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仔犬

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元いた場所からかなり走ったが今のところ見当たらない。まだ氷怜の息は上がっていなかった。

これだけ人が多ければ捕まっているということもないだろう。うまく避けていけば人を壁に出来る。唯斗はあれでなかなか良い動きをする。

「だからって、こうもドラブルに向かって行かなくても良いんだけどな」

こんな状況だと言うのに口の端が上がってしまった。まるであの時の唯斗みたいだと。

あの時、元ネロに追われ壁にぶつかった唯斗を氷怜は見つけた。最初は様子を見るつもりだった。何か聞き出せればと思っていたのだ。
それなのに唯斗の顔を見た時に何故か目が奪われた。
中性的なその顔は睨みなど知らなそうなのに、煽りを含んで口の端を上げ、挑発したのだ。

それを見た氷怜は男がその拳を唯斗へ向けて握った時にはもうこちらから仕掛けていた。
氷怜自身もその時はよく分からなかったのだが、その後の唯斗の笑顔を見て納得したのだ。本能で欲しい、と最初からわかっていたのだと。
しかもそれが驚くほど大物で笑えてきた。そよ風なのに嵐のように爪痕を残していく。


エリアの情景が変わっていくと、一層人が増えた。氷怜も瑠衣には劣るが視力はいい方だ。まだいない。
疾走する氷怜に多くの人間が振り返る。その顔にもそのスタイルに誰もが目を奪われた。その中で1人だけ不思議な顔をした者がいた。

「さっきも走ってる人いたよね。二人組のカップルを男の子がすごい追ってて……」


氷怜の耳がそれを捉えた。足にストップをかけ少し戻り、その声の元に駆け寄った。耳をつけ、中学生のような幼い女の子の二人組は氷怜が自分たちの元に来たことに驚愕した。近づいてわかる足の長さにも息を飲む。


「そいつらどこに行った?」


なんとか答えたショートヘアの子が向こう、と指を指した。その方向には強大な迷路がある。逃げるには良いのか悪いのかよくわからない場所を選んでくれた。


「助かった」


短くそう告げまた氷怜は走り出す。



「え、今の人、芸能人?」

「あんな綺麗な顔の人居るんだ……」

氷怜達の名も知られていないほどの地方から来ていたらしい。そんな彼も、迷路の入り口に立つとその高さと長さに困惑した。せめて瑠衣がいれば。


「虱潰しに進んでくしかねぇな……」

「ひーいーーーーー」


間延びした声に氷怜が振り返る。秋を引っ張るようにして走る瑠衣の姿に良いタイミングだと氷怜が口端をあげた。

氷怜の元まで駆け寄ると秋が前屈みになって息を整える。瑠衣のスピードに合わせていたら当たり前の結果である。秋の背中を氷怜が撫でれば、どうにか深呼吸をして笑顔を見せ、体力的な面で秋はまだまだ伸びそうだと氷怜は感心した。


「こっち居なかった。ひーがここに立ってるって事はー?」

「おそらくここだな」

「なんでここ入んだよ、あほ唯……1時間級迷路だし」


出入りは自由だが、行き止まりに追い詰められたら1番厄介だ。

「とりあえず優達に出口で待っててもらいます」

秋が連絡を取るとすぐに返信が来たようだ。
瑠衣がまず歩き出した。

「本格的なラビリンスクエストだネ」

「すみません……」


反射的に謝る秋の頭をくしゃくしゃにして瑠衣が笑う。
 

「オレ迷路得意だから」

「え?」

「瑠衣、迷路で迷った事ねぇんだよ」



こういう時の野生の勘はよく当たる。



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