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しおりを挟む「まさか五周するなんて……」
カフェのテーブルで頰をつけてうなだれるおれは真冬だとゆうのにその冷たさに癒された。
超巨大ジェットコースターは世界でも指折りの高さを誇る。最初の落下地点でヒュンを体験し一回転やら小山をいくつも乗り越えて叫びまくってそろそろ元の地点、と思ったら乗り場を超加速で通り過ぎた。2週なのかと思ったら次も止まりやしない。
もはや故障かと思ったが4周目でも係のお姉さんはにこやかに手を振って超加速のおれたちを見送るのだ。
落ちるたびに叫んじゃって喉痛いし、お尻も痛い。やっと終わりを迎え減速し始めた時には涙ぐんでいた。
「今日オープン記念でプラス3周なんです!よかったですね!」
おれの涙を感動と履き違えたのか可愛らしいスタッフのお姉さんははにこやかにそう言った。なんとかお姉さんに満面の笑みで楽しかったと返すも、地面に降り立った時には平衡感覚を失っていた。
「う、気持ち悪い……」
「ジェットコースター好きでもあれは……」
近くのカフェで席を探してすぐに座り込む。
秋も優も青い顔で同じように項垂れたり背もたれに全てを預けているのに、同じ体験をした先輩達はけろっとしていた。
「大丈夫?すごかったね」
「唯ちんが叫びすぎてんのに笑いすぎたよネ」
もう条件反射で喉から溢れ出るんだもの。
氷怜先輩がおれの横にしゃがみこむと額に手を乗せてくる。その手が気持ちよくてすり寄った。
「少し休め、なんか飲みもん買ってくるわ」
「アリガトウゴザイマス……」
カスカスの声でおれが答えると瑠衣先輩がげらげら笑っていた。超絶美形もここまでくれば重力にも速度にも強いのかもしれない。暮刃先輩も瑠衣先輩先輩を引っ張り、氷怜先輩の後について行くと死にかけの3人が残る。
「生きてるみんな……?」
「かろうじて」
「同じく……」
左頰をテーブルにつけると頭が犬の先輩達がカウンターに歩いていく。こんな時でも、後ろ姿が可愛いもんだから頑張ってスマホを取り出して写メをした。でも画面みたら酔いが悪化しそうだからまた後で確認しようとテーブルにスマホを置く。
「……先輩尻尾あったらもうやばいよね」
「またそうやって邪な目で見る……」
「いやいや、純粋な眼ですよ」
もうおれの言葉に突っ込む元気もなくなった優がうつ伏せになってしまった、おれよりもかなり酔ったのかもしれない。
「優大丈夫か……なんだか耳も心なしか垂れて……」
「最初から垂れてるし……」
ダックスフンドだもんな。
秋もついにテーブルに倒れるように向き合った。おれも今度は右頬をつけて通りの方を見ると、ダルメシアンのカチューシャをつけた女の子が歩いていた。その姿はとてもかわいいが、キョロキョロと何かを探している。
テーマパークで1人というのも珍しい、まさかはぐれたのだろうか。すると後ろから男の人がその子の手を引いて歩き出す。なんだ彼氏さん待ちね、そう思っていたら女の子が手を振りほどいた。
ケンカップルなのだろうかと聞き耳を立てるとかすかに声が聞こえてくる。
「私、友達と来てるの……あの、ごめんなさい」
男がにやにやした顔でもう一回その細い腕を掴んだ、振りほどこうとするも今度は動かない。
もうこの時すでにおれの身体そこに向かっていた。
「いいじゃーん、別にー。あ、じゃあさ友達も一緒に回ろうよ」
「いえ、友達と回るので……」
「なあ、いいだろ別にちょっとくらいよお!」
「……離して!!」
叫びにも近いその声が目の前で叫ばれた。
こういう時は堂々と。それがおれのポリシーだよ。
「おっ待たせー!」
「あ?」
「え」
睨む男をよそに女の子の手を掴んで歩き出す。女の子はびっくりしているのかその顔は固まっている。それでも同じ方向に歩いてくれるのでありがたい。
「やーごめんね、携帯電源落ちててさ」
「おい」
「ね、次どこいく?」
「あ、あの」
「おい!」
振り向いたところで、どんな表情してるのか答え合わせが出来るだけだ。振り向きもせず早歩きでその場を離れる。
こんな幸せしかないワンダーランドで女の子の嫌がることやるのは駄目だろ。
それでも後ろから冷気を発した声がしつこく響くのだ。
「おい……聞けや?たまたま通った男がヒーロー気取りか?……ああ!!?」
今にも振りかざしそうな拳をしているはず。
このパターンはお決まりのアレですか。
それならまずは女の子の足元を確認。スニーカー、うん最適。スニーカーの女の子も元気な印象で可愛いな。
華奢なその手を引っ張り走りながら、少し振り返って笑ってみせた。
「ちょっとだけ一緒に走ってくれる?」
こんな状況でも必死に頷いてくれる女の子は強い。
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