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territory!!
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しおりを挟む「完璧だ……」
元々のメークの上に重ねる時は厚塗り感を出さないように、黒のドレスに大人っぽいメイクなら艶肌にしよう。チークは薄めに、そのぶんピンクと赤のグラデーションリップで唇を印象的に。目元にラメを足して、目尻のラインを少し下げれば思わず抱きしめたくなる女性の完成だ。
「やだ、どうしてこんなに上手なの唯斗くん!」
鏡を顔の前に合わせてサクラ姉さんが声をあげた。変身を喜ぶ女性は可愛いなぁ。とは言えサクラ姉さんの元が良すぎて驚いたのもまた事実。
メイクが終われば次は髪の毛だ。これはもう絶対アップ。顔まわりにねじ込みを作って後ろでひとくくりに。後れ毛を出して、全体を少し崩していけばルーズに色っぽさがでる。大ぶりなピアスも映えて一石二鳥。
「うん、本当に綺麗。絶対素敵な夜になりますね」
おれの言葉に秋と優が横から覗き込んで深く頷いた。
「花も霞んで見えます……」
「サクラ姉さんの彼氏さんもびっくりですね、また綺麗になったって」
賛辞を並べるおれたちにまた少し引き攣った顔をしたサクラ姉さん。何か気に障っただろうか。
「貴方たち本当に高校生とは思えない言葉選びね……でもすっごく素敵!これならプロポーズされる気がしてきわ!」
「プロポーズ?!」
ガッツポーズで重大なことを叫ぶので足の力が抜けそうなった。サクラ姉さんは意気揚々と出発の準備をし始める。
「もうね、ずーーーーーーーーーーっとまってるの彼からのプロポーズ。ほんっとに意気地なし!」
それでも声は弾んでいる。愛しい人を思い出したのだろう。
「好きなんですねぇ」
「私は何事もパパッと決めちゃいたいんだけど、それなのにあんなぽやぽした人好きになっちゃって……でも本当に優しいの彼」
困ったような照れたような顔でコートを羽織る。
恋する乙女は美しいな。
「きっと素敵な人なんですね、サクラ姉さんみたいに」
「………ねえ、貴方たち本当に私の店で……」
「駄目だ」
真剣な眼差しのサクラ姉さんの言葉はまだ聞きなれない低音ボイスで遮られた。
一斉にドアに向いた視線の先に、獅之宮先輩が立っていた。ドアに寄りかかり不機嫌そうに。
「おっそい!氷怜くん!遅すぎよ!」
プンスカ怒るサクラ姉さんを綺麗にスルーして先輩がおれたちの前に来た。申し訳ないと眉を寄せている。
「悪かった、待たせて」
「楽しい時間でしたよ!」
両手で拳を作ったおれの表情に甘い笑顔が返ってくる。ああ今度こそちゃんと受け止められる。
頰に獅之宮先輩の手が添えられるとその光景を昼ドラを見る主婦のようなキラキラした目でサクラ姉さんが見ていた。
「なになになに氷怜くんなにその顔!私の目は誤魔化せないわよ!貴方達そうなのね?きゃーステキ!」
おれに抱きついたサクラ姉さん。柔らかくていい匂いめっちゃするなぁ。氷怜先輩がべりっと音がするようにサクラ姉さんを引き剥がすと今度は先輩に抱き寄せられた。ああ、素晴らしい安定感、こちらも当たり前のようにいい匂いするなぁ。
「サクラ……何でお前が居るんだ」
「なにって貴方達に……あ、見て!ヘアメイク全部唯斗くんしてくれたのよ!」
先輩の腕の中で回転して顔を出すと、くるくる回ってサクラ姉さんが先輩に見せていた。可愛らしい人だなあ。
「……唯斗がやったのか?凄いな」
「美人なサクラ姉さんお手伝いできて光栄です」
「……」
おれの顔に何か付いているのだろうか。みつめられたまま先輩はなにも答えない。だが瞬間、すごい速さで獅之宮先輩が強い力で引っ張られた。獅之宮先輩を少し低くさせて真剣な顔でサクラ姉さんが言った。
