと一歩の所から動けない。代わりにその手を持って今度はおれから絡めていく。
するとそれに反応した氷怜先輩の目が、瞳孔からギラリと動いた。その目があまりにも綺麗でおれの限界を超えていった。
覗かれるような目に身体が反応し、あっけなく、ぽろりと言葉が出た。
「おれの意思で貴方を天国に連れて行きたい」
「…………は?」
ぽかんとする氷怜先輩の腕の中で、おれはさっきまでの苦しさがその言葉で全て出て行ったほどすっきりしていた。どちらかといえば、しっくりきた。言ってしまえばもうこっちのもので、最適な言葉を言えたから次第にいつもの心音を取り戻している。
それに早い心音でさえも愛おしいのだ。
呼吸も楽になったのか独り言も飛び出る。
「そう、そうなんですよ」
「待った……待て、それは」
片手で抱きしめたまま、逆の手はおれの手を掴んで頭に疑問符を飛ばす氷怜先輩がとてつもなく可愛くて、いつものように微笑んだ。
良かった、もう話せる。
それからはすらすら言葉が出た。
「氷怜先輩を見て愛しさがこみ上げて、うまく息ができなくなるんです。でも貴方の望むことを全てしてあげたいから。この高鳴りすら自分のものになるまではもう少しだけ、おれに付き合って下さい」
「……唯斗、だから」
片手で顔を覆った氷怜先輩がおそらく待てをかけている。それすら待てずにその胸にも寄り添って最後にこう言った。
「そうして、一緒に天国行きましょうね」
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