sweet!!

仔犬

文字の大きさ
上 下
111 / 379
Peace!

6

しおりを挟む


「さんざんビクついてたクセに寝やがった……」


氷怜先輩に掛かればあの唯もウサギのようで、氷怜先輩の色気に当てられ固まったその反応を楽しむように氷怜先輩が煽る。
しかし、次第に唯その目がまどろんでついに穏やかな呼吸をし始めた唯に氷怜先輩が呆れたようにため息をつく。

思えば俺たちもそんなに寝てなくて、暖かさで眠気が来たのかもそれない。
でも普通寝ないよね、唯そういうところ。

それでも照れてる唯を見れたのはここ数年の付き合いでも氷怜先輩達に出会ってからだ。


「唯が男の人を意識してるだけでも異常事態ですから」

「だって、氷怜」

「…………はあ」


諦めたように顔を埋めた氷怜先輩はもう一度眠るようだ。肩を震わせて笑う暮刃先輩がまたやられたねと呟いたので首をかしげる俺。それがさ、と話し出した。

「昨日の夜もさ……君たちが寝た後に氷怜が唯構いにいったの、もちろん起こさないようにね。でも唯起きちゃって」

かちゃりと小皿を置いて代わりにグラスを持ち上げた。香りを楽しんで一口煽る。
暮刃先輩は一挙一動が綺麗。


「そしたら彼、寝ぼけてたみたいで氷怜押し倒したんだよ……あの子色気ある顔ちゃんと出来るよね」

「だてに女の子エスコートしてないですからね」

「でも案の定というか、氷怜の上が暖かいからか猫みたいにすりついてそのまま上で寝ちゃってね」

「……可哀想に」

俺の言葉に暮刃先輩がくすくすと笑った。
つまり今、押し倒したのは仕返しという事か。
結局また寝られてしまったわけだから、引き分けかな。


「氷怜先輩は……というか先輩達きっと死ぬほど経験豊富じゃないですか。優しいですよね。別にもう唯なんてあからさまに氷怜先輩大好きだし、それこそ恋人なんだから本当にぺろっと食べちゃえばいいのに」

「わあ、すごいこと言うね……」


あははと笑った暮刃先輩が俺の髪に指を通した。
宝石みたいな目が少しだけ力を入れる。この人意外と表情が出る。いや先輩達みんな表情豊かなんだけどさ。


「それ、俺に言わない方がいいよ」

「……誰か食べる予定でも?」


正直、わざと聞いてみた。
この言葉遊びに多分暮刃先輩は付き合うのだ。俺が避けないことも、目の動きも、どの程度の心構えなのかも全部知ってるから余裕なはずだ。
それに俺も色々見えてることもあれば考えている事もある。俺の性格は素直と好奇心が強めだ。

俺の言葉にグラスを口つけたまま、うーんと困った顔をする暮刃先輩。これがそんなに困ってないことはお見通し。

「まあ、前はね選んでつまみ食いしてたんだけど」

「へえ」

そりゃこれほどの美貌に器量、余裕を持っていれば選び放題なはずだ。まさかそんな話を聞けるとは思わず思わず食いついてしまった。


「ちなみにどんな人ですか?男の人?女の人?」

手をつけて覗いた俺に暮刃先輩がなんとも言えない顔をした。君たちそう言うところあるよねと小さくため息。こればかりは唯のせいではなく俺たちの共通の個性かもしれない。


「……せっかく話してるのにもうちょっと可愛い反応してよ」

「ええ、わがままですよそれ」


ほっぺた引っ張られてもしょうがない。こんな物語から出てきたような人の人生を覗き見したくもなる。

そもそも俺も秋も唯も嫉妬の感情を聞いた事がない。感じた事がないものは演技派ではない俺は表現出来ないし。

いつかする時が来るんだろうか。この人に。

いつのまにか考えにふけっていたのか暮刃先輩の声でハッとする。


「なんか」

「はい?」


にっこり。


「むかついた」

「え」



笑っているのに目が笑っていない。
すごいなこの人かなりの演技派だ。呑気に考える俺は顔に出ていたのかもしれない、暮刃先輩の瞳の色が濃く深まった。
しかもこんな綺麗で品のある人がむかついたって言ったのが面白くてついに笑い出してしまった。


「あはは」

「ここ笑うとこじゃないんだけど」

「だって……ははっ」

「まったく…………」



ツボに入ってしまってみんなが寝てるのに大きな声が出てしまいそうだったから、堪えるために手で抑えようとするとその手を掴まれた。

「その笑顔に惹かれたんだからしょうがないか」

暮刃先輩のいい笑顔にびっくりして笑いも引っ込む。
どれほどの経験でその甘い表情ができるのか。

息をする間も無く、暮刃先輩の唇で塞がれた。
そのまま移動して首筋にもリップ音。
最後は肩に顎を置かれ暮刃先輩の手が腰に移動していくと間に空間がないほど抱き寄せられる。


耳元で息がかかると甘い声がくすぐったい。



「優夜、君が欲しい」


返事の代わりにその背中に腕を回した。
全部伝わるように精一杯の力で。


しおりを挟む
感想 179

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

過保護な不良に狙われた俺

ぽぽ
BL
強面不良×平凡 異能力者が集まる学園に通う平凡な俺が何故か校内一悪評高い獄堂啓吾に呼び出され「付き合え」と壁ドンされた。 頼む、俺に拒否権を下さい!! ━━━━━━━━━━━━━━━ 王道学園に近い世界観です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

処理中です...