「……この子ものすごい天然タラシが入ってるの知ってた?氷怜くん…」
「え、誰がですか?秋?優?」
おれの言葉にサクラさんが面白そうに、先輩が眉を寄せていた。何か間違ったことを言っただろうか。
開けっ放しのドアから足音がいくつか響いてくる。みんなが戻ってきたのだろう。
「あーサクラちゃんじゃーん」
「あ、豹原先輩」
「サクラちゃん元気でしょ?」
ドアから1番に入ってきた豹原先輩は秋の前まで来ると秋のほっぺをつねりイタズラっ子の顔。
「待たせてゴメンネ」
「やってる事と言ってる事が合わない気がする……」
赤羽さんを後ろに天音舵先輩がドアから顔を出した。騒がしさに何事かとすぐにサクラ姉さんを見つける。それにしてもだれも姉さんと付けていない。
「あれ、サクラさんいつもと雰囲気が違うね。綺麗だよ」
さすが天音蛇先輩!なんてスマートな気付きからの褒め方。やはり貴公子は違うな。サクラ姉さんはありがとうと笑顔を返す。
天音舵先輩は少し離れた場所にいた優の隣に行くと、優が補足情報を教えていた。
「唯です」
「へえすごいね!」
「サクラ姉さん、おれがやるまでもなく飛び切りの美人ですから」
褒められてにっこり笑えばまた、天音蛇先輩は笑顔のまま固まってしまった。おれの顔はそんなにおかしい事になっているのだろうか。今日から表情筋トレでもしようかな。
ふと時計を見ると10分ほど経っている。そこでサクラ姉さんの重要なミッションを思い出した。
「サクラ姉さんデートは大丈夫ですか時間とか!」
「え、ああ!行かないと……」
あとは出るだけの格好だったのだから、それなりに切迫しているはずだ。
「唯斗くん、これ本当にありがとう。頑張るわ!」
男らしく拳を握ってみせたがどちらかと言えば頑張るのは男性の方なのかもしれない。
それでも恋する女性は必ず応援する。
サクラ姉さんの拳ともう片方の手も取って両手で包み込むといつのまにか横に来ていた秋と優も同じように手を包む。
ふたりと目を合わせて、呼吸を合わせた。
「素敵な夜を、サクラ姉さん」
「……やっぱりうちのお店で」
「早く行けサクラ」
またもや遮られたサクラ姉さんは頰を膨らませて獅之宮先輩を睨む。睨んでても可愛らしい人だなぁ。
「はあ、嫉妬深い番犬がいるし今は諦めるわ。唯斗くん秋裕くん優夜くんまたお話ししましょ?」
「はい!喜んで」
手をするりと抜くとおれたちに向けられたサクラ姉さんの笑顔が一変してまた、プンスカモードに戻ると先輩達を掴んで廊下に連れ出していく。
「こんだけ待たせたんだからお見送りくらいしなさいよね!あ、唯斗くんたちは良いからね!あ、お店のこと気になったらいつでも来てね!」
「ダメだって言ってんだろ……」
獅之宮先輩が引っ張られながらも眉間にしわを寄せてすぐ戻ると告げた。サクラ姉さんが大きく手を振るのでおれたちもブンブン手を振ってお別れ。ドアが閉められるともうなにも聞こえない。残されたのはおれと秋と優と赤羽さんだ。
「相変わらず嵐のような人ですねサクラさん」
「あれ、結局なんの人だったんだ?」
「俺たちの協力者ですよ。有力なね」
おれの呟きに笑顔で赤羽さんが応えてくれた。
先輩のチームの一員、という事だろうか。結局はいろんな情報が分からないままだが、素敵な人に出会えたので良しとした。無理に聞いても意味はないだろう。
「協力者……じゃあお店ってなんですか?」
「ホストですよ」
「え?」
「サクラさんが経営してるホストクラブです」
サクラ姉さん、それは無理そうです。
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