124 / 379
host!
4
しおりを挟む「連れ戻してくるって……おい!待て!……行っちゃったし」
あーあと声を出したがその背中に届くことは無かった。イノが仕方なさそうに優と秋を見送ると動こうともしない暮刃と瑠衣を髪をかきあげながら怪訝な顔で見る。
「良いのかよ追いかけに行かなくて。すでに出てる唯はもとかく、あの2人が行った方が余計に……」
「まあここ、サクラさんのお店だから怪我とかするような事もないと思うし」
随分と余裕な口ぶり。瑠衣も真顔でケーキを頬張る。
イノは首をかしげたがその考えがすこし読み取れ、すぐに呆れかえった。
「……わざと2人に行くようにけしかけたのか?」
「けしかけたなんてひどいな。可愛い子には旅をさせろってね」
大して変わらないぞ。その視線を送っても暮刃はにっこり微笑んでお酒を煽り空になったグラスを置くだけだった。
すぐに動かなかったのは2人が連れ戻しに行くと分かっていたからだ。表情を引きつらせたイノに瑠衣がフォークを空中で回すと間延びした声をあげた。
「どうしようも無くなったら助けてあげようかな~仕方ないシ~」
もともと嘘か本気かわからない話し方をする2人だがこんなときにその捻くれ方をしなくても良いと思ってしまう。
しかし、口を出しそうになるがきっとこれまでもこんなことがあったのかもしれない。あの騒がしさといいどうにも目が向く3人なのだから。
暮刃が何かを思い出したのかくすくすと笑いだした。対して他人に興味を持たない暮刃が人のためにこれほど柔らかく笑うことにイノは驚いた。
「ま、氷怜だってあの才能にも何だかんだ惚れ込んでるんでしょ」
「……まあな」
「退屈しないよねぇホント」
それぞれのやり取りを見ていたサクラは丁寧にお酒を新たに作り、氷怜たちに振る舞うと妖艶に微笑んだ。
ここでの彼女はいつもよりも動きが丁寧だ。
「私ね、人を見る目だけなら誰にも負けないわ。何か起こしてくれそうな事も、誰も引き出したことのない女の子の魅力まで引き出してくれるって感じたからこれは外れない。絶対にプラスに動かしてくれるわ」
イノもそれには同感だった。自分をそのまま魅力的に使う術を唯は無意識に使っている。あの暮刃も瑠衣すら動かしている秋や優もきっと同じように魅力的なのだろう。
そう思ったら氷怜を揶揄えると思ったイノは試すように聞いてみた。
「氷怜、あんだけ目の色変えてる奴が良いのかよ。そんな余裕ぶっこいてて」
サクラの作った酒を煽った氷怜はイノの目を見ることは無かった。それでもいつものあの偉そうな態度。
「余裕だって武器にしてやるよ」
ついにいつものニヒルな笑みを作った氷怜にイノは驚いたそんな事を氷怜にまで言わせるなんて想像もしていなかったのだ。暮刃も瑠衣もここまでチーム以外の他人に気にかけるような行動を見たことがない。
「お前ら……そんなんだったか?」
「骨抜きにされてんのはひさとダケ~」
「自分棚にあげてんじゃねぇ瑠衣」
言い合いを始める2人にイノはため息をついたが、サクラはご機嫌に話し出す。
「貴方の記録抜いちゃうかもよ?」
イノとしてもそこは気になるところだった。No. 1ホストとしてあの魅力から学べるものがあるのならば盗んでいきたい。
「そうなったらほんとにこっちの世界に入ってもらうわ」
「却下」
間髪入れずに答えた氷怜にイノは思わず吹き出した。
14
お気に入りに追加
1,368
あなたにおすすめの小説
一条春都の料理帖
藤里 侑
ライト文芸
一条春都の楽しみは、日々の食事である。自分の食べたいものを作り食べることが、彼にとっての幸せであった。時にはありあわせのもので済ませたり、誰かのために料理を作ってみたり。
今日も理想の食事を追い求め、彼の腹は鳴るのだった。
****
いつも読んでいただいてありがとうございます。
とても励みになっています。これからもよろしくお願いします。
眺めるほうが好きなんだ
チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w
顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…!
そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!?
てな感じの巻き込まれくんでーす♪
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
悪役令嬢の取り巻きBから追放された私は自由気ままに生きたいと思います。
水垣するめ
恋愛
ここはセントリア学園。
貴族から平民まで、様々な身分の人間が通う学園。
その中でもカーストのトップに位置しているマーガレット・エドワーズ公爵令嬢の取り巻きBをしているごく普通な私は。
──推しを見つけた。
主人公エマ・ホワイトは公爵令嬢のマーガレットの取り巻きをしていた。
マーガレットは王子であるルークと婚約していたが、ルークは同じ公爵令嬢のクレア・アワードに好意を寄せていた。
エマはマーガレットの取り巻きとして暮らす毎日を送っていた。
しかしある日、マーガレットの恋敵であるクレアの秘密を知ってしまう。
それは『美少女として知られるクレアが実は女装した男性である』というものだった。
秘密を知られたクレアはエマと共に行動するようになり…?
※「小説家になろう」でも先行掲載しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました
猫足
BL
「浮気したら殺すから!」
「できるわけがないだろ……」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。
「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」
「スバル、お前なにいってんの…?」
美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。
※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。
転移したら獣人たちに溺愛されました。
なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。
気がついたら僕は知らない場所にいた。
両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。
この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。
可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。
知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。
年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。
初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。
表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる