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work!
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しおりを挟むあっという間に1時間が過ぎて、店内もまた活気を取り戻してきた。
紅茶を片手に視線を配った天音蛇先輩はすぐに気付いて獅之宮先輩と豹原先輩に退店を促した。
「そろそろお開きにしようか」
「すみません少ししか話せなくて……」
優の言葉にクスリと笑って唇に手を当てる。逆の手で優のほっぺを触って見事にこう言ってみせた。
「じゃあ今度はしっかり構って欲しいな」
「はい、もちろん」
さすが、優様は違う。スマートに返すんだねそういうのは。おれ一生優様のファンでいく。
「はいはい、くれちん口説きすぎー!」
特に興味もなさそうに豹原先輩が入口の方に歩いていく。獅之宮先輩が会計へと向かうと春さんが笑顔でプレゼントと言っていた。おれが払っとこうと思っていたが春さんには敵わない。
おれは横でペットさながら春さんに吠える。
「春さんありがとうございます!今日もさらに頑張って働きます!」
「もう十分過ぎるくらいだけど、よろしくね」
えへへと笑う春さん、癒し系として一家に一台置きたい。
「獅之宮先輩どうぞ~」
カランと音がなってドアが開く。立っている先輩達が私服姿なのは改めて死ぬほどかっこいいのだこれが。
外はまだ日が高く気温も高いが、風は刺すように冷たい。こんな日にあの先輩達が会いに来てくれるなんて想像も出来なかった。
「こんなところまでありがとうございました……感謝感激雨あられ……!」
おれの口が滑ったので秋と優が笑顔でチョップを入れてきた。地味に痛い。でも後悔はありません。
「どういたしまして」
「楽しかったヨ」
「……」
珍しく何も言わずに獅之宮先輩が見つめてくるので首を傾げた。
「獅之宮先輩?」
「……氷怜な」
「え?」
「ほら言ってみろ」
その口を使って、と顎を掴まれたおれはよくわからないまま復唱した。
「ひ、氷怜……しぇんぱい?」
「先輩もいらねぇけど……付けたいならいいか」
さぞマヌケ顔のおれにどこまでも真っ直ぐな瞳。なに、なんて言われた。名前?氷怜……先輩。呼べってこと??あの先輩がお願いした…………?
「えええ、そのお願いの仕方ずるくない……………?」
顔を隠してへたれ込んだおれを一番最初に笑ったのは秋と優だった。多分涙を流して。
「唯、顔、真っ赤じゃん!?」
「あの唯が一撃……ふっ……あはは!」
あーはいはい、見なくても分かるね。
腹抱えて爆笑ね、面白いですかそうですか。だってずるくない?ビビビッてきたほどの人に名前呼びおねだりされたんだよ?無理でしょ、可愛過ぎでしょ?でも超かっこいいんだよ??
「うわ~笑えよ!もっと笑えばいいでしょ~」
恥ずかし過ぎて目が潤んできた。いいんだけどさ、顔あげられないよね。
「お前ら笑い過ぎ……お前らも名前で呼べよ」
「あはは!……え?」
「いや流石にそれは……」
「なあ?瑠衣、暮刃?」
誰かがうずくまるおれを立たせて俯向く顎まで上に向かされた。氷怜先輩だ。
「そうだね、俺達勝手に呼ばせてもらってるし」
「しょうがないから呼ばせてあげよ~」
あ、これおれより恥ずかしい奴じゃない?だってあんなにカッコいいこの世ではありえないくらい整った人が名前呼びを許してるんだよ?
ねぇ、ほら顔赤くしていいんだよ。
あき?ゆう?
「暮刃先輩」
「瑠衣先輩」
「えええ!!超ドライ!!」
裏切られた……さっきまで一緒に働いてたとは思えない。もはやショックで氷怜先輩の腕の中にいたことを忘れてしまった。
「いや、唯が恥ずかしがり過ぎでしょ……」
「なんか思ったけど唯って男限定で面食いなんじゃ……」
「……へぇ?」
「え、ちが!う!?」
おれはここで初めて氷怜先輩の顔を見た。端正で妖艶で綺麗なその顔が目の前にあった。息がかかるその距離で唇が動く。
「オシオキ」
触れるだけのキスがこんなに甘かったこと今まであっただろうか。
「また連絡する」
「じゃーねぇ」
それぞれが手を振っておれはしゃがみながらもなんとかお見送りをした。親友2人からの目が痛い。
「なにもいわないで……」
それでも2人は口を開いた
「真のフェミニストはイケメンに死ぬほど弱い」
「そのことわざ、唯の部屋に貼っとこ?」
やめてくれ!
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