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仔犬

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「連れ戻してくるって……おい!待て!……行っちゃったし」


あーあと声を出したがその背中に届くことは無かった。イノが仕方なさそうに優と秋を見送ると動こうともしない暮刃と瑠衣を髪をかきあげながら怪訝な顔で見る。

「良いのかよ追いかけに行かなくて。すでに出てる唯はもとかく、あの2人が行った方が余計に……」

「まあここ、サクラさんのお店だから怪我とかするような事もないと思うし」

随分と余裕な口ぶり。瑠衣も真顔でケーキを頬張る。
イノは首をかしげたがその考えがすこし読み取れ、すぐに呆れかえった。


「……わざと2人に行くようにけしかけたのか?」

「けしかけたなんてひどいな。可愛い子には旅をさせろってね」



大して変わらないぞ。その視線を送っても暮刃はにっこり微笑んでお酒を煽り空になったグラスを置くだけだった。

すぐに動かなかったのは2人が連れ戻しに行くと分かっていたからだ。表情を引きつらせたイノに瑠衣がフォークを空中で回すと間延びした声をあげた。

「どうしようも無くなったら助けてあげようかな~仕方ないシ~」

もともと嘘か本気かわからない話し方をする2人だがこんなときにその捻くれ方をしなくても良いと思ってしまう。
しかし、口を出しそうになるがきっとこれまでもこんなことがあったのかもしれない。あの騒がしさといいどうにも目が向く3人なのだから。

暮刃が何かを思い出したのかくすくすと笑いだした。対して他人に興味を持たない暮刃が人のためにこれほど柔らかく笑うことにイノは驚いた。

「ま、氷怜だってあの才能にも何だかんだ惚れ込んでるんでしょ」

「……まあな」

「退屈しないよねぇホント」


それぞれのやり取りを見ていたサクラは丁寧にお酒を新たに作り、氷怜たちに振る舞うと妖艶に微笑んだ。
ここでの彼女はいつもよりも動きが丁寧だ。

「私ね、人を見る目だけなら誰にも負けないわ。何か起こしてくれそうな事も、誰も引き出したことのない女の子の魅力まで引き出してくれるって感じたからこれは外れない。絶対にプラスに動かしてくれるわ」

イノもそれには同感だった。自分をそのまま魅力的に使う術を唯は無意識に使っている。あの暮刃も瑠衣すら動かしている秋や優もきっと同じように魅力的なのだろう。

そう思ったら氷怜を揶揄えると思ったイノは試すように聞いてみた。

「氷怜、あんだけ目の色変えてる奴が良いのかよ。そんな余裕ぶっこいてて」


サクラの作った酒を煽った氷怜はイノの目を見ることは無かった。それでもいつものあの偉そうな態度。


「余裕だって武器にしてやるよ」


ついにいつものニヒルな笑みを作った氷怜にイノは驚いたそんな事を氷怜にまで言わせるなんて想像もしていなかったのだ。暮刃も瑠衣もここまでチーム以外の他人に気にかけるような行動を見たことがない。

「お前ら……そんなんだったか?」

「骨抜きにされてんのはひさとダケ~」

「自分棚にあげてんじゃねぇ瑠衣」


言い合いを始める2人にイノはため息をついたが、サクラはご機嫌に話し出す。


「貴方の記録抜いちゃうかもよ?」


イノとしてもそこは気になるところだった。No. 1ホストとしてあの魅力から学べるものがあるのならば盗んでいきたい。


「そうなったらほんとにこっちの世界に入ってもらうわ」

「却下」


間髪入れずに答えた氷怜にイノは思わず吹き出した。





